優しい月の光





夜歩くと、地面に影が浮かんでいる。

ああ、そうだった...

空を見上げるとほぼ円になった月が浮かんでいる。

「意外と眩しいな...」

手のひらで影を作ってその月を眺めた。

「そろそろ中秋の名月だな」

隣を歩いていた人物が呟く。

「そうですね、お団子作らないと」

の言葉に隣を歩いていた人物が小さく噴出した。

首を傾げながら見上げると、優しい月の光を受けた顔がこちらを向いている。

いつもは個性的な仮面を被っている彼も、夜半の外出のときには流石に仮面を外している。

一応、折りたたみ式の仮面は用心のために持っているが、それは飽くまで誰かに会ったらすれ違う人が大変だから、という配慮によるものだ。

本人は仮面のないほうが楽でいいと思っている。

しかし、彼の素顔は免疫がないとその顔を一目見ただけでぶっ倒れるという話を聞いた。勿論、その情報源は彼の親友である。

『親友』というのは、隣を歩く黄鳳珠と紅黎深共に認めていない間柄だろうが傍から見たらその評価に対して異を唱えようとは思わない。

軽く厭味を口にし合えるという間柄なのだから、『親友』でいいと思う。


は、食い気が先に来るな」

以前、桜の花の蕾が膨らんできたのを目にしたときも「お団子作らないと」と呟いたのだった。

「だって、美味しいものを食べながら綺麗なものを見たら幸せな気分が倍増しませんか?わたしはします!」

力強くそういう
に苦笑して鳳珠は「そうか」と返事をした。

「でも、鳳珠様とお散歩が出来て嬉しいです」

そう言って
は鳳珠を見上げて言った。

彼女に気づかれないように鳳珠はそっと溜息をつく。

ここ数日彼女が毎晩屋敷を抜け出しているのは門番にも聞いたし、自分でも気がついていた。

ひとりで夜歩きをさせて何かの事故に巻き込まれてしまったら後悔してもしきれない。

夜の散歩はやめろ、と何度か注意をしたがちっとも聞かない。だから、仕方なく鳳珠も夜の散歩に付き合うことにしたのだ。

自分が一緒に居て何かに巻き込まれることはないだろう。

巻き込まれたとしても、何とかする自信はあるから。


「わたし、昼間のお日様よりも夜のお月様の方が好きです」

不意にそう言った
に視線を向けた。

「そうか」

鳳珠は応えながら
の頭を撫でた。

鳳珠の大きな手で頭を撫でられている
はくすぐったそうに目を細めながらそれを嬉しそうに受けていた。

「だって、お月様の方が鳳珠様みたいですから」

先ほどの自分の発言の理由を口にした
に鳳珠の手が止まる。

「私、みたいだと?」

「はい!無駄に主張せずに静かに優しいんです」

まっすぐ自分を見上げてそういう
に鳳珠はまた手を伸ばして の頭を撫でる。

心持ち、彼女が俯くように力を入れて。

「い、痛いです。鳳珠様?!」

の抗議は少しの間流され、やがて鳳珠の手が の頭から手へと移動した。

「行くぞ」

そっけなくそう言って鳳珠は
の手を引いて足を進める。

「はい!」

は嬉しそうに返事をして歩調を合わせてくれている鳳珠と共に夜の散歩の続きを楽しんだ。









桜風
08.9.1


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