嘘も方便





アカデミーに通っていたミゲルは久しぶりに実家に帰省する。

卒業前の試験休みというやつだから本来なら勉強をして最後の追い込みをしておかなければならないのだが、正直、それどころではない。

実家に帰って家族に軽く挨拶をしてそのまま体を休める間もなく、行き先を告げずに家を出た。

まあ、行き先は聞かなくとも家族は皆分かっているから暖かい視線で見送ってもらえた。


!」

ぼうっとしながら店番をしていたは耳に届いた声に驚いて椅子を蹴って立ち上がり、その勢いのせいで脛を打ってしまったため悶絶しながら脛をさすっている。

「だ、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」

涙目ではあるが、笑顔で彼女はそう返す。

その笑顔につられて心配顔だったミゲルも笑った。



ミゲルはのどかな郊外にある町の出身だった。

町というが、規模的には村だ。

近所の者はお互いを助け合い、よく知っている。

ミゲルがアプリリウスに行くといったときには皆驚いたが、それでも彼の決意を感じ取って皆は笑顔で送り出した。

勿論、皆が引き止めるのを早々にやめた理由はミゲルの恋人であるがいの一番に「頑張って」と笑って応援することを決めたことだ。

お互いをとても大切に想っている2人は勿論この町では有名だったし、大人たちも彼らを見守っていた。

だから、がどれだけミゲルのことを想い、心配しているかなんて簡単に想像がついた。

それなのに、彼女は送り出すことを決めた。

だったら外野は何も言うことはないだろう。

ミゲルが数ヶ月ぶりに帰ってきたことを知った店主はに休憩時間を与えた。

店主のお許しが出たので、とミゲルは店を後にした。


町の中には小洒落たカフェなどなく、2人はベーカリーでパンとドリンクを購入して草原へと向かった。

プラントにこんな牧歌的な土地が必要なのだろうかと思うが、必要なのだろう。

自給自足をするにはこういうところは必要だ。

2人は草原に並んで座り小川を眺めた。

サラサラと流れる川の水が澄んでいてとても気持ちよさそうだ、と何となく思う。

「アカデミーはどう?」

「ん?」

話を振ったのはで、ミゲルは懐かしい故郷の空気を味わっていた。

「そうだな、んー...」

なんと言ったら良いのか分からない。

機密事項も勿論あるが、どこから説明して良いのかが分からないのだ。

初めてアプリリウスに行ったときには少し驚いた。

いや、行ったことは今まで何回かあるが、生活してその便利さと窮屈さに驚いたのだ。

ミゲルの話す彼の生活には表情をくるくる変えながら、相槌を打ち、時には声を上げて笑った。


「そういえば、どうやって帰ってきたの?」

の疑問はある意味当たり前のものだった。

アカデミーに入ったら卒業するか退学するまで戻ってこられないと思っていた。実際、結構そういうのが厳しいらしい。

学校の校則ではないが、全寮制であるアカデミーでその寮の規則が厳しいのだ。

外泊の許可なんて殆ど出ないし、許可要件をクリアするのも至難の業だったりする。

それは、ミゲルから貰った手紙で知っていたからは余計に不思議に思ったのだ。

「んー...」とミゲルは視線を彷徨わせながら暫く唸り、に視線を戻してニッと笑った。

何だろう、と彼女は目を丸くする。

「婚約者が、倒れたって言ったんだ」

はぽかんとした。

暫く思考が停止し、「おーい」とミゲルが目の前で手を振っているその姿に少しずつ彼の言葉の意味がじわりと脳に達してきた。

言葉を捜したが、見つからない。

「わたし、元気よ?」

やっと見つけたその言葉にミゲルは笑った。

「たまにはいいだろう?ほら、嘘も方便っていうし」

悪戯っぽく笑って言うミゲルには苦笑した。

「うそつきね」

「心外だな。それだけ会いたかったんだよ」

ミゲルは笑いながらそう返した。

「そうね、わたしもミゲルに久しぶりに会えて嬉しいわ。まだ言ってなかった気がする。おかえりなさい」

ふわりと微笑むにミゲルは触れるだけのキスをした。

風にそよぐの髪が頬に当たって何だか少しくすぐったかった。









桜風
09.4.1


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