| それは、ご出仕から戻られてきた楸瑛兄様の一言から始まった。 「お出かけ、ですか?これから??」 「そう。 もどうかと言われているんだけど。どうかな、と思って」 どなたがそのように仰られたのだろう... 「秀麗殿だよ」と兄様が私の心を読んだかのように仰った。 『秀麗殿』というのは、唯一の女性官吏のお名前だったと思う。 「でも、もう夜ですけど...」 「そうだね。でも、その方がいいんだよ。どうする?」 少しだけ興味がある。 何より、夜遅く邸を出られることなんてないので少し興味があった。 「よろしいのですか?」 「いいよ」 にこりと微笑んで楸瑛兄様が頷く。 「では、ご一緒します」 「よろしい」と片目を瞑って兄様は笑った。 「そうそう。今日は絳攸も来るし..他の、 が会った事のない方たちもいらっしゃるからね」 軒に揺られて秀麗様のお宅に向かう途中に兄様にそういわれて緊張した。 「どなたですか?」 兄様に恥をかかせてはいけないと思ってそう言うと兄様は笑った。 「大丈夫だよ。皆優しい人ばかりだし。何より、口で説明するよりもご本人を見ながら紹介した方が覚えやすいと思うな」 確かに、そのとおりだと思う。 「わかりました。頑張ります」 「頑張らなくていいよ。楽しみなさい」 そう言って兄様の大きな手が私の頭をやさしく撫でた。 着いたのはどこのお邸..だろう。 お邸...? 少し、壁が崩れていて屋根も..暗くてよく分からないけどあまり綺麗に葺いている様子はなく、何より門番の居ないこんな立派なお邸は初めてだ。 「 」と兄様に呼ばれて慌ててそちらに向かった。 大きな、庭の一角に何人かが立っていた。 「すみません、遅くなりましたか」 兄様がそういった相手は..どなた? 「 、久しぶりだな」 「お久しぶりです、絳攸様」 声を掛けられて挨拶をすると「こんばんは」と別の方に声を掛けられた。 「紅秀麗です」 「藍 です」 自己紹介をされて私も返す。 「藍将軍にこんな綺麗な妹さんがいらっしゃるなんて知りませんでしたよ」 秀麗様が兄様を見上げて言う。 「ははっ、ありがとう。 は秀麗殿と同じ年だから仲良くしてやってくれるかな?」 兄様が言うと「えー!?」と秀麗様は声を上げられた。 「 さんって、私と同じ年だったの?!大人っぽい...」 じっと見られると居心地が悪くて思わず兄様の後ろに隠れてしまった。 「お嬢様、 殿がおびえていらっしゃいますよ」 爽やかにそう言うのは.. 「茈静蘭殿だよ」と兄様が説明してくれた。 「初めまして」 「初めまして、 殿。...藍将軍の妹御とは思えませんね」 爽やかな笑顔でそう言う静蘭殿は..怪しげな雰囲気を持っていた。とても不思議な雰囲気。 それから本日ここに集まられた兄様にご紹介して頂いた。 「...紫..劉輝、様?」 「そうだ。だが、ここでは無礼講で良いぞ」 満足げに笑ってそういうのは、この国の王様だった。 呆然としていると、肩をぽんと叩かれた。 振り返ると先ほど紹介された柴凛様だった。 「ま、気にしなくていいよ。ほら、それよりも」 そう言って手を引かれて庭の中でも少し開けたところへと案内された。 「何を、されるんですか?」 「藍将軍から何も聞いていないのかい?」 頷くと凛様は兄様を見た。 「先に何も言わない方が驚くと思ってね」 またしても片目を瞑って兄様が言う。 「あの、何を...?」 「まあ、いい。確かに藍将軍の仰るとおりかもね」 そう言って渡されたものは、何か筒状の棒だった。 「何ですか、これ?」 「そこをしっかり持っておくんだよ」 念を押されてそれは両手でしっかり持ってみた。 「じゃあ、火を点けるよ」 「火!?」 凛様の言葉に驚いていると本当にその筒から出ている紙のようなものに火がつくと、そこから火花が飛び出してきた。 「え!?」 思わず取り落としそうになったけど、「あぶない」と手を重ねてきた人がいた。 「手を離すなと言われただろう」 という声は絳攸様のそれで、別の意味で驚いて手を離しそうになった。 「花火というらしいぞ」 火花が消えて絳攸様は手を離されてそう仰った。 「『花火』ですか?」 「凛殿が発明されたらしい。美しいな」 「はい。本物の花みたいに美しかったです...でも、やっぱり先に教えて頂きたかったです」 そうすればこんなにも驚くことはなかったでしょう。 「ふふふ、驚いたみたいだね」 兄様が笑いながら近づいてきた。 「兄様!びっくりしました」 「でも、邸にいるだけでは見られなかったものだろう?」 またしても片目を瞑って楽しげに兄様が言う。 「さて、まだあるらしいからほら、 もまた花火をして来なさい。私は主上を見ておかないと。せっかくだから秀麗殿も楽しんでもらいたいし」 兄様がそう言って見られた方角を見るとはしゃいでいらっしゃる主上のお姿が... 「が..頑張ってくださいませ」 「じゃ、絳攸。 のほうを頼むよ」 そう言って兄様は花火を振り回して危険極まりない遊び方をされている主上の元へと足早に向かわれた。 見上げると絳攸様は主上を見て溜息を吐かれている。 「あの、私はもう大丈夫ですよ?」 「いいや。楸瑛に任されたからな」 そう言って絳攸様は私の頭に手を載せた。 |
桜風
09.8.1