| 「わたくしは何色に見えますか」 女官として登用されたばかりの彼女がそう聞いてきた。 ただ、不思議とその問いは彼女が口にすることが当然のように思え、考え込んだ。 少し慌てたのは筆頭女官だった。 「!」 と新たに登用された女官を窘める。 窘められた彼女は「失礼いたしました」と平伏した。 しかし、彼はそれを止める。 「良い。なんと言うか、そなたらしい質問だ」 彼の言葉に筆頭女官は目を丸くした。 「主上。とお会いになったことがあったのですか?」 「いや、初めましてだ」 首を横に振って彼が返す。 その答えに筆頭女官は不思議そうな表情を浮かべていた。 「と言ったな」 「はい」 「そなたの質問には、今は答えられない。少し時間をもらえないか」 そういわれたは「ありがとうございます」と深く頭を下げる。 「主上?」 覗うように筆頭女官が声を掛けてきた。 「面白いではないか。余にはたっぷり時間がある」 少しだけ寂しそうに微笑んで彼は言う。 なりたくもない王になり、据わり心地の悪かった玉座。 ただ、あの人が帰ってくるのを待つためだけに座っていたその椅子は冷たく、孤独だった。 しかし、いつしかその孤独は少しずつ薄らいだ。 ただ、自分が背負っているものを認識したときには、遅かった。沢山のことを失敗して、たくさんの人を傷つけた。 だから、自分ができる最善の策を取った。 「おい、大丈夫か?」 ゆっくり目を明けると誰かが覗き込んでいた。 視界がゆっくりと鮮明になり、体を起こそうとすると手伝ってくれた。 「すまない、ありがとう」と礼を言いながら自分に手を貸してくれた人物を見た。 どうやら女性のようだが、武具を身に着けている。 「そなたは、誰だ...?」 警戒した様子で問うと「私の名はだ」と彼女が答えた。 「?...同じなのだな」 「同じ?」 「余の知っている人がそなたと同じ名なのだ。沢山、余の話を聞いてくれた。泣き言も」 「へえ...美人だろう、その人は」 からかうようにが言うと「うむ」と彼がいう。 躊躇いなく頷かれては面食らった。からかっただけなのに。 「しかし、余が...は無事だろうか」 「おそらく無事だ。あんた、王様だろう?紫劉輝」 が問う。 彼は少し躊躇い、そして、頷いた。 「ここまで正直だと側近の心配は絶えないだろうなぁ...」 が苦笑する。 「私が王の首を取る目的でここらをウロウロしていた人だったらどうするんだ。今すぐ、その首を貰うぞ」 「う..うむ。だが、そなたは余が王様だと気付いていても、何もしなかった。寧ろ、助けてくれた」 「罠かもしれない。仲間が近くに居るかも」 「いや、それはない」 きっぱりと言われては眉を上げる。 「寝ていた余の首を取る方が楽だったはずだ。それに、余の知っているは、酷いことをはっきり言うが、嘘は言わないし、卑怯なことは嫌いだ...たぶん」 卑怯なことを目の前で彼女に向けてしたことがないし、彼女と交わした言葉も多いとは言い難いかもしれない。 ただ、彼女は媚びることをしなかった。王である自分を認めて、たまに厳しいことを口にしてくれた。 「おいおい、私はあんたの知っている『』じゃない」 呆れた口調でいうに「そうだったな」と劉輝はきょとんとして頷いた。 は溜息をつき、「それを脱げ」と言う。 劉輝は濡れた外套を着ている。今まで雪に埋もれていたのだ。冷え切っているはずだ。こんな雪の中では体温が奪われかねない。 は劉輝の外套を剥ぎ、代わりに自分の外套を劉輝に強押し付けて歩き出す。 「そなたが寒いではないか」 「いいから着ろ。それでなくとも、王様なんてもんはひ弱だろう」 「ひ、ひ弱などではない!」 「人というのは、心が折れそうになれば体も自ずと弱る。今は、折れそうだろう?」 そう言っては笑い、少し開けたところに出た。 「本当は火を焚いて体を温めた方がいいんだがな。火を焚けばあんたの敵に気付かれる可能性があるし...」 そう言って劉輝を振り返る。 「貴陽の皆は無事だろうか」 俯いて劉輝が言う。 「無事で居させるために、あんたは逃げたんだろう?」 の言葉に劉輝は驚く。 「見てきたように言うな」 その言葉には苦笑した。 「私も貴陽にいたからな。城の周辺で兵士達が話をしているのを聞いた。 あんたの、今のところの敵の旺季はとりあえずこれが終わるまでは敵を作りたくないだろうし、必要ないから城で働いていた者たちは軟禁こそすれ、首を刎ねることはしないはずだ。大人しくしておけば、の話だがな」 そうか、とほっと息を吐いた劉輝は首を傾げる。 「どうして、城の者の首を刎ねないことが敵を作らないことになるのだ?」 「その頭はお飾りか?」 冷たく言うに劉輝はしょんぼりする。チラとその様子を見たは溜息を吐いて口を開く。 「城で働いている者は大抵、後見が居る。女官だってそうだろう。そして、後見になるのはかなり地位のあるものが多い。つまり、その縁の者の命を奪えばある程度地位のあるものが敵になりかねない。敵の敵は味方、と考える人は少なくない。つまり、旺季の敵と言う形になっているあんたの味方が増えると言うことだ。それは避けたいだろう、普通は。粛清とかそう言うのはこれが終わって落ち着いてからでも遅くない。あんたもそう思って、戦わずに逃げたんだろう?」 の言葉に劉輝は首を振る。 「余は、もう余の民を傷つけたくない。これまで見ない振りをしてきて、沢山の民の命を救えなかった。だから、もうそういうのは嫌なのだ。戦えば必ず誰かが傷つく」 劉輝の言葉には口に元を緩めた。 |
桜風
12.6.23
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