睡魔とおまじない





キョロキョロと周囲を見渡していたイザークはやっと目的の人物を見つけた。

少し離れたところに居るが、白い隊長服を身に纏い肩甲骨辺りまである萌黄色の髪を見れば後姿でも彼女だと分かる。

「おい、!」

返事が無い。

重ねて名前を呼ぼうとしてイザークは言葉を飲んだ。

彼女は今椅子に座っている。腕も組んでいる。

でも、俯いている。

この体勢が示すもの...

「やっぱり」という言葉は溜息と共に零れた。

彼女は椅子に座ったまま眠っている。

最近忙しかったからな、と納得しつつも。

だったら...

「おい、。起きろ」

肩を揺さぶって彼女を起こす。

ビクリとして彼女は顔を上げた。

目をこすっている。

「起きたか?」

「たぶんね」と返すは起きた証拠だ。

「こんなところで寝るな、自分の部屋で寝ろ。部下に示しがつかんだろう」

「部下への示し、ですかー」

そう言っては「ん〜」と唸りながら伸びをした。

「よし!」と言って立ち上がる。


「何か用だったの?」

コツコツと靴音を響かせて本部の廊下を歩く。ここは基本的に隊長クラス以外は入れない区域だ。だから、『部下への示し』なんてものは気にしなくてもいいのだが、まあ、気にしてほしいと隣を歩くイザークが言うなら多少なとも気にしてみようと思う。

「ああ、いや。特に...」

純粋にを探していた。得に用事は無いが、探していた。つまり、会いたかったのだ。

イザークは言外にそう言った。

はクスリと笑う。

「夢を見てたわ」

「夢?」

先ほどうとうとしていたときに見た夢。眠りが浅かった証拠だ。

「そう、夢。イザークが出てきたわよ」

「俺か?」

「2人で砂浜で追いかけっこしてた。で、追いかけるのがわたし」

笑いながらが言う。イザークは眉間に深い皺を刻んだ。

何故、自分が追いかけられているのか...

「まあ、つまりそれって、わたしもイザークに会いたかったってことなんじゃないの?」

他人事のように言うにイザーク溜息をついた。

「それは、どーも」

「イザーク、ご飯食べた?」

「いいや、まだだ」

一緒に食べようと思って探していたのだ。

「じゃあ、ご一緒させてもらえないかしら?」

の言葉に「ああ」とイザークは頷いた。


「最近眠れないのか?」

食事を摂りながらイザークが問う。

「書類仕事大嫌い」

「好き嫌いで仕事をするもんじゃないだろう」

そう言いつつもイザークはが書類仕事が嫌いだったことを思い出した。嫌いと言うか、彼女の性格上苦手なのだ。

「報告書の締切りは?」

「それを守るために昨日は徹夜。あれね。報告書は溜めるものじゃないわね」

「当然だ」と鼻を鳴らしながらイザークが肯定する。

イザークは書類仕事も早いのだ。正直、そういう几帳面なところが羨ましい。

「ごちそうさまでした」とは食事を終え、イザークがそのトレイを持って指定された場所に返し、彼女はその後を追った。

てくてくと歩きながらイザークを見上げると「なんだ?」と視線に気づいたイザークが声を掛ける。

「お腹いっぱいになったらまた眠くなってきちゃった」

屈託無く笑うにイザークは絶句し、気を取り直すようにコホンと咳払いをした。

「まだ寝足りないのか?」

呆れた口調で言う。

「そうねー、まだまだ眠れるわ」

はぁ、とイザークが溜息を吐いた。

「あら、心外。寝る子は育つのよ?」

「寝る『子』ならな。、いくつだ」

「レディに年齢を尋ねるなんて失礼なことよ?」

ああ言えばこう言う。

の反応にイザークは肩を竦めての唇を盗み、目を丸くした彼女に対して「目が覚めただろう」としれっと言う。

「覚めた」と苦笑しながらは返す。

「でも、不意打ちはどうかと思うのだけど」

「不意打ちじゃないと驚かないだろう」

そう返したイザークに「そうね」とも返す。

けど、たぶんまた睡魔がやってくるに決まっている。

だから、また自分の執務室ではなくてイザークが見つけてくれそうなところでうとうとしようとは心の中で決めていた。









桜風
10.5.1