浴衣とかんざし





イザークが彼女を迎えに行くと珍しい格好で出てきた。

浴衣だ。

あまりポピュラーな服装ではなく、どちらかといえばどマイナーだと思う。

地球の日本という国の伝統装束だが、最近はその国でさえ、あまり着られないものだと以前文献で読んだ。

浴衣といえば、ディアッカで。

「日舞してるからー」

という果たして本当にその理由で正しいのか?と思いつつも彼は何枚かそれを持っていると言っていた。

イザークも興味が無いといえば嘘になるが、どうにも性にあいそうにない気がして手を伸ばせないでいる。

本当にディアッカにみたいに日本の伝統芸能を身に着けるとかそういう目的の一環としてなら抵抗はないのだろうが、今のところちょっと抵抗があるので見送っている。


それはともかく。

そんな日本の伝統装束を着て出てきたにイザークは目を丸くした。

「どうした、それ?」

「ディアッカのお師匠さんに譲ってもらったの」

なるほど...

どマイナーであるがために、中々手に入らない。仕立ててもらうことは出来るだろうが、つくりとしてそれが果たして正しいのか甚だ疑問となるので、本当に浴衣というものを知っている人以外に依頼は出来ない。

その点、ディアッカの師匠なら浴衣も持っているだろうし、仕立てを依頼する先の伝手は間違いなくある。

「どう?」と両手を広げてがターンをした。

「ま、似合ってるんじゃないのか?」

「照れ屋さん」

イザークの愛想のない返事に笑いながらはそう言って、イザークのおでこをちょんとつく。

めげない性格である。


が浴衣に興味を持ったのはつい先月のことである。

2人で出かけて、イザークが行きたい店があり、も行きたい店があった。

一緒に両方の店に行けば良いのだろうが、そういうのは非効率的だと思う2人なので、結局それぞれの用事を済ませて待ち合わせにしようという話になった。

そして、その待ち合わせ場所に掲示してあったポスターに浴衣が載っていたのだ。

「なに、これ...」

はそれを見た途端釘付けで、イザークが合流したのことに気が付くまで軽く30分かかった。

声を掛けても反応されなかったイザークは勿論軽く傷ついた。

「ねえ、イザーク。これって何処に売っているのかな?」

ポスターは『伝統芸能』と銘打ってあり、そういうものを集めた展示会が開催されるというものの予告だった。

『伝統芸能』といえば、きっと民俗学と密接な関係を持っているだろうから、それならイザークに聞くのが早い。

「さあな。オーダーメイドになるだろうな。需要がないだろう」

イザークの言葉には納得した。誰もこんなもの着ていない。

「じゃあ、どこに注文したら良いのかな?」

「ディアッカなら知ってるだろう。あいつも浴衣を持っていると言っていた」

イザークの返事には目を輝かせた。


それ以来会うのが今日、ということで。

何とも行動力のある恋人だとイザークは苦笑を漏らす。

「自分で着たのか?」

「うん、お師匠様に練習を見てもらって。凄い?可愛い??」

「あー、はいはい。可愛い、可愛い」

適当に返したイザークの言葉にも満足そうに笑って「でしょ?」とは得意げだった。

今日のデートは何処に行くか。

いつも車に乗って大抵そういう話から始まる。

勿論、最初から目的のあるときもあるが、2人で出かけることに意義があるという考えも持っているので、2人のデートのスタートは相談から始まる。

「何処に行く?」

いつものようにが問う。

「ひとつは決まっているが...その後に考えるか」

「何処に行くの?」

「まだ秘密」

イザークの返事に「ふーん」とは返してシートに深く凭れようとして、それが難しいことに気が付いた。

「帯が邪魔」

「だろうな」との言葉に喉の奥で笑いながらイザークは相槌を打った。

不満そうにするに「じゃあ、どこかで服を買ってもう脱ぐか?」と提案してみると彼女は首を横に振る。

そんな反応をすると思った。

そう思いながらイザークは今日の先ほど思いついた目的地へと車を向かわせた。


「ここだ」とイザークに言われてが見上げたのは見慣れない装飾品が展示してある小ぢんまりした雑貨店だった。

慣れているのかイザークが入って行き、慌ててもその後に着いて入る。

「たしか、こっちだったな」と小ぢんまりしているものの、何とも豊富なアイテムが展示してある店内をイザークが歩き、はその後を静かに着いて歩くだけだった。

「これなんてどうだ?」

振り返ったイザークが手にしていたものを見ては目を輝かせる。

「なに、それ」

「かんざし。髪飾りだ」

そう言っての髪にそれを挿した。

「見てみろ」

そう言ってイザークが鏡を指差し、はその傍へと足を向けた。

「わあ!」と嬉しそうな声を漏らしたの反応に満足したイザークは店主に声を掛けてそれを購入した。

「全然印象が変わるね」

車に乗ってもは上機嫌だった。

「まあな。の髪の色は深いからな。似合うんじゃないかと思ってたよ」

真っ黒だったら尚良かったのだろうが、そこは今更の話だ。

「イザーク、ありがとう。大好き」

「お互い様だ」

のその表情に満足したイザークは彼女の言葉にそう返して苦笑を漏らした。









桜風
10.8.1