| もう10年以上も前になる。 わたしはこの街で迷子になったことがあった。 この街に初めて両親に連れてこられたのだが、途中、何かのパレードがあってそれに夢中だったわたしは母の手から離れてひとり、パレードについていったそうだ。 そこで、わたしは一人の可愛らしい女の子に出会った。 彼女は迷子になったわたしにずっとついていてくれて。両親を探すんだと主張したわたしに「動き回っては母上に見つけてもらえないぞ」と止めてくれた。 お陰で、母がわたしを迎えにきてくれたのはそのすぐ後の事だった。 そういえば、そのときさよならのキスをした気がする。 うん、ほっぺにだけどキスされた。 わたしは突然の事でびっくりして、彼女は「もう迷子になるなよ」と言った。 ん?そういえば、あの子。少し言葉が乱暴な子だったんだな... 「、何を考え込んでいるんだ?」 不意に聞こえた言葉によって現実に引き戻される。 「ああ、ごめん」 振り返って車の運転をしてくれているイザークに謝る。 本人は全く大して気にしていないようで「いや」と短く返してきた。 「ちょっと..じゃないね。随分昔にわたし、この街に来たことがあるの」 「そうだったのか?」 イザークが反応する。 「うん。でね、この街って年に1回大きなパレードがあるんだよね」 「今日はそれを見に来たんだがな」 わたしの言葉に呆れたようにイザークが返す。 「分かってるよ。それが、10年位前からあったんでしょ?」 「もっと前だ。...で?」 訂正してイザークは話の続きを促した。 「昔、そのパレードがあるってのを知らずに両親がこの日にわたしを連れて買い物に来たの」 「人が多かっただろう」 「そ。で、パレードが珍しかったわたしは見事にそのパレードに興味を示してついでについていって迷子になったって訳」 「昔から落ち着きがなかったんだな」 イザークが余計な一言を口にする。 「煩いな」と拗ねて返すわたしに彼は苦笑した。 「まあ、今ここにいるということは、ご両親に見つけてもらえたんだろう?」 「そう。この街の子なのかわかんないけど。母を捜すといって聞かなかったわたしを宥めて一緒に見つけてもらうのを待ってくれてたの」 「...へえ?」 少し間をあけてイザークは相槌を打った。 不自然な間に首を傾げながらも駐車場に車を停めてそのパレードがある大通りへと向かった。 昔見たときほどの感動はないけど、やはり派手で楽しい。 不意に視線を感じて横を向くとイザークがわたしを見ていた。 「パレード、見ないの?」 「を見ているほうが楽しそうだからな」 少し意地悪く笑いながらそう言う。 「だーめ。イザークもパレード見てよ」 イザークの顔の方向を修正して大通りに視線を戻した。 どうやら、パレードも終わりのようで人が散っていく。 「どうする?」 イザークが聞いてきた。 場所を変えて食事をしても良いし、この近くで済ませても良いし。そういうことだろう。 「行きたいところがあるんだけど」 わたしが言うと「ああ」とイザークは頷いた。 物凄く古い記憶を辿りながら着いた先は、昔迷子の末に両親を待っていた場所だ。 「あれ?此処だったかな?」 少し街並みが変わってしまったのでどうもしっくり来ない。 「此処だよ」 イザークの言葉に思わず振り返る。 彼は苦笑している。 「ここで、俺とはの両親を待ったんだ」 「ストップ!何?え、どういう...」 「は、『ママー』って泣き叫びながら歩いていただろう?」 何故それを!? 「俺も、此処で母上に待っているように言われていたからここに居たんだけどな。同じくらいの年の子が大泣きしていたからつい声を掛けたんだ。それで、一緒に待ってた」 「待って!何?わたしと一緒に待ってたのって女の子だよ?」 物凄く可愛らしい、銀髪で青い瞳の..女の...子? あ、あれ?? 「本人がそう言ったか?」 「いいえ」 「じゃあ、何で“女の子”って言うんだ?」 「可愛らしい格好をしてたし。顔も、将来美人になりそうな..イザークって美人だね」 うんざりした表情を浮かべてイザークは溜息を吐いた。 「え、あれって本当にイザーク?イザーク・ジュールさんでしたか?」 「そうだよ。アカデミーで会った時に俺はすぐにがあの女の子だと分かったのに。もちゃんと気づいていたんだと思ってたのにな」 少し恨みがましそうにイザークが言う。 「えー、と。だって、10年以上前だよ?」 「俺は、覚えていた」 それを言われると弱いなぁ... ちらりとイザークを見上げると眉間に皺が寄っている。 さて、どうしたらご機嫌が直るかしら? 「えーと、イザーク?」 「何だ?」 ご機嫌斜めの表情のまま、イザークが返事をする。 「ごはん、食べに行こう!」 脱力したようにイザークは溜息を吐いた。 「少しは機嫌を直そうとかしろ」 「だって、あんまり怒ってないんでしょ?本当は」 イザークは溜息と共に頷いた。 「のそういうところに一々怒っていたらキリがないからな」 さすが、よく分かってる。 そう思いながらイザークの隣に立って踵を上げてイザークのほっぺにキスをした。あの時のお返しだ。 イザークは驚いた表情を浮かべてわたしを見下ろした。 「ほら、行こうよ」 イザークを促しながら早足でその場を去ろうとする。 不意に腕を掴まれてそのままわたしの体は進行方向とは逆に引っ張られる。 思わず天を仰いだわたしの視線の先にはイザークの顔があり、あっさりキスされた。 「びっくりさせるな」 「それ、こっちのセリフ」 その姿勢のままわたしが返すとイザークは満足そうに微笑んだ。 どうやら、機嫌は直ったようだ。 |
桜風
08.5.1
08.5.18(再掲)
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