| 俺のクラスには全く笑わない女がいる。 今までアイツと学校が一緒だったやつが言うには、一度も笑ったことが無いそうだ。 そんなことを聞いたら、気になるだろ?アイツがどんな顔をして笑うのか。 ・。絶対に笑わせてやる! 「くだらん」 「言うと思ったぜ。さすが、イザークだな」 「笑いたくないヤツを笑わせたいって思う貴様の気が知れん」 クラスの違う幼馴染に話してみると眉間に皺を寄せて大袈裟なため息を吐く。 まあ、確かに。 いつもの俺ならそんなの全く気にしない、ってか、イザークと同じで全く気にならなかったと思う。 でも、なぜか気になったんだよな。 とはいえ、俺はすぐに壁にぶち当たってしまった。 どうしていいか分からない。基本的に俺は他人はどうでもいいって感じだから、他人が何に興味を示すのかがわからない。 俺だったら、..日舞? で、イザークだったら...民俗学、だよな? てか、俺ら偏りすぎ。 改めて・のことを考える。 休み時間。予習。 昼休み。...知らねぇ。 放課後。分かるワケない... ダメじゃん、俺。 取りあえず、声を掛けるところから始めた。 「よお」 「......おはようございます」 何でそんなに丁寧に返事を返すんだ?俺ら同級生じゃん、クラスメイトじゃん。それより気になるのが挨拶の前のあの沈黙。 正直、怖かった... それから、俺の挨拶運動が始まった。しかし、アイツが少しずつ挨拶を返すようになった頃。 「おい、変な噂が立ってるぞ」 幼馴染が忠告してきた。 「変な噂?」 「知らないのか?お前が、あの女にちょっかい出してるとかいう噂だ。いい加減にしておいたらどうだ?」 親友からの暖かい忠告だったけど、 「いや、結構楽しいんだぜ?喩えるなら、野生動物を自分に懐かせてるっていうか...」 「誰が、野生動物ですか?」 通りざまに突っ込みを入れられてしまった。 てか、俺に気配を読ませないあたり只者じゃない気がするんだけど? それから数日後、事件が起こった。 その日は俺一人で帰っていた。 すると川のほとりで走ってる女がいた。だ。 「おい、何してるんだよ?」 の奇妙な行動に思わず一緒に走りながら声を掛ける。 「あの子!」 切羽詰った声で川を指差した。その先には小さな子犬がお溺れて流されている。 「ぁあ?」 何が言いたいのか分からずの顔を見た。 「あの子、助けて!!」 「はぁ?俺が??お前が助けてやれよ」 「私、泳げないの!!」 目に涙をためてがそう言った。 コーディネーターで、学校の成績も悪くないコイツが、泳げない?! 意外な言葉に驚いたけど、そういうことなら、まあ仕方が無い。 「これ、持ってろ」 鞄と制服の上着を渡して川に飛び込む。 暴れる子犬をひっ捕まえて川岸に上がった。 「ほら」 そう言ってに子犬を渡すと俺の鞄を放り投げて抱きしめた。 「...オイ」 俺の抗議も耳に入らないみたいで、ただ只管子犬に向かって「良かったね」を繰り返していた。 「あ、あの」 「ぁあ?」 「ありがとう、ディアッカ・エルスマン」 振り返った先にあったものは初めて目にするの笑顔だった。 「あー...フルネームで呼ぶの禁止な?ディアッカって呼べよ」 怒る気にもなれずそう言った。 笑わなかった女の笑顔はとても優しかった。 あの子犬はが飼うことになった。 散歩しているを見つけて声を掛ける。 「よお。元気そうじゃんソイツ」 「あ、ディアッカ。アカデミー以外で会うのって珍しいわね」 あれ以来、は少しずつ笑うようになった。は自分の笑顔が好きじゃないから笑わないそうだ。 年齢よりもかなり幼く見えてしまうからだとか。 まあ、確かに。今でも学校では笑わない。 「だな。コイツ、名前なんての?」 「『ディア』よ」 「は?」 「この子の命の恩人の名前をもらったの」 「そういうのって本人の許可がいるんじゃねぇの?」 「そういうもの?じゃ、事後承諾ってコトでいいわよね。ありがとう」 そう言って微笑んだの笑顔は、やっぱり少し幼くて、そして何も言えなくなる。 笑わない女の笑顔は最強だった... |