| その日は空が重かった。 空気は刺すように冷たく、きっと雪が降るなと思っていた。 昼過ぎになり、雪が降り出す。 はらはらと花弁のように空から白い雪が舞い落ちる。 軒下から空を見上げると鼻の頭に雪が降りる。 冷たい。 先ほどから吐く息も白く、冬だなと改めて感じた。 夕方になり、回廊を歩いていると「 」と声を掛けられて振り返る。 そこには、この邸があまり風流ではないという理由で逗留されることが殆ど少ない龍蓮兄様がこれまた目を引くような出で立ちで立っていらっしゃる。 「おひさしぶりですね、龍蓮兄様」 「ああ、久しぶりだな。兄妹久々の再会を祝って一曲!」 そう言って懐から笛を取り出した。 あー...はい。謹んで拝聴したしましょう。 覚悟を決めて目を瞑ると「ただいま」と柔らかな声が耳に届く。 「楸瑛兄様!お帰りなさいませ」 龍蓮兄様は少し面白くなさそうな表情を浮かべて笛を懐に仕舞った。 「よろしいのですか?」 「愚兄その4は風流を解さないからな」 龍蓮兄様の言葉に楸瑛兄様は溜息を吐いて「それは、すまないね」と返している。 「龍蓮は、いつ貴陽に来たんだい?」 そういえば、いつだろう。 龍蓮兄様を見上げると「ほんの数刻前だ」とやはり少しだけ拗ねたように仰った。 「何の用で?」 尚も話を続ける楸瑛兄様にくるりと背を向けた龍蓮兄様は 「愚兄その4には関係ない。安心しろ、何か気にしなければならないことがあるわけじゃない。ちょっと心の友その1の食事を口にしたくなったのだ」 と言って横笛を取り出し、口に当てる。 「そういえば、龍蓮兄様。よろしければお饅頭、どうですか?紅秀麗様のお食事を召し上がる前ですから、今回はやめておきます?」 今日は寒いから温かなものを、と思って先ほど作ったのだ。 「蒸かすのに、少し時間が掛かりますけど...」 笛を吹くために息を吸った龍蓮兄様は、ピタリと一呼吸置いて笛を下ろす。 「 の饅頭は久しぶりだ。我が心の友その1に比べると多少劣るが美味い。頂くこととしよう」 「楸瑛兄様は?」 「勿論頂くよ。 の作ってくれた美味しい饅頭だからね」 ニコリと微笑んでそう仰る楸瑛兄様に微笑み返して庖厨へと向かった。 昼過ぎから降っている雪は庭院を白く塗り替えている。 蒸かしあがった饅頭を持って兄様たちがいるであろう室へと向かった。 しかし、そこには誰もいない。 「あれ?」 「こっちだよ、 」 庭院から声がして覗き込むとそこには楸瑛兄様と龍蓮兄様がいる。 「何をなさっているのですか?」 「雪ウサギを、ね。 は好きだったろう?」 幼い頃、何度か兄様たちが作ってくださった。 翌日には大抵形が崩れていてそれが寂しくて泣いたこともあったことを思い出す。 「はい」 「よかったら、 もおいで。一緒に作らないか?」 「はい!」 懐かしくて、嬉しくて庭院に出た。 雪を踏む感触が何だか懐かしい。子供の頃は本家の庭院の中だったら好きに遊ばせてくれたけど、今はそうは行かない。もう無邪気な子供ではないのだから。 大人になるって何だか寂しいな、と少しだけ思った。 「南天を取ってきたぞ」 そう声を掛けてくださった龍蓮兄様を振り返ると、南天は頭に刺さっている。 「可愛らしいですね」 小さな赤い実が目を引く。 「うむ。この庭院全体は風流ではないが、ひとつひとつとってみれば多少は風流なところがあるな」 満足そうにそう仰る龍蓮兄様に、「あー、そうかい。ありがとう」と楸瑛兄様が少し項垂れてそう呟いた。 雪ウサギはたくさん作った。 というか、いつの間にかたくさんとなっている。 「 、この雪ウサギをひとつもらっていいか?」 龍蓮兄様の言葉を不思議に思ったけど頷いた。 「心の友その1の家に土産として持っていこうと思う」 「なるほど。喜んでくださるといいですね」 「あー、秀麗殿の家に行くのだったら、食材ももって行きなさい。そっちの方が喜ばれるから」 楸瑛兄様の言葉にはどうやら耳を貸すつもりがない龍蓮兄様は返事をしない。 慣れている楸瑛兄様も肩を竦めるだけに留めてそれ以上何も言わない。 「さあ、 のお饅頭を頂こう。少し冷めてしまったかな?」 楸瑛兄様に促されて庭院から邸に上がる。 やはり、少し冷めてしまったからまた蒸かしなおして、温かいお茶とともに頂いた。 |
桜風
08.12.1
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