極彩色の無色 7





年が明けて暫くして劉輝の敵、旺季から文が届いた。

その返事を書くために暫く劉輝は江青寺に逗留した。

拠点を江青寺と定めたとはいえ、そこに逗留することは少なく、久々の逗留だ。

確かに、ゆっくり一人でじっくり考えたいだろう。


劉輝が返事を書くために江青寺に逗留している間に返事を受け取りに来た使者が居た。

扉を叩いて室の中に入る。

使者が滞在するために宛がわれた室だ。

ただし、この室から出ることを許されていない。だが、それが当然だろうと彼は考えていた。

が室に入ると彼は驚いたような表情を浮かべた。

「おや、本当に坊やだ」

正式な使者に向かって『坊や』と言い放つ彼女に、使者である縹リオウは眉を上げる。

「ところで、坊や」

「俺は『縹リオウ』だ」

「知っている。噂は聞いている。これを食べてみないか?美味いんだ」

そう言ってが彼に渡したのは団子だった。

室に用意されている茶器で手早く茶を淹れて卓に置いた。

「...あんたも食べるのか?」

「ああ」と頷き、彼女はリオウに椅子を勧める。

暇だし、とリオウは彼女の誘いに乗ってみた。

団子の包みを開けた彼女は少ししょんぼりしている。

「そういえば、あんたの名前は?」

リオウが問うと「だ。この名前は中々気に入っている」と彼女は答える。

「あんた、仙だろう?」

は彼を見た。

微笑んで、そして人差し指を口に当てて「誰にも言うなよ。楽しくなくなる」と返す。

「別に言うつもりはないけど...」

縹家の人間にとっては仙というのはさほど珍しいものではない。勿論、彩八仙ともなれば、珍しいものではあるが、それこそ中々目に掛かれるものではない。

「さすが縹家の子だな。こんなにちっこくても気づくんだな」

笑ってが言う。

では、何故珠翠は気付かなかったのだろうか。育った環境か...?

なにやら考え込んだを不思議そうに眺めながらリオウは茶を一口飲んだ。

温かい、心が解れるような茶だった。

「うーん...」

唸り声が聞こえて顔を上げると彼女は団子の串を手に難しい顔をしている。

自分の前に置いてある団子に手を伸ばして一応「もらうぞ」と声を掛けて団子にかぶりつく。

「美味いな」

「待て、坊や。ここの団子はこんなもんじゃない。もっと美味いんだ」

「はあ?!」

リオウが声を上げた。

「よし、今から食べに行こう。ご馳走してやる。お前はちっこいから大きくならないとな」

「俺は、年齢的にはちっこくないし、団子を食べたくらいで大きくなるかよ」

とリオウはムキになって返した。

「第一、この部屋から出るなと言われているんだ。監視も、ドアの前にいるんだろう?」

「いるな。ドアがダメなら窓だろう」

そう言ってが窓を開けて外の様子を確認し始めた。

「おい、何を勝手に。拙いだろう、それは」

「何故だ?返事を預かりに来た使者をビクビクとこんな狭い室に閉じ込めて...自分の主が狭量だといっている様なものじゃないか。どうせ、静蘭の指示だろう。ああ、やだやだ。神経質な男には付き合ってられない」

窓を開けたままが言う。

「だが、この対応は普通だ。俺は、貴陽で正式な公子として扱われている。つまり、主上の敵側と言うことだ」

「敵なのか?」

が振り返って問う。

「いや、敵じゃないが...」

「なら問題ないだろう」

そう言って彼女は懐から縄を取り出して室内を見渡す。

縄を懐から取り出したことについて突っ込みたかったが、それ以前の問題がある。

「いや、問題は問題だ。勢力図を頭に思い浮かべてみろ。というか、仙のお前が何で主上の陣営に居るんだ?」

「面白そうだから」

間髪いれずに返ってきた言葉にリオウは面食らう。

しかし、何だろう。凄くしっくり来る理由だ。ほんの少し、それこそ茶を1杯飲んだだけの付き合いだというのに、しっくり来てしまった。

「よし!」

「待て。お前、こんなことをしたら死罪とかになるんじゃないのか?」

「その前にあいつが助けてくれる。死にはしない。この陣営で一番偉い人が放免といえば放免だろう?」

「お前、今は少なくとも主上派陣営に居るんだから、主上のことを『あいつ』はないだろう...」

脱力したリオウがそれでも律儀に突っ込む。

「よし、準備できたぞ」

「あのなぁ...」

まだ何か説教を口にしようとするリオウを小脇に抱えた

「んじゃ、口を閉じろ。舌を噛むぞ」

と言って窓から飛び降りた。

一切心の準備の時間を取ってもらえなかったリオウは、地面に着地したときには青くなっていた。

「ああ、寒いか?」

「気温じゃない!」

青い顔をしているリオウに自分の上着を着せようとしたにリオウが声を上げる。

その声を聞きつけて見張りの兵士がとリオウの姿を見つけて大騒ぎになった。

「拙いな」

腰に手を当ててのんびり呟く

「だから言っただろう!」

リオウが怒鳴る。

「どうした、何があったのだ?」

丁度、江青寺から戻ってきた劉輝がやってきた。

「おや、幸運」

の呟きが耳に届いたリオウは彼女を見上げた。

何が幸運だ...









桜風
12.8.4


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