| 昼時間になって食堂に向かう。 学園の生徒全員を収容することも可能な大きな食堂。 「今日は何を食べようかなー」 あたしがそういうと 「頭痛はどうした、頭痛は」 と隣を歩く不知火が苦笑する。 「薬が効いてるから安心」 そう返して、ふと視界に入った男子が気になった。 「ね、不知火」 制服の袖を引いて声を掛けると「何だ?ああ、四季じゃないか」とあたしが見ていた男子生徒の存在に気付いた。 ズキンと頭が痛む。 薬、効かないのかな... 「おーい、四季」 不知火が声を掛けると酷く緩慢な動作で彼が振り返った。 神楽坂四季。彼は星詠み科の1年で特待生入学している。あたしと一緒だ。 あたしたちが彼の元につくと 「寝てる...」 たったまま寝ていた。 「おい、四季。立ってるときくらいは起きろ」 「起きてる基準はそれで良いの?!」 思わず聞くが不知火は特に何も返さなかった。 「あ......オヤジ、と、流れ星」 「不知火、オヤジだって」 「うっせー。って、が流れ星なのか?」 神楽坂くんは頷いた。 「まあ、いいけど。お昼まだでしょう?一緒にどう?」 聞いてみるとコクリと頷いた。 「よっし、んじゃ。とっとと食堂に行こうぜ」 「あたし、先に席とっとく。今日はうお座定食。後で払うわ」 「わかった。じゃあ、頼むな」 そんな会話をして食堂に向かった。 席を取っていると神楽坂くんがやってきてストンと座る。 「あれ、何も食べないの?」 「オヤジが、一緒に持ってくるって...」 「大丈夫かなぁ」 「なあ、アンタ」 神楽坂くんがじっとあたしを見てる。 「なに?」 「流れ星が輝くのは、一瞬」 ズキンとまた頭が痛む。 「な..に?」 神楽坂くんって結構ぼそぼそしゃべるから聞き取れないときがある。 その点、不知火は全部聞き取ってるから凄いよなぁ... 「......なんでも、ない」 「そう?」 「おーい、待たせたな」 そう言って器用に3人分の定食をトレイに載せて不知火がやってきた。 慌ててひとつを受け取ってテーブルの上に置く。 「んじゃ、食おうぜ」 「いただきまーす」 神楽坂くんは相変わらずで、食べながら寝るし、寝てると思ったら起きてるし、で中々食事が進まない。 けれども、チャイムが鳴るまでには完食しているのだからそれはそれで凄い。 トレイを返却口に返して食堂を後にし、睡魔と闘う午後の授業に臨むべく教室に戻った。 放課後になって図書館に向かった。 蔵書数が半端ないここの図書館はあたしのお気に入りだ。 まあ、全寮制で田舎で娯楽がないんだから、せめてこういう施設だけでも満足させてもらいたいと思ってもバチは当たらないと思う。 「先輩?」 声を掛けられて振り返ると1年神話科の青空くんが立っていた。彼は生徒会執行部の副会長なので、これまた不知火経由の知り合いだ。 「あれ?今日は生徒会活動があるよね?」 さっき教室で不知火がそんなことを言っていたはず。 「ええ。ちょっと課題で必要な本がありましたので。生徒会活動が終わってからでは図書館が閉まっている可能性もありますし」 そんな青空くんの答えは至極尤もで「そか」と納得してしまった。 「先輩は?」 「ああ、あたしは単なる趣味」 手に持っていた本を軽く掲げてそういった。 彼はあたしの手にしている本を見て「一樹会長にも聞いたことがあるんですけど、経済に興味があるんですか?」と聞かれた。 「あー、そこそこね」と言葉を濁す。 ...なんで濁すんだろう。 「そうですか」と青空くんはこれ以上追求することなく頷いた。 「あ、そうだ。あたしも不知火から聞いてたんだけど。青空くんってピアノが弾けるってホント?」 「...ええ、まあ。お聞かせするようなものではありませんが」 「けど、不知火は『一聴の価値あり』って言ってたよ?」 「『一聴の価値あり』、ですか?」 首を傾げて彼が言う。確かに、たぶん、正しい日本語にはない。 「『一見の価値あり』ならぬ、『一聴の価値あり』だそうよ。ピアノの旋律だから、見るんじゃなくて、聴くんだって」 青空くんは、言葉の意味にやっと納得したように頷き、「僕の音なんかをそんな風に仰っていたのですか?」とやぱり謙遜する。 「だから、今度聴かせてね」 暫く沈黙していた青空くんは「ええ、機会があれば」と当たり障りのない返事をして、「では、僕はこれで」といなくなった。 あたしも本を3冊借りて寮に帰ることにした。 |
桜風
12.
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