| 受験のまずは第一弾、センター試験を終えて、生徒会的には次期生徒会長を決めるための選挙戦が始まる。 準備に追われ、風の噂で聞く青空くんとのこともあるのか不知火は多少の疲れを見せている。 あれだけバイタリティがあるのに、疲れを見せていると言うことは、精神的なものが大きいんだろうな... しかし、蓋を開けてみたら結局青空くんが後任で、不知火が目指した未来がそこにあった。 「不知火?」 「うお!?」 珍しく、こそこそとしていると思って声をかけると思い切り驚かれた。 「何してるの?」 「チョコ隠しだ」 ああ、今年もやるんだ... 「もう生徒会長じゃないんだからイベントごとに口を出すのはどうかと思うよ?」 「うるさい!何のイベントをなくしてもこれだけはなくさないでくれって颯斗に頼んだんだ」 「月子ちゃんがいるから盛り上がるイベントでしょう?」 女子がいないのに盛り上がるのだろうか... 「良いんだよ!こういうのは騒いだもん勝ちだ」 「...かもね」 「なあ、」 「んー?」 寮に帰ろうと思ったら不知火が名前を呼ぶ。 「なに?」 「あ、いや。やっぱいいわ」 そう言って不知火はその場から急いでいなくなった。 ま、良いけどね... 寮に戻って冷蔵庫からチョコレートを取り出す。 簡易キッチンだからそんな難しいものは作れないし、元々そんな腕前は持っていないから諦めるとして。 何か思い出に残るものをプレゼントしようと思った。 あたしは、夏にピアスを貰ったけど不知火には何も返していない。 物を、と思ったけど。不知火のあたしに関する記憶がなくなるとしたらそれはただのガラクタになるから。 だから、消費されるもので、記憶として残ってくれるものの方がずっと良い。 翌日、バレンタインイベントでゴタゴタしているのが終わってから生徒会室を覗くと不知火がソファに寝転んでいるのを見つけた。 他の子達はどうしたんだろう... 「不知火?」 「んー?何だ、か。どうした?」 ゆっくり体を起こして不知火が伸びをする。 「これ、日ごろの気持ちを込めて」 そう言ってあたしは小さい箱を渡した。 「なに?日ごろの気持ちってどっちだ?良いのか悪いのか分らないぞ?!」 「それは、不知火の日ごろの行いに準じるものだから...」 そう言うと 「ちょ、ちょっと怖いな」 と言いつつ受け取ってくれた。 「開けて良いか?」 「大したもんじゃないよ」 箱を開けた不知火が「意外だな」という。 「なにが?」 「あ、いや。ちょっと、正直嬉しいと言うか...」 「不知火が正直だとこっちも怖いんだけど...」 「うるせぇ!良いだろ、今日くらい」 「いいよ、今日くらいなら」 そう返すと不知火は苦笑して箱の中のチョコを口に運んだ。 「意外に...」 「美味しいでしょう。崇め奉って良いよ」 「やだよ」 あたしの言葉を即否定して2つ目に手を伸ばしてやめた。 「どうしたの?」 「勿体無いからあとでゆっくり食う」 「そ?ねえ、帰らないの?」 「帰る。ちょっと待ってろ」 そう言って不知火は戸締りの確認をして鞄を手にした。 真っ暗な廊下を並んで歩く。 「そういや、は受験しないんだったっけ?」 「うん、諸国漫遊する」 「どんなご身分だ」 「ははっ。不知火は?」 「ちょっとな、政治に興味があるって言うか...」 「政治?政経学部?」 「や、法学」 「...政治って言うか、弁護士?」 そう聞いてみると「ああ」と頷いた。 「なるほどねー。らしい、って気がする」 「そうか?は経済が向いてると思うな」 不知火が読んでいる新聞を借りてたまに読む。確かに、それを読むときはまずは経済欄から目を通すのがクセになっている。 「向いてるかもね。嫌いじゃないよ。先を読んで自分が思ったとおりになったら面白いし」 「そんな感じだよな」 苦笑して不知火が言う。 「ねえ、不知火」 「んー?」 「あたしのこと、忘れないでね」 「はあ?」 不知火が驚いたように声を上げた。 「簡単に忘れられるかよ」 その一言が、とても嬉しかった。 |
桜風
12.8.10
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