| 手を合わせて息を吹きかける。 寒いと言ったら寒い。 手袋をするには、もう季節は外れている。そんな時期だ。 この国は『四季』がある。 春になったら花が咲き、夏になったら太陽が照りつける。秋は葉が落ち、冬は雪が舞う。 巡る季節に合わせて服装も、過ごし方も変わってくる。季節それそれが美しく、また、厳しくもあるのだ。 そんな色とりどりのこの国で生まれ育って、は今の季節が一番好きだったりする。 冬が春に変わるとき、たくさんのものが一緒に変わる。 空気の匂いとか、空の色とか。 おそらく、他の季節でも季節の変わり目にはその変化は見られるのだろうが、寒いのが暖かくなるって言うのも高いポイントの一つだ。 コツコツと靴音が聞こえる。 は俯き、息を吐いてくるりと勢い良く振り返ってそのまま「遅い!」と指差した。 「あ...」 アイスブルーの瞳が丸くなっている。 「あ、あの。ごめんなさい!」 これまた勢い良く頭を下げる。 「あ、いや...」 知らない人を怒ってしまったのだ。 そして、その知らない人はの勢いに押されて曖昧に頷く。 「...その、待ちぼうけなのか?」 イザーク・ジュールと名乗った彼はそこに留まった。 どうやら彼も此処で待ち合わせのようだ。 「まあ、かれこれ1時間オーバーですね」 肩を竦めて言うにイザークは目を丸くした。 「1時間...連絡手段は無いのか?」 普通はそこに頭が行く。 だって、ちゃんと考えている。 「電源が入っていないか、電波のうんたらって振られました」 それは、電話以外にも振られたのでは... 口に出すとまずいと思ってその言葉は飲んだが、イザークは「そうか」ととりあえず相槌を打っておいた。 「イザークさんは?」 「あ?」 「『あ?』じゃないですよ。待ち合わせなんでしょう?」 に言われたイザークは「ああ」と納得した。 「待ち合わせまでに時間があるから、ここでつぶす事にしたんだ」 「本屋さんとか、カフェとかの方が時間を潰すのには丁度良いんじゃないんですか?」 が言うと「実はこの国に来たのは初めてなんだ。あまり動きたくない」と苦笑交じりにイザークが言う。 本当か嘘かは分からない。 しかし、一緒に立っていてくれる、話し相手になってくれる人がいるのは有難かった。 暫く話をしていたが、イザークが少しずつ時計を気にし始めてきた。 「もう時間なんでしょう?ありがとう」 が言うと彼はまた驚いた表情をした。 「だが...」 「大丈夫、慣れっこだし。もういい加減..ね?」 可愛らしく首を傾げてが言う。 イザークもこれ以上は言わなかった。 「そうか...じゃあな」と言ってあっさりその場を去っていってくれた。 その引き際のよさも非常に有難かった。 それからまた暫く待ちぼうけして、そして、は自身初の右ストレートにより、あらゆる意味でスッキリしたのだった。 久しぶりにその国へとやってきた。 あれから2年近いだろうか...季節的にはもう少し前だった。日差しの柔らかさの割にまだ寒かったから。 空を見上げてその青さも確認する。 「いらっしゃいませー!」 元気の良いその声に聞き覚えがありイザークは振り返った。 「あらあら」と彼女は言う。 「...」とイザークは苦笑した。 「イザークさん。名前、覚えてたの?」 「そっちもな」とまたイザークは笑う。 「今は、売り子か?」 前掛けをして彼女は店先に立っていた。 「売り子、って...バイト。学費をね」 笑って言うにまだそんな歳だったのか、とイザークは些か驚く。 何せ、記憶の中のといえば2年位前だったが、話としては結構マニアックな内容だったにも拘らずかなり話があったのだ。 既に研究者なのかと思っていた。 「イザークさんは、観光ですか?」 「いや、縁のある人がこの国にいてな。今回は時間が取れたからお会いしに来たんだ」 イザークの言葉に「へー」と間抜けな声でが相槌を打つ。 「あ、そういえば」 はそう言って店の中に入っていき、すぐに戻ってきた。 「これ、どうぞ」 イザークの眉間に皺が寄る。彼女が持ってきたのは小さな花束だ。 「何だ?」 「花束。ブーケ」 「見りゃ分かる。何故、俺にくれるんだ?」 「いやぁ、イザークさんのお陰でバッチリ右ストレートが決まったので」 笑いながら言うにイザークは首を傾げる。 だが、彼女はそれ以上詳しいことを言わなかった。言いたくないのかもしれないと思って「そうか」と頷く。 イザークは手を伸ばして「ありがとう」と受け取った。 「今度またこの国に来たときには寄ってくださいね」 が言うと 「いつまで学生でバイトのつもりなんだ?」 とからかうようにイザークが言う。 そうかも... 「じゃ、いつか会いに行きます」 このの言葉には驚いたようすのイザークだったが「ああ、遊びにきたら茶くらい出してやるぞ」と返して店から遠ざかっていった。 |
桜風
11.3.14
11.4.24再掲
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