| 天気がいい日に散歩に出かけた。 芝生の上でごろりと寝転び、空を見上げる。快晴の空の青さに引き込まれるようにすぅと瞼が下りた。 どれくらいそこに居たのかわからない。だが、目を開けると青空が夕空に変わっていて、さすがに驚いた。 ムクと体を起こす。 目を瞑る前まであった賑やかな子供の歓声もなく、静かな空間が広がっていた。 伸びをしてやっと気が付いた。 猫のように丸くなって寝ている少女が自分の隣に居たのだ。 「起こしてくれて良かったのに」 彼女の髪を梳きながらラスティは苦笑した。 さて、どうしたものか... ラスティの隣ですやすやと猫のように眠っている少女はと言う。 彼女はラスティが拾った。 拾った、という言葉は正確ではないかもしれない。正しくは、きっと『保護した』だ。 約ひと月前、ワンピースを着て裸足でトボトボと歩いている彼女の姿を見かけた。 変なのー、と思った。すると彼女は数人の男に囲まれた。 彼女が嫌がるのにその男達は無理やり彼女を連れて行こうとしている。知り合いなのかなーと思った。 しかし、彼女の嫌がり方が尋常ではなく、普段の自分だったら放っておいたよなーと今でも思う。 それなのに、そのときのラスティは彼女に向かって足を向けた。 「ねえ、その子と知り合いなの?」 不意に知らない少年に声をかけられて男達は一瞬戸惑ったようだったが、華奢な少年に怯える必要はないと判じたのか腕力でラスティを排除しようとした。 「あー、つまりは悪者ね?」 そう言ってラスティはあっという間にその男達を伸した。 少女はラスティを見てそして首を傾げた。 「名前は?」 とラスティが問う。 彼女は益々首を傾げる。 あまり深く考えないで首を突っ込んだが、どうやら面倒ごとだったらしい。 でも、まあ... 「女の子を助けるのは『正義』らしいし」と呟き、少し考えて実家に連れて帰った。 学校に通っているラスティは実家を出ている。 だが、さすがに身元不明の女の子を家に連れて帰るのは非常識だと理解しているラスティは実家を選んだ。 まあ、身元不明の少女を連れて帰ること自体がきっと『非常識』なのだろうが、そこはスルーしてもらうように頼もうと考えた。 ラスティが連れて帰った少女に皆は驚いた。 そして、親は息子にその説明を求める。 正直、自分もあまり状況を理解していないのだが、一応、推測も含めて話してみた。 「まあ、そうね...」 同情したのか親は彼女を追い出そうとしなかった。 「警察には届けておいたよ」 「当然でしょう。仕方ないわ、暫くウチで預かりましょうね」 話の分かる親で助かった。 「ところで、名前は?」 「わかんないみたい」 あっさり返すラスティに親は溜息を吐いた。 「名前が無いと不便じゃない」 非難するように言われてラスティは彼女を見た。 とりあえず、風呂に入れて着替えさせている。 「、ってのはどうかな?」 キラキラと輝く髪の色を見てそう言った。 「あら、意外と素敵な名前ね」 親にそう言われてラスティは眉間に皺を寄せる。『意外と』とは何だ、意外ととは! 「いらっしゃい、」 ラスティの親が呼ぶ。彼女はきょよんとした。 「君の名前、暫定的に『』ね」 ラスティにそういわれて彼女は理解したのかコクリと頷いた。 彼女に家のことを説明する親を見ながらいつ帰ろうかと時計に目をやる。 ふと視線を感じてそちらを見るとがラスティをじっと見ていた。 「困っているところを助けてくれたあなたのこと、王子様に思ってるんじゃないの〜?」 からかうように親が言った。 ラスティが少し迷惑そうに眉を顰めるとはしゅんとする。 「じゃあ、オレ行くわ」 「ああ、はいはい」 は驚いたようにラスティの親に視線を向けた。 「この子、家を出てるのよ。独り暮らし」 「んじゃ、また来るから」 そう言ってラスティは家を出て行った。 それから数日後に実家に帰るとは随分馴染んでいた。 残念ながら警察から連絡はまだない。 「どうすんの?」 自分が連れて帰ったが親が引き継いでくれたのでそのまま任せっぱなしになっている。 「ウチで今のところ雇おうかなって考えてるけど?」 居場所が出来ればこれまた生き方も変わる。 親の言葉に安心してラスティはを探した。実家は無駄に広い。 部屋が余っているのを知っていたから連れて帰ったのだが、ホント、広くてよかった。 「」 ラスティが声をかけると掃除をしていたは嬉しそうに振り返った。 「おかえりなさい!」 あれ?とラスティは首を傾げる。の声を聞いたのは初めてだ。 「何か、自分のこと分かった?」 おそらく記憶障害だといわれたと親から聞いている。 は首を傾げて笑った。「わかんない」と。 笑って「分からない」が言えるならきっと大丈夫だ。 「ゆっくりね」とラスティが声をかけると彼女は嬉しそうに笑った。 その日は実家に泊まった。親の晩酌に付き合い、部屋に戻る頃には日付がとっくに変わっていた。 窓を開けて外を見る。ふと、上の方から気配がした。猫かな、と思って窓に足をかけて覗いてみるとだった。ごろりと寝転んで丸くなっている。 「猫みたいだ」 苦笑して呟き、ラスティは屋根の上に上がった。 意外と高いな、と内心おっかなびっくりで足を進めての傍に腰を下ろす。 「、起きな。落ちるよ」 起こされたは目をこすっている。意外と寝起きは悪いのかボーっとしたまま動かない。 そんなの瞼に唇を落とした。途端に彼女は目をパッチリ開けた。驚いたようにラスティを見る。 「目が覚めるおまじない」 笑っていうラスティに「そっか」と彼女は納得してしまった。 素直なのは良いことだ。ラスティは笑って彼女を屋根の上から下ろした。 しかし、屋根の上は彼女のお気に入りらしく、自分が実家で過ごすときには必ず一度は屋根の上にいる姿を確認する。 「って、ホントは猫だったりして」 ラスティが笑いながらに言うと「にゃあ」と鳴きまねをして笑う。 ふと、自分の傍で寝ている少女を見下ろした。 あれ?とラスティは苦笑した。 「猫が狸寝入りだ」 声に出してラスティが言うと、「にゃあ」とは笑った。 「ほら、起きて。帰ろう」 そう言ってラスティは体を屈めての瞼にキスをした。 くすぐったそうに笑っては目を開く。差し出されたラスティの手を取って起き上がる。 そのまま手を繋いで家に帰る。空を仰ぐと夕焼けのオレンジが藍色に移ろいでいた。 |
桜風
10.5.1