極彩色の無色 3





暫く雪の中を歩く。

足を取られることが多く、体力は随分と削られた。

息が上がっている劉輝に対して彼女はさほど辛そうではない。

「そなた、鍛えているのだな」

「だから、あんたをひ弱って言ったんだよ」

呆れたようにが返した。

「止まれ」

前を歩いていたが鋭く言って腕を広げ、劉輝は広げられた彼女の腕の手前で足を止める。

ザクザクと雪を踏む音が聞こえてきた。

「...馬か?」

そう呟いたが暫くして「...あんたのお仲間だ」と言う。

「本当か?」

「あんたを呼んでる。側近だろう」

「側近..楸瑛か?」

「主上!」

耳に届いた切羽詰った彼の声に劉輝は声を発す。

「楸瑛!こっちだ!!」

「主上!」

手を振る主を目にして楸瑛は安堵の息を吐き、そしてその隣に立つ人物を見て眉を上げる。

「主上、私が必死に捜索している間に、こんな美人と何をしていたんですか」

責める様に言われて劉輝は慌てた。

「この者は。雪の中で気絶していた余を助けてくれた。名はだ」

..殿?」

同じ名前の女官を知っている。しかし、目の前の彼女はあのと同一人物に見えない。

「我が主を助けていただき、感謝します」

「それはどうも」

「だが、あなたは何者です?何の用があってこんな雪山にいたんですか?」

腰に佩いた剣の柄に手を置いて楸瑛が言い、その鋭い眼差しには苦笑した。

「あんたの主は殺そうと思えばいつでも殺せた。少なくとも敵ではない、ということは殺していないことで証明とはならないか?」

「うむ。は余を助けてくれたぞ」

それはさっきも聞きました、と思いながらチラと劉輝を見て、再びに視線を向ける。彼女は肩を竦めた。

殺気を収め、楸瑛は改めて劉輝に視線を向ける。

「それで、主上。こちらの殿はどのようにされるつもりですか?」

「...そなた、余たちと来るか?」

さすがに楸瑛は目を剥き、も驚いた表情を浮かべる。

「あんた、もっと慎重になれよ」

が心から心配そうに言うと

「だが、何だか余はそなたを信じられる」

真顔で返されては楸瑛を見た。

「あんたの主人、些かのんびりしていないか?」

「究極のお坊ちゃまだからね」

苦笑して彼はそう返した。

「ま、特に急ぐ予定もないし私は構わないよ」

「では、そなたも一緒に来てくれ」

楸瑛は溜息をつき、そしてに向き直る。

「よろしくお願いするよ、殿」

諦めた、と書いてある楸瑛の顔を見ては苦笑した。

「こちらこそ」


劉輝と途中ではぐれたと言う馬は、楸瑛たちと共に居た。賢い馬だ。ただ、劉輝は体力が削られているため楸瑛の馬に同乗し、劉輝の馬、夕影にはが乗る。

「お前は賢いな。そして、主ではない私を乗せてくれてありがとう」

が夕影の首を撫でながら声を掛けると夕影はヒヒンと返事をするように嘶いた。

護衛となれる人物がを含めて4人となったので、劉輝のために休息を取ろうという話になった。

洞窟か、風を避けられるどこかを探して少し馬で歩く。

は自分の少し背後に位置を取っている静蘭に苦笑した。物凄く警戒されている。

まあ、王族はこうであるべきだろうな...

他人を簡単に信用してはならない。持つ権力が大きければ大きいほど、それを欲して奪おうとする輩が多いのだ。
だから、過ぎるほどの警戒は必要だ。

洞窟は見つからなかったが、吹き溜まりを見つけてそこで休憩を取ることになった。

劉輝に栄養補給をさせなくてはならない。

甲斐甲斐しく劉輝の世話を焼いている楸瑛と静蘭を少し離れたところから愉快そうにが眺める。

「如何ですか?」

白湯を渡してきたのは韓升という羽林軍のひとりだ。

「どうも」

は受け取り、一口飲んだ。

「おや、意外と」

「何だ?」

「警戒心、薄いですね」

「ああ、そうだな」

肩を竦めた彼女の隣に韓升は腰を下ろした。

「何だ?」

「いえ。あそこの邪魔をしたら物凄くうるさそうですから」

そう言って韓升は自分の持っている器を口に運んだ。

「主上を助けてくれて、ありがとうございます」

「あんまりにものんびりしているから影武者かと思ったぞ」

影武者が居ないことくらい知っているが、はそう言う。

彼女の言葉に韓升は笑う。

「影武者の方がしっかりしますよ、たぶん」

「だろうな。名を聞いても?」

「ああ、皐韓升と言います」

「獲物は、弓か」

「あなたは?」

「武具はか弱い私には重くてな」

冗談めかしていうに笑っていいのか韓升は悩んだ。

「へー、武術ですか。体術」

とりあえず、笑わずに返す。

「そんなところだ」

韓升の気遣いに苦笑しては頷いた。

「王様は、酷いしもやけなのだろうなぁ...」

劉輝の表情を見てが呟く。釣られて彼を見た韓升も苦笑して「それで済んだのなら、幸運でしょう」と言う。

それもそうだ、とは頷いた。









桜風
12.6.30


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