| 夕暮れを二人で歩く。 空を見上げるとオレンジ色で、そのまま視線を横にずらすと、やっぱりオレンジ色。 「なに?」 ラスティが首を傾げた。 は「ううん」と首を横に振り、ラスティの手を取る。 それに応じるように彼はその手を優しく握った。 日が沈み、星が瞬いてきたが、まだ二人は帰ろうとしない。 先ほど握った手は変わらず繋がっており、歩調もいつもより随分とゆっくりだ。 「...帰ろうか」 ラスティの呟いた言葉がこの時間の終わりを告げる。 「うん」と頷いたの頭をラスティはよしよしと撫でた。 駐車場に向かい、車で彼女の家へと送り届ける。 家の前に車を停め、ラスティは「じゃあね」と言う。 俯いている彼女を抱き寄せて、あやすようにキスをした。 唇が離れ、再び触れるかどうかのところで止まったが「ラスティ」と彼の名を呼ぶ。 「ん?」 ぎゅっとラスティの服の裾を掴んだ彼女は顔を上げた。 「今は無理なのは分かってる。だから、そのときが来たら、わたしと結婚して」 震える声で彼女がいい、ラスティは何も言わずに抱きしめた。 「ね、」 暫くを抱きしめていたラスティが彼女の名を呼ぶ。 「...なに?」 「お願いがあるんだ」 その声音にドキンと心臓が跳ねる。 「なに?」 「そのときが来たら、俺からプロポーズさせて」 抱きしめているラスティの腕の中ではコクリと頷いた。 「オレ、アカデミーに入るんだ」 そういわれては言葉を失った。 アカデミーに入ると言うことは、即ち戦争の只中に飛び込むことに繋がる。 今の戦争が明日明後日に終わるなどと思える人はそういないだろう。 いたとしたら、何故そう思うのか聞いてみたいくらいだ。 地球軍との戦争は激化の一途を辿っており、ラスティのような少年も戦場に赴く数が増えたと聞いたばかりだ。 「アカデミー...」 何とか搾り出してやっとの鸚鵡返しだ。 「うん」 「どうして?」 次に口にし単語は何とも酷かった。 ラスティは困ったように笑って「うん」と頷いた。 それじゃ、返事になってない。 そう思ったが、自分の問いのほうがおかしかったと思い、は俯く。 「だから、ごめんね。当分会えないんだ」 「うん」 「ごめんね」 『ごめん』を重ねられるたびに、の心が痛む。 何を言ってもたぶんラスティは『ごめん』を返すだけだ。 は大きく息を吐いた。 「さ、ご飯食べに行こう!」 何とかいつものトーンでそう言った。 「...ん」 ラスティは短く頷いてゆっくりとの後を追う。 いつもと同じデートだった。 食事をして、色んなお店に入って冷やかして、夕暮れが近くなると海岸に向かって車を走らせて。 海岸沿いを2人で歩いて、日が沈んだら家に帰る。 いつものそれと変わらなかった。 あの約束から1年近く経った。 入ってくる情報は、おそらく真実ではない。 少しずつ歪めてプラント市民が安心できるようにしているはずだ。 だから、は注意深く情報の正誤を探った。 当たり前にあった日常が、遠くなった。 夕暮れ時に海岸線を歩いても、隣を歩く人はいない。 夕焼けの空を眺めて視線を移しても、空しか見えない。 あんなに美しいと思っていた空を見ても、全く心が動かない。 「!」 驚いて振り返る。 「なん..で?」 が呟く。 彼はまっすぐに駆けて来て、をぎゅっと抱きしめる。 「だ...」 ゆっくりとそれを感じるように彼が呟く。 「ラスティ...」 「うん、オレだよ」 「ラスティ!」 は目の前の、すこし筋肉が付いた体に腕を回して抱きしめ返す。 「ラスティ...!」 涙が自然と零れた。 「ねえ、。約束覚えているよね」 彼女は頷く。 「、今からオレと結婚してください」 「今ぁ?!」 思わずが頓狂な声を上げる。 その声を聞いて、ラスティは微笑んだ。 「だって、あのときの約束。『今は無理』ってが言って、オレが『そのときが来たら』って言ったでしょう?もう来たんだよ、そのときが」 戦争が終わったという情報はプラント内でも流れていた。 しかし、はそれを疑っていた。アレだけこじれにこじれていたのだからこんな簡単に終わるはずが無いと思っていたのだ。 「もう、大丈夫なの?」 「うん、大丈夫。だから、オレのお嫁さんになってください」 ラスティは、大切なものに触れるように、の髪をひと房とって口付けた。 |
桜風
12.5.31
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