Queen of the ice





ザフト本部にはとても有名な人物が居る。彼女の名前を聞いただけで震え上がり泣き出す者も居るという噂もある。

彼女はとても優秀で、そして全く容赦ない。

『氷の女王』と呼ばれる彼女は、という名だった。


カツカツと靴音を響かせて本部の廊下を歩く。

長い髪をなびかせて、背筋を伸ばし、その視線はとても鋭い。

その靴音を聞いた皆は一様に彼女に道を譲る。

隊長」

早足で彼女に追いついてきた青年が居る。

彼女は振り返った。

「何だ?」

つい、と目を細めて用件を促す。

「報告です」といって彼が耳打ちをした。

「...了解した」

そう言ってまたカツカツと靴音を響かせて廊下を歩く。


彼女は元々パイロットだった。

ただ、その性格のお陰もあって、いつの間にか昇進していつの間にか本部への勤務となっていつの間にか隊長になっていた。

彼女としてはまだまだ前線にいたかった。

だが、彼女が前線に居るとどうにも他の兵士たちが帰艦したがらない。むしろ、玉砕覚悟で敵陣に突っ込んでしまい、人員不足に陥りかねない状況になったため、上層部があわてて彼女を異動させたのが実のところの彼女の昇進の理由だったりする。

しかし、最初の理由はそれだったが、彼女を本部におき、兵士を養成させてみると意外と適任だったため、彼女はここから異動できないこととなった。

今でも異動願いは出しているのだが、いろいろな思惑のお陰で彼女は今も本部に勤めている。


「隊長、明日からお休み..ですよね?」

副隊長が聞いてきた。

「ああ、そうだ。1週間ほどの休暇だが、その間よろしく頼む。急用があればすぐに連絡してくれ。それと、今日は定時に上がるから書類があるならそれまでに提出するように」

書類に視線を落としたままはそう返した。



「いやぁ、イザークってホント勇者だよな」

同僚にそう言われたのは長い期間前線で戦っていたMSパイロットのイザーク・ジュールだった。

今回、やっとの休暇でプラントに戻ってきたのだ。

「勇者?」

「そうそう。ものっすごい噂がある人じゃん?あの、って」

ああ、そのことか。

この話題を振られるのは何度目だろうか...

「まあ、いろんな伝説は..持っているようだな」

彼女の噂は前線まで轟いており、本来なら本部への異動は昇進をさすが、その上司が彼女となると辞退するものが少なくないという。

彼女の下についているのは何も知らない新人と、意外と神経の図太い天才肌の変人くらいだ。

そして、彼女はイザーク・ジュールの婚約者と言う立場でもある。

「あのおっかないのと一緒に居ないといけないって、辛くない?しかも、上官だし」

『おっかない』ねぇ...

心の中で苦笑しながらイザークは「別に」と返しておいた。


本部で多少の雑務をこなしてイザークはやっと休暇に入れることになった。

ふと、前方から白服が近づいてきた。

イザークは道を譲り敬礼をする。

目の前を通ったのはで彼女も返礼をした。

その際、少し口の端があがっていた。

勤務中は殆ど厳しい表情しか見せないともっぱらの噂なのだが、それは違うことをイザークは知っている。



車でを待っていた。定時にあがるといっていたと記憶してたが、既に定時はとっくに過ぎている。

「遅かったな」

本部からやっと出てきたにイザークは声をかけた。

お互い既に私服に着替えている。

「ごめん!定時に帰るって言ったのに、定時ぎりぎりに書類出されちゃって...確かに、わたしは『定時までに』って言ったからギリギリセーフだったから置いて帰れなかったし...」

「ま、仕方ないだろう」

苦笑しながらイザークは助手席のドアを開ける。

「ありがとう。エザリア様をお待たせしてるよね、急がなきゃ...」

申し訳なさそうに彼女は呟いた。

「ああ、連絡しておいたから心配するな。母上も議会が延びているみたいで、ちょうどよかったんだ。今晩の一緒に食事ってのは流れたよ」

そういってイザークは運転席に座ってアクセルを踏んだ。

「どこに行きたい?食事にしよう」

イザークの言葉にの顔がぱっと華やぐ。

「うわ、嬉しい!あー、何を食べよう。ね、イザークは何が食べたい??」

嬉しそうにそう話す彼女はあの『氷の女王』からは程遠い。

本来の彼女はこっちの方だ。


ザフトの彼女はいつも気を張り詰めているだけなのだ。

ザフトに入るとき、両親が出した条件は『死なないこと』だった。その約束を守るべく、彼女はパイロットとして最善の動きをした。

そして、その戦闘の中で彼女は友人を亡くした。友人は同じくパイロットだった。

彼女の両親は嘆き悲しんだ。とても深い悲しみを彼女は目の当たりにした。

だから、彼女は部下に厳しく接するようになった。なるべく多くの兵士が死なないように、と。

彼女は自分に厳しく、そして、他人にも厳しくなった。

彼女の部下になった者は、最初は彼女の厳しさに枕を涙で濡らすことが通例だったが、それでも前線に出たときは彼女に深く感謝をするという。

彼女の厳しさに耐えきれたら、大抵の困難や辛さへの耐性が出来上がっていると気づき、感謝をする。




、休暇中はどこに行きたい?」

「え、今はご飯が先!ご飯を食べながら考えようよ」

の言葉にイザークは苦笑する。

自分以外で本当の彼女の姿を知る者はザフトにいない。

『勇者』と呼ばれるが、そんなことはない。

彼女は普通の年頃の女性と全く変わらない、美味しいものが好きで、良く笑って、買い物好きで。

イザークの隣では何を食べようか、と色々な料理の種類を口にしているの横顔をちらりと見た。

「ごゆっくりお考えください、お姫様」

からかい口調で言うイザークに少し拗ねたような視線を向けてはぷいと顔を背けた。

相変わらず可愛い反応だ。

これで笑ったら彼女のご機嫌は斜めに下がるのが目に見えているため、イザークはポーカーフェイスを保ちながらハンドルを切った。





リクエスト内容
『ヒロイン設定が上司&婚約者』

リクエストありがとうございました!!





桜風
09.7.5


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