It's so happy





悲しいことがあっても、痛いことがあってもは泣かなかった。

泣くことは即ち負けだと思っていたから。

しかも、その思考は誰から習ったのか分からないが、幼い頃からそうだったと親は言っていた。

だから、彼女が泣いていたのは言葉を発することが出来なかった乳児のときまでではないだろうか。


「てか、のその強情さ。すげーよな」

ディアッカが笑いながら言う。彼女との付き合いは生まれて間もなくからだ。

だから、逆に自分の方が泣き顔を見られていた回数は多いが、昔のことなので時効だ。

は「そんなことないよ、記憶に残ってるもん」とからかうが、誰が何と言おうと時効は時効なのだ。

そうでないと、かっこ悪すぎる。


平和な日々は続いた。

プラントの外ではどうやら『戦争』が起こっていて、これがまた結構長いものらしいのだが、自分にはそんなに関係の無いものだと思っていた。

しかし、そうは思えない出来事があった。

後に『血のバレンタイン』と呼ばれる地球軍からの攻撃だ。

それを契機にプラントの中の意見が所謂主戦派に傾いていった。

「ディアもアカデミーに入るの?」

「まあねー。ま、見てなって。あっという間にナチュラルどもを殲滅して平和な世の中にしてみせるから」

軽い口調でディアッカはそう言った。

そんなディアッカをは不安そうに見上げていた。

「あれれ?俺がいないとそんなに寂しい?」

「ばーか。そんなワケないじゃない!けど、ディアって結構抜け作だから、それが心配なの!」

はそう返す。言葉はそれなりに厳しいが、表情は不安を表している。

実はアカデミーへの入学を先に言い出したのはだった。

しかし、親の大反対にあって入学できない状況だった。彼女の親がアカデミーに手を回したのだ。

勿論、ザフトにも。

それなりの有力者で、彼女の親を敵に回すのはよろしくないと言う政治的判断により彼女はザフトへの道を閉ざされた。



「じゃ、ちょっと行ってくるな」

「気をつけて」

それがディアッカと交わした最後の言葉だった。

元々彼が優秀なのは知っていた。だから、アカデミーを卒業したら『赤』を着るだろうということは容易に想像できた。

そして、彼はトップガンとして戦場に出て行き、地球に降りて結局『MIA』となった。

親からその話を聞いたはその場にぺたりと座り込んだ。

信じられない言葉だ。

だって、自信満々で、優秀で...

そう。昔は泣き虫だったけど、ディアッカは優秀なのだ。それはもよく知っているし、おそらく、彼を知っている人たちはそれを否定はしないだろう。

「しかし、『MIA』だ。まだ、決まったわけじゃない」

父親がそう言って慰める。

ザフトのことを詳しく知っているわけではない。

だが、『MIA』となった者は大抵は「証拠は見つからないけど、おそらくもう希望は無いだろう」という意味だということくらいは知っている。

それからは外に興味を持たなくなった。

戦争も特に興味が無い。どちらが勝っても負けてもディアッカはもう帰ってこない。



それから間もなく戦争が終わった。

世界が平和になったわけではない。ただ、戦争を休憩するだけだ。お互い、疲れたから。

そんな時間のためにディアッカはいなくなった。益々馬鹿げている。


部屋のドアをノックする音が聞こえた。

返事をしないのに開けられて文句を言おうと振り返ったは息を飲んだ。

「よ!」

軽く手を上げて、少し居心地悪そうに立っているのは間違いなくディアッカ・エルスマン。

「MIAって...」

が言うと

「MIAって、『よくわかんないけど、たぶん死んだんじゃないんですかねー』ってもんだからさ。こういうパターンもあるってこと」

そう言ってディアッカは軽く腕を広げてみせた。

「良かった」とが呟き、ぽたりと床に雫が零れ落ちる。彼女は涙を流していた。

ディアッカも驚いて言葉が出ない。その代わりゆっくりととの距離を詰めた。

「こめん、絶対に不謹慎だってのは分かってんだけど。が、俺が生きてたことを喜んで泣いてくれて、そんで、またに会えて...すげー幸せ」

ディアッカはどこか泣きそうな表情をしている。

「ばか!」

「うん。俺、バカだ」

そう言ってディアッカはに手を伸ばして抱きしめた。









桜風
11.5.3


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