| 休憩時間にイヤホンをしていると目の前に顔が出てきた。 「何を聞いているんですか?」 何かを聞いているとニコルは必ず興味を示す。 そんなニコルに慣れっこのラスティは片方のイヤホンを抜いてニコルの耳に挿した。 「クラシック。えーと、ヴァイオリンで...」 「ちょっと黙っててください」 はーい。 集中したいようだ。 「これ、どうしたんですか?」 目を丸くしてニコルが聞いてきた。 「に借りた。あ、って」 「義妹さんでしょ?...あれ?さんって、・って言いましたっけ?」 「言いましたよ?」 何だろう、何処に引っかかったんだろう。 お父さんが資産家としてメキメキ業績を伸ばしているのはもうイザークが言ったし、そのときはたしかニコルも居たから同じ事を言うはずがないし。 「これ、誰の演奏だって言ってました?」 「わかんない。オレが興味ないから。音楽として楽しむつもりだったし」 ラスティの返事にニコルは黙り込む。 何だろう... 「知ってる人?」 「たぶん、間違いないと思います。『・』です」 「...?」 ラスティは首を傾げた。 「ええ。です。僕も、さんの話を聞いたときなんか引っかかったんですよね。でも、イザークが資産家だって話をしたからああ、そうかって納得したんですけど。そうか、そうですよ。ヴァイオリニストの・が一瞬浮かんだんです」 物凄く納得したようにニコルは言うが、ラスティはさっぱりだ。 では、ユーヒ・の元奥さんがヴァイオリニストなのか? しかし、これで何となく納得した。が部屋にたくさんのクラシックのディスクを持っていたこと。 母親の演奏したものもたくさんあったのだろう。 「でも、・って...」と隣でニコルが言葉を濁す。 「なに?」 「彼女のディスクを買おうと思ったら、月まで行くか、ヘリオポリスに行くかしか方法はなかったんです。この間までは」 その言葉が指した意味は、ラスティもちゃんと正確に受け取った。 「何で、プラントに居るんだろう」 の口ぶりでは戦争前から..と言ってもナチュラルとコーディネーターの確執はかなり昔からのものだから、正直、ナチュラルがプラントに居ること自体中々ないことだし、寧ろ、プラントはコーディネーターが自分が住むために作ったようなものだからナチュラルが住んでいることは稀もいいところだ。 では、何故? はたぶん、ナチュラルでユーヒがコーディネーターだった。だから、プラントに移り住んでいた。 そう考えるのが自然だろうか。 「いつごろまでディスクを出してたの?」 「・ですか?えーと、でも。古いですよ。僕が生まれたときにはもうディスクを出していなかった。というか、音楽活動をしていなかったと思います。いつの間にか名前を聞かなくなったって、母さんが...」 じゃあ、を身篭ってから音楽活動をやめたのだろうか。 「直接的には聞かないほうがいいですよ」 ニコルに釘を刺された。 「オレだって内容によって言葉を選ぶよ」 「初耳です」 「だろうね。初めて言ったもん」 ニコルの嫌味にそう返してラスティは、そもそも聞いていいことなのか少し悩んでいる。 「あ、いつコンサート?」 「半年以内にはどうにか開きたいって思っているんですけど。さんですか?もちろん、招待しますよ」 色々と言葉を省いたはずなのに全部汲まれた。 「ニコルって、エスパーだよね」 「慣れ、ですよ」 何年付き合っていると思っているんですか、と笑いながら彼が言う。 そうだよなー。 そう思うと何だか不思議だ。 幼馴染と言っても憚れない友人たちがこぞって気が付いたらザフトで戦争をしていて。 幼馴染の中で一番優しくて幼いニコルがアカデミーに居るのを見たときには夢だと思った。 彼はピアノを弾いてその音でたくさんの人の心を癒すことが出来るのに、それではない方法を、辛い道を選んだ。 わしわしと目の前に居るニコルの頭を撫でた。 「何をするんですか?!」 気分を害したようだ。 「ううん、ごめん」と素直に謝るラスティにニコルは溜息を吐いた。 「気にしないでください。僕は僕で色々と覚悟をしてこの道を選んだんです」 「ニコルってやっぱりエスパーだ」 笑いながら言うラスティにニコルは困った表情を浮かべている。 本人はいつものように笑っているつもりなのだろうが、いつものちょっとイラッとくる能天気なそれではない。 「ラスティは、ホントにうそがつけない人ですよね」 「うそは得意だよ」 「...そうかもしれませんね」 たぶん、本当にそうなのだろう。 そうでなければ、母親に心配をかけてしまう。今はともかく、彼がこの道を選んだときは彼女はひとりで、いろんなものと戦っていたはずなのだから。 |
桜風
10.4.1
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