Sleeping beauty





毎日のように流れてくる情報。何一つ進展しておらず、自分の最も知りたい情報は入ってこない。

はテレビのスイッチを切って2階に上がる。

部屋に入ってポスンと体をベッドに沈めた。傍にある枕を引き寄せて顔を埋め、「お兄様...」と呟いた。



が『お兄様』と呼ぶのは世界でたった一人で、イザーク・ジュールという人物だ。

幼い頃から面倒を見てもらい、いつしかの憧れる対象となった。

一緒にいたいという一心で色々と頑張った。

イザークもその数多くの努力は認めており、彼女をとても大切にしているし、彼の友人に言わせて見れば甘やかし過ぎるというくらい可愛がっている。

あのときも、はイザークと一緒にいたい一心だった。

母親からイザークがアカデミーに入るという話を聞いたのだ。

母とイザークの母は友人であり、パートナーだ。

そのイザークの母親本人の口から聞いたことだから間違いないだろう。

は母親からその話を聞いてすぐさま家を飛び出した。

ジュール邸は実家から遠いがそれでも必死でジュール邸へと向かった。

が家を飛び出したとの連絡を受けてイザークも捜索に出た。

コーディネーターとはいえ、やはり何があるか分からないので心配だ。


実際、『何か』があった。

たいしたことではないが、にとっては大事件だ。

迷子になったのだ。知っているはずの道が全く知らないものに見えてとても怖かった。

いつも母が運転してジュール邸まで連れて行ってくれていた。

だから、しっかりと道を覚えていなかったのだ。は道を知らなくても、それこそ車の中で寝ていてもイザークに会えたのだから、道を覚える必要がなかった。

!」

イザークの声に反応しては振り返り、泣きながら駆け出してイザークの胸に飛び込んだ。

「心配させるな」

少し鋭く言うが、髪を撫でるその手は優しく、は泣きながら「ごめんなさい」と謝った。

その日はもう遅いため、そのままイザークはをジュール邸につれて帰った。

彼女の母親は明日の朝も早いはずなのでその方が良いだろうとの家に連絡をして提案し、彼女もそれは助かるといったため、一晩を預かることとなった。

シャワーを浴びて食事を済ませたはそわそわと落ち着かない様子でイザークの部屋に居た。

部屋に戻ってきたイザークは思わず自室に足を踏み入れるのに躊躇った。

ドアを開けるとイザークのベッドに正座をしているが居たのだ。

「...?」

「お兄様!」

手を突いてずい、と迫ってくる。

「なんだ?」

「私もアカデミーに入る!」

「ダメだ!」

間髪入れずに返ってきたイザークの返事には一瞬面食らった表情を見せたが、キュッと唇を引き結んでもう一度言った。

「私も、アカデミーに入学できるはずよ!」

年齢的に大丈夫なはずだ。

男女問わず門戸が開いているので、性別も関係ない。

「ダメだ」

が迷子になった理由が良く分かった。

自分のアカデミー入学の話を聞いて家を飛び出したのだろう。

はなおもイザークをじっと見て視線を逸らそうとしない。

「お兄様だけ戦場に行くなんて嫌よ。私も一緒に行く」

「遠足じゃないんだぞ?」

「それくらい分かってるもん!」

はぷぅと膨れてそっぽを向く。

ギシ、とベッドが軋んだ。

が顔を向けるとイザークがすぐ傍に座っている。

、今回は聞き分けてくれ」

静かなイザークの声には俯いた。

「お兄様と離れ離れは、いや」

呟くにイザークは困ったように首を傾げた。

「俺が居ない間、この部屋に自由に入って良いから」

この邸へは元々自由に来ることができる。だが、さすがに部屋に入る自由までは許されていないし、常識的に考えて出来ないだろう。

だから、イザークは部屋に入っていいという。

はイザークをじっと見た。

「必ず、帰ってくるから」

「それじゃ、足りない」

の言葉にイザークは苦笑して腕を伸ばして彼女を引き寄せる。

そしてそのままキスをした。

「待っててくれ、必ず帰ってくる」

その日、はイザークの腕の中で穏やかな寝息をたてて寝た。




ガチャリとドアを開けて目に入った光景にイザークは苦笑した。

先ほど帰宅した際にイザークの留守中にが頻繁に足を運んできていたという話を聞いた。

今日も来ているのでおそらくイザークの部屋だろうと言われて、すぐに向かったのだが...

上着を適当に椅子に投げてベッドに横になっているの顔を覗き込む。

?」

返事の変わりに寝息が聞こえた。

苦笑したイザークだったが、のほほに残った涙の痕が目に入ると困ったような表情を浮かべた。

親指でそこに触れてみたが、既に乾いている。

泣きながら眠ったのか...

眠っているにキスをした。

すると、眠っていたと思っていたが瞼をゆっくりと開ける。

「お兄..さま?」

「ただいま、

微笑むイザークを目にしてはまた涙を流す。

「おかえりなさい、お兄様」

体を起こしたに腕を伸ばして引き寄せた。

「お怪我は?」

「大丈夫だ」

「よかった」とはイザークの首にしがみついた。

それに応えるようにイザークはを抱きしめる。

「会いたかった」

「俺もだよ」

久しぶりに重ねた唇はの涙の味がした。





リクエスト内容
『幼馴染か婚約者のヒロインで、なかなか帰ってこない主に切ない思いを募らせるヒロインって感じの切甘な話』

リクエストありがとうございました!!





桜風
09.7.5


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