| 本日、後宮全室掃除をするとなっている。 年末恒例の行事のひとつだ。 この日ばかりは も部屋を追い出される。 大抵、元後宮筆頭女官の実家に避難するのだが、今年はそうもいかない。 その元後宮筆頭女官の実家がなくなってしまったからだ。本人も病で亡くなったし頼ることは出来ない。 の存在は秘匿事項で朝廷内でも先王の側近であった朝廷三師と歴代の後宮筆頭女官にしか知られていない。 最初、『霄太師の家に避難してもらう』という案が出たが「そんなところに厄介になるくらいなら首を括ってしまった方がマシ」と訴えれば納得してもらえた。 「庭院の隅で小さくなっておくわ。私の室は小さいからすぐに終わるでしょう?」 「...かしこまりました」 現筆頭女官の珠翠は恭しく頭を垂れた。 宣言したとおり、 が庭院の隅で小さくなっていると「 ?!」と声をかけられて慌てた。 振り返るとこの国で最も身分の高い王様が目を丸くして立っている。 「劉輝様」 「どうしたのだ?今はまだ昼間だぞ?出てきても良いのか?」 困ったなぁ、と は苦笑した。 劉輝にとって は『幽霊』なのだ。 幽霊が真昼間からこんなところに居てはいけない。 「あ、えー..まあ。わたくしくらい熟達した者となればこんなお日様の光くらい..今の時期なら...」 そんなに日差しも強くないし、と思いながら はしどろもどろに答えた。自分がこんなにうろたえるなんて物凄く珍しいと思い、少し感心しながら。 「そうなのか。凄いな、そなたは」 心から感心した瞳を向けられる。 な、何か...良心が痛む。 そっと視線を逸らして戻すと、劉輝がじっと見ている。 「何か?」 「うむ。そなた、今時間はあるのか?」 「...はい」 追い出され中です、とまでは言わずに頷いた。 「実はな、そなたは知っているか?愛のわら人形のこと」 「...わら人形?愛??」 『わら人形』なら聞いたことがある。どちらかと言えば、呪術で使われる相手をのろうために作られるものではないだろうか。 「そうだ。実はな。余はもう既に5体ものわら人形を作成済みなのだ。そのわら人形も、とある..その...余の好きな人を想って作ったのだ」 「はぁ...」 もじもじしながら言われても... 「では、妃としてお迎えになられては如何ですか?」 王とはそれを許される存在だ。 「それは、ダメだ。それをしたら、秀麗は秀麗でなくなってしまう」 『秀麗』という単語に聞き覚えはある。 たしか、春先にやってきた貴妃じゃなかったか? 「一度後宮に入られた方ではありませんか?」 つい口に出てしまった。 「さすが、長い間朝廷に住んでいるだけあるな は」 長い、間? 「幽霊になって何年だ?」 ああ、そういうこと。 「えー...25年くらいですか?」 「意外と短いな」 「はあ、恐れ入ります」 そういえば、前に会ったとき恋愛相談を受けた。そのときの相手は秀麗、紅秀麗のことだったのだろうか。ああ、たぶんそうだろうな。 「しかしな、聞いてくれるか?秀麗は酷いのだ」 そこから想い人の愚痴が始まった。 長いなぁ... 聞けば秀麗はどうやら報酬につられて貴妃となったらしい。 そして、仕事が終われば報酬を受け取ってとっとととんずらしたとか。 はっきりしていてわかりやすくていいではないか。 会えたらいい友達になれるかもしれない... 現実的ではないことを思って苦笑した。 「...ところで。劉輝様は、どうしてこちらにいらっしゃるんですか?」 そういえば、そんなに暇人のはずはない。公務というのは年中忙しくて大変だと思う。 少なくとも、先王は意外と仕事をしていた。ような気がする。 あまり覚えていないものだな... 「今、部屋を掃除されているのだ」 王も追い出されるものなのか...? の考えが分かったかのように劉輝が笑う。 「余が、良いといったのだ。他の部屋と同じにした方が楽だろう?」 本当に変わった子だ。 おそらく、生まれたときから王となるべく育てられたわけではないのが幸いしたのだろう。 「でも、劉輝様。その..先ほど仰っておられたわら人形」 「どうした? も作り方を知りたいのか?良いぞ。トクベツにコツも伝授するぞ?余と の仲だ」 どんな仲だ、と思いながら「いえ」と首を横に振る。 「どうした?遠慮は要らんぞ?」 「えーと、それは後日お願いすると致しまして...一般的にわら人形と言うのは呪具だというのはご存知ですか?」 「そうなのか?」 「そうなのですよ。それで、劉輝様のお部屋を掃除している女官がそれを見つけてしまった場合、大騒ぎになりませんか?」 の言葉に劉輝ははっと息を飲む。 「少なくとも、部屋からは撤去されるのではないでしょうか」 「な..何?!」 「可能性は無くはないと思うのです」 「余、余が..秀麗の幸せを願って作ってきたわら人形を...それはダメなのだ!!」 そう宣言したかと思うと猛然と自室へ駆け出す。 まあ、あの王のことだからきっとそんなことがあってもわら人形を捨ててしまった女官を処分することはないだろう。 「元気だなぁ...」 あっという間に小さくなった弟を眺めてそう呟く。 「 様」 「はいはい」 「お掃除、終わりました。寒くありませんでしたか?」 掃除が終了した旨を伝えにやってきた珠翠が心配そうに声をかけてきた。 そういえば、この時期にしては薄着で出てきてしまった。 「大丈夫。話相手がいたし。けど、あったかいお茶が飲みたいな」 話し相手に心当たりのある珠翠は頷き、「かしこまりました」と の要望に頷き、 と共に彼女の室へと向かっていった。 |
桜風
09.12.1