| ぼう、と自分を睨む少女に溜息を吐く。 館内放送が流れ、定時になったため閉館するとのことだそうだ。 「、閉館だ」 「あれ?」 放送すら耳に入っていなかったようで慌てて荷物を片付け始めた。 イザークはそれを手伝い、そのままのバッグを持つ。 「ありがとう」 イザークは視線をに向け、優しい表情を浮かべた。 「で?」 少し歩くとイザークがそう声を掛けた。 俯いていたは不思議そうにイザークを見上げた。 「『で?』って?」 「さっき、物凄い形相で睨んでいたじゃないか。何か話があるんじゃないのか?」 自覚はないが、何かしてしまったのだろうか... 「『見つめていた』って言ってほしいかも」 そう言うのお腹がぐぅ、と鳴る。 イザークとはお互い目を合わせて少し沈黙したあと、笑う。 「お腹すいちゃった」 「そのようだな」 笑いながらイザークとはよく足を運ぶカフェに向かった。 席に案内されてとイザークは向かい合って座った。 そうするとまたはイザークをじっと見る。 「また睨まれてるんだが...」 イザークが呟くように言う。 「睨んでないの!んー..思い出せないのよ」 が言う。 「思い出せない?何をだ?」 「わたしがイザークに初めて言った言葉」 イザークは眉を寄せて訝しげな表情を浮かべた。 「初めて言った言葉?ああ、そんなことか」 こともなさそうにイザークが言う。 「え!?覚えているの??」 思わず腰を浮かすほど驚いたにイザークは喉の奥で笑って頷く。 「知りたいか?」 楽しそうにいうイザークには数秒考え、首を横に振る。 「んー」とは唸り始める。 その表情を楽しそうにイザークは見つめた。 覚えている。 初めて会ったとき、名前もその存在すら知らなかった。 しかし、最初にかけられた言葉でに興味を持った。 特にそのシチュエーションは覚えていない。 ただ、彼女の言葉と表情を覚えている。 一緒に居るようになってその言葉は彼女にとってはそれほど特別なものではないということを知った。 そのことにショックは受けなかった。逆に、少し嬉しくなった。 目の前に居る彼女はまだ悩んでいるようだ。 「は、覚えていなくて当然だと思うぞ」 イザークが言うとは難しい顔をして首を傾げる。 「たぶん、意識をしないで発した言葉だろうからな」 そう話したところに注文したコーヒーがやってきた。 の前にはケーキセットだ。 難しい顔をしながらケーキにフォークをさすに「もう少し美味しそうに食べたらどうだ」とイザークが苦笑する。 そんな余裕綽々なイザークが少し恨めしくてはイザークがコーヒーを飲むそのタイミングで 「好き」 と言ってみた。 不意打ちを受けた形になったイザークはむせる。 顔を上げるとはニヤリと笑って美味しそうにケーキを口に運んでいる。 「...」 恨めしそうに唸りながらイザークが名を呼ぶ。 「最初の言葉、違った?」 しれっというにイザークは深く息を吐いた。 「初対面でいきなりそんなことを言われたら俺は引くぞ。あいつとは違う」 イザークの口から何度か『あいつ』という単語が出る。彼の友達らしい。の見立てでは『親友』だが、それを聞いたら全力で否定された過去があるので『親友』と表現するのはやめている。 むせたのも落ち着いてまたイザークがコーヒーに口をつけるタイミングを見て 「じゃあ、愛してる」 とが別の言葉を選んで言う。 先ほどよりも盛大にむせるイザークを見るとさすがにやりすぎたかな、と反省せざるを得ない。 「...」 先ほどよりも更に低い声で唸りながらイザークが名を呼んだ。 は肩を竦めて「ごめんなさい」と謝る。 一応反省しているようだから、イザークも説教をするのはやめておくことにした。 の腹の虫も満足し、席を立つ。 外はもう星が見えるくらいには暗くなっていた。 「遅くなっちゃったね」 の家に向かいながら彼女はポツリと呟いた。 「ま、閉館時間に出た後にここだろう?こんなもんさ」 そういえば、図書館に行って勉強をしたいと言ったのはなのに結局彼女はそれ以上に気になることがあって勉強に身が入らなかった。 イザークが指摘するとは恥ずかしそうに苦笑して「自業自得だから」と言う。 「でも、課題が出ているとか言ってなかったか?」 「言った、ね。まあ、何とか頑張ってみるよ」 の表情は浮かないままだが、彼女はそう言って腹をくくったようだ。今日は徹夜だ、と呟いている。 「付き合おうか?」 は夜遅くまで起きているのが苦手だから、せめて付き合って少しでも早く課題を終わらせる手伝いでもしようと思ってイザークが言うがは首を振った。 「自業自得です。あんまり甘やかさないで。でも...」 先ほどの言葉を繰り返し、はイザークをじっと見た。 「ありがとう」 微笑んでは言う。 それだよ。 心の中でイザークは呟いた。 の発する言葉の中で2番目に好きな言葉で、彼女が自分に向かって初めて口にしたのもこの言葉だった。 いちばん好きな言葉は、今日は運よく聞けた。 ...運、良かったのだろうか? 盛大にむせた先ほどのカフェを思い出してイザークは少し悩んだが、それでもやっぱり思い出せば嬉しくなるのだから、きっと運が良かった。 「」 イザークに呼ばれては「なあに?」と見上げてきた。 そのままイザークはに口付けを落とす。 「俺もだよ」 そう言っての手を引きながら彼女の家へと向かう。 「え、何が??」 は混乱しながらそう呟いている。 先ほどの彼女のいたずらに対する仕返しも出来たようだ。 楽しくなってイザークはクツクツと笑った。 |
桜風
09.5.1
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