| 7月に入るとすぐに七夕がある。 星にまつわるイベントだからこの学園が逃すはずがない。 中庭に大きな笹を設置して誰でも短冊に願い事を書いてつるすことができるのだ。 「珍しいな、こんな時間に」 驚いたように不知火が言った。 たしかに、こんな時間にあたしが此処に居るのは珍しい。 部活をしているわけでもなく、委員会や生徒会の役員をしているわけでもない。 「教室に残って課題をしてたら、何となく眠くなって気が付いたら見回りに来た警備員さんに声を掛けられて今が帰り。不知火は?」 うっかりウトウトとしてしまった。 「俺は生徒会の仕事の帰りだ」 「不知火はサボるから大変だって聞いたことがあるんだけど...?」 「誰に聞いた?」 「風の噂よ」 そう返すと不知火は「ったく...」と溜息を吐きながら俯いた。 「ま、良いけどな。ちょうど良い。なあ、短冊に願い事書いていこうぜ」 「あたし、自分の願い事を見られるのが嫌いだからパス」 「俺に捕まったのが運の尽きと思って。ほら、行くぞ」 確かに、運の尽きらしい。 笹の傍には机が設置してあって短冊が置いてある。 「ほら」とマジックペンと短冊を渡されて観念した。 何にしようか... 無難なのにしよう そう思って書いた文字は4文字。 「お、早かったな..って。お前...」 呆れながら苦笑を漏らす不知火にあたしは得意になった。 「規模が大きくて素晴らしいと思わない?」 そう言うと 「それ以前の問題だ」 と言われた。 あたしが書いたのは『世界征服』だ。 「征服してどうするんだよ」 「さあ?興味ないなぁ...」 「せめて、そこは『世界平和』だろう」 「それって普通じゃない?」 「普通で何が悪い」 「じゃあ、不知火は?」 そう言って不知火の手元を覗き込む。 「不知火って、意外と字が汚いね...」 「うるせぇ!」 「で?『あいつらが幸せになりますように』ですかー...あいつらって生徒会執行部の可愛い後輩たち?」 聞いてみると 「...そうだよ」 となぜか少しだけ間が空いた。 「どれだけ『お父さん』なのよ」 呆れて返すと不知火は「良いだろう!」と言う。 ま、不知火らしいっちゃらしいけどね。 あたしの分も不知火にお願いして高いとことにつけてもらった。 「こいういうとき、金久保が居たら助かるのに」 「俺につけさせておいて、誉の名前を出すなよ」 少し不満げに不知火が言う。 「ごめんごめん」と軽く返して空を見上げた。 「晴れてよかったね」 「そうだな。星逢いの夜は晴れてると安心するな」 星逢い? 「星逢い?」 「まさか、お前知らないとか言うなよ。何年星月学園の生徒をやってるんだよ」 心底呆れたような不知火に慌てて「ど、ど忘れよ!」と返す。 「星逢いの夜ってのは七夕のことだろう」 「あ、織姫と彦星が年に1回会えるから...ホントに1回だけなのかな??」 実はこっそり会ってんじゃないの? 「天帝が見張ってるんだったらやっぱ、年に1回じゃないのか?」 「あそこには電話もメールもないだろうし。ホントに1回なんだろうね...」 年に1度しか会えないってどんな気持ちなのだろうか。 確実に1回は会えるから良いと思うのかな? いつまで年に1回なんだろう... 「俺だったら...」 不知火が不意に言う。 「ん?」 「俺だったら、1年に1回なんて無理だな」 「じゃあ、どうするの?駆け落ち?」 「...運命が俺達を引き離すなら、その運命を俺が変えてやる」 自信に満ちたその声音にどきりとした。 あたしが言われているわけじゃないのに、なんでこんなにドキドキしてるんだろう。 「すっごい自信」 「まあなー。は?お前は1年に1回で良いのか?」 「まずは、泳げるか考えるかな?」 「...泳ぐって、天の川をか?お前、泳ぐの得意なの?」 「ううん、そうでもない。けど、諦めることができるのかなって。とりあえず、何かしてみるかもしれない。諦めて泣くのだけは..かっこ悪いから一番最後にしたいな」 「らしいな」 苦笑交じりに不知火が言う。 「そう?」 「ああ、お前らしいよ。んじゃ、帰るか」 促されて寮に向かう。 不知火とのんびり星空を眺めながら織姫と彦星に想いを馳せた。 |
桜風
12.7.6
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