お見舞いと説教





ドタドタドタとけたたましい音が近付いてきた。

その音を耳にしては溜息を吐いた。

ヤツが来た...

バタン、と派手な音と共に「!」という声が必要以上の音量で部屋に響いた。

「おーい、大丈夫か?」

ひょこ、と開きっぱなしのドアから顔を覗かせて言ったのは、ディアッカ・エルスマン。

そして、今しがた派手にドアを開けての名を叫んだのがイザーク・ジュール。

2人とは昔からの友人だ。

そして、現在はベッドに寝ている。

理由は..風邪っぽいものに罹ったから。

『っぽいもの』というのは、既にたちコーディネーターに病気に罹るという観念がないからだ。

症状から、昔の病気一覧で病名を付けた。


「貴様、何が風邪っぽいものだ!」

「うるさいデース。此処には『病人』が居るので静かにしてください。そして、騒ぐなら出て行ってよ。頭痛いんだから」

の言葉にイザークはグッと詰まる。

いまだかつて病人を相手にしたことがないため、手加減の仕方が分からないのだ。

そんなイザークの思考が分かったディアッカは苦笑した。

「まあまあ、2人とも落ち着けって」

イザークはキッとディアッカを睨んだが、口を噤んだ。

ディアッカを睨んだのはバツが悪いからだ。彼の言葉に異を唱えたいわけではない。

「ほら、これ。お見舞い」

そう言って高級フルーツ盛り合わせのバスケットを軽く掲げた。

「うわ、お金持ち!」

笑っていうにイザークは何かを言おうと口を開いて、我慢した。


しかし、そうは言っても、病気にかかるという状況が珍しいため、病院が是非に診させてほしいと申し出たので、は現在入院生活を送っている。

風邪っぽいもの発症した当日に入院して本日2日目。

「熱があるって聞いたけど?」

「んー、まあ。ぼちぼち」

「思ったよりも元気そうじゃん」

「体力には自信があるから...」

苦笑して返す

「しかし、貴様はコーディネーターのクセに風邪を引くなど..言語道断だぞ!あのナチュラルでさえ、そう簡単に風邪なんてものを引かないというのに!!」

と、イザークが言い放った。

何か、もう仲裁するの面倒くさいなー、とディアッカは溜息を吐き「花瓶の水、替えてくるな?」と言って部屋を後にした。

残されたイザークは完璧ディアッカのフォローを期待していたのだが、こうしてディアッカが部屋を出て行けば気まずくなる。

自分も一緒に、といって逃げ出すのはもっとイヤだ。

「座ったら?」

そう言ってが椅子を指差す。

「あ、ああ...」

すとん、と勢いよくイザークはベッド脇の椅子に腰を下ろした。

何か話さなければ、と焦り始めたイザークを見ては内心ほくそ笑む。

だが、表情に出せばイザークがまたうるさいからポーカーフェイスを保っていると「ナイフはどこだ」とイザークが言う。

「ナイフ?」

「これを切ってやる。ナイフはどこだ」

高級フルーツバスケットの中に入っていた高級林檎を片手にイザークが憮然といった。

「ああ、そのサイドボードの一番上の引き出し」

が指差すとイザークはその引き出しを開けてナイフを取り出した。

そして、物凄く危うい手つきで皮を剥き始める。

慌ててが声をかけようとしたが、その必死さに寧ろ声をかけたほうが怪我をしそうでハラハラしながら見守ることにした。


ガタリ、とドアが開く音がしてもイザークの集中力は途切れない。

しかし5分かけて半分も剥けないとはどういうことだ...

戻ってきたら何故か病室の中がピンと張り詰めた空気になっていた。

そろりとイザークを覗き込むと今までに見たことがないくらいの真剣な眼差しで林檎の皮を剥いていた。

を見るとこれまた息を詰めてその様子を見守っている。

思わず噴出しそうになって慌てて口元を手で覆った。

この緊張感を自分の大爆笑で崩せば2人からブーイングは必至。

仕方ないので、ディアッカはまたしても病室を後にした。

ぷはー、とイザークとが同時に息を吐いたのは林檎の皮が剥けたときだった。

「食べろ」

そう言ってガタガタに皮を剥かれた哀れな林檎をイザークが突き出した。

灰汁が出て何となく茶色っぽくなっている。

「いただきます」とはそれをシャクリと噛んだ。

色と形はともかく、高級を冠するだけあってとても美味しい。

「美味しいよ。イザークも食べたら?」

「これはへの見舞いだ」

「いや、林檎1個全部は食べらんないし。食べてよ」

の言葉にイザークは頷いて林檎に手を伸ばした。

ちょうど見計らったかのようにディアッカが戻ってくる。

「お、やっと剥けたか」

ディアッカの言葉にイザークは「うるさい!」とちょっと気にしている事を言われて拗ねる。

「俺もちょうだい」

そう言ってディアッカは手を伸ばし、イザークが一生懸命皮を剥いた林檎を口に運んだ。

「おー、酸味もあってちょうど良いな」

「ねー。さすが高級!」

も笑って頷く。

あまり長居をすると負担になるかもしれないから、とディアッカはイザークを引き連れてそのあとすぐに帰って言った。

それは建前で、フォローできる自分が居るとまたイザークがに説教を始めるのが目に見えていたから、それに対する配慮だ。

「有能な副官になれるね...」

ディアッカの真意が分かったは心から呟いた。彼は、ほんとにフォローに回ってもらったらピカイチだと思う。

自分を狡猾で残忍とか思っている辺りは迂闊で残念だが...



「えーと。何だっけ?『コーディネーターのクセに風邪を引くなど言語道断』?『あのナチュラルでさえ、そう簡単に風邪なんてものを引かないというのに』だったっけ??」

白い病室のこれまた白いベッドに寝ているイザークに向かっては溜息混じりに言い放った。

今度はイザークがが罹った『風邪っぽいもの』に罹ってしまったらしい。

同じく、病院に請われて入院生活を送っているイザークの見舞いに来たは自分が言われた言葉を思い出して口にしてみた。

「うるさい!」

「イザークのほうが声量あるよね?」

の指摘にグッと詰まるイザーク。

「花瓶の水、替えてくるなー」

喧嘩が始まるのを前にディアッカはまたしても仲裁を放棄して病室を後にする。

は遠慮なくベッド脇にある椅子に座った。

「ま、イザーク良かったじゃない」

「何がだ!」

少し苛立ってイザークが聞くと

「バカは風邪引かないって言うんでしょ?引いたんだから少なくとも、バカじゃないわよ?たとえ、アスランやわたしよりも成績が悪くても。ね?」

満面の笑みでが言う。

何となく倍返しされた感じのイザークは「フンッ」と言ってに背を向けてシーツを被った。









桜風
09.11.1