| 「ホントに大丈夫?!これでいいの!!??」 この言葉は何回目だろう。 ラスティは少し疲れたように「大丈夫って何回言ったら落ち着いてくれる?」と返した。 「がニコルのピアノのファンなんだって」と何気なく本人に話したら、「では、コンサートまでまだ期間があるから家に遊びに来ませんか」と誘われた。 数曲くらいなら人に聞かせても恥ずかしくない程度には仕上がっているそうだ。 電話でにその話をすると物凄く喜んだため、ラスティはニコルの休みにあわせて休暇をとる羽目に陥ってしまったのだ。 家はニコルが住んでいるマイウス市のコロニーにある。 だから、ニコルの家に行くのには結構近くて楽だ。 は、ニコルの家に行くに当たってどんな格好をすればいいのかと聞いてきた。 ドレスとかの方がいいのか、という意味らしい。 しかし、ラスティにとってみれば友人の家に行くのだからそんな畏まる必要はないと思っている。 というか、畏まって彼の家に行ったことなんてただの一度もない。 だから、にもそこまで畏まる必要はないと言ったのだが、はそれで本当に大丈夫なのか心配のようで、家を出ても同じことを何度も確認する。 そわそわと落ち着かないにラスティは呆れた。そんなに好きなんだな、と。 「いらっしゃい」 ホールに案内されるとニコルが迎えに出てくれた。 「初めまして、さん」 「は、はい。初めまして」 カチコチに緊張しているを見ると、自分との初対面のあの態度は夢かと思ってしまう。 夢じゃなかったけど。 しかし、ニコルは自分と同じ『男』で『ザフト』なのに、とちょっと理不尽に思えてきた。 「どっちのピアノ?」 ニコルの家にはニコルの部屋と庭先の部屋の2つピアノがある。 「庭の方ですね」 流石に初めて遊びに来た女の子を自分の部屋に案内するのはどうかと思ったのだろう。 以前ニコルが言っていたが、やはり自分の部屋のピアノの方がなれていることもあってか音が落ち着いていて好きなのだそうだ。 そうは言っても、客が来ると大抵庭先の部屋に案内するから、そっちの音も慣れてはいる。 「どうぞ」とドアを開けて中に入るようにを促した。 「失礼します」と声をかけて入った部屋には大きなグランドピアノが置いてある。 「うわぁ...」と思わず声を漏らしてしまったは慌てて口を手で覆った。 ニコルは3曲ほど演奏した。 は感動のあまり言葉が出ないようで、呆然としている。 困ったようにニコルがラスティを見るとラスティは肩を竦めた。 そんな中、絶妙なタイミングでメイドがお茶を持ってくる。 「どうでした?」 紅茶を飲んで少し落ち着いたにニコルが声を掛ける。 「凄くステキでした!」 キラキラした瞳でが応えた。 何か、面白くないなぁ... 視界の端で面白くなさそうにしているラスティにニコルは苦笑しながら「それは良かったです」と返す。 「さんは何か楽器を演奏しないんですか?」 「わたしには母のような才能はありませんから」 少し悲しそうにいうにニコルは話題を変えた。 ちょうど紅茶を飲み終わったところだ。庭を案内すると話す。 はその言葉に喜んで頷いた。 「ラスティはどうします?」 「オレは、パス。ちょっと休みたい」 「わかりました」とニコルは返してラスティに心配そうな視線を向けているを促して部屋を後にした。 「わたし、すっかりラスティに甘えてた...」 呆然と呟くに「大丈夫ですよ」とニコルは返す。 「昔、と言ってもついこの間ですけど。そのときに比べたら今の仕事は結構体力的にも精神的にも楽なほうです」 は俯き、「聞いてもいいですか?」という。 「どうぞ?」 彼女が聞こうとしていることは何となく想像がついた。 「どうして、ザフトを選んだのですか?ニコルさんなら別の道があって、その道に進んでもきっとたくさんの人を支えられたと思います」 「出来ることがあったから、ですかね。僕がピアノを弾いたら癒されるって言ってくれる人は居ます。でも、それでは戦争が終わらないと思ったんです。だから、志願した。 けど、結局僕が戦わなくても今みたいな状況になっていたかもしれない。もちろん、なってなかったかもしれない。仮の話をしても仕方ないですよね。でも、あの時はこれしかないと思ったんです。今は、ある意味仕方なくザフトに籍を置いているってところも否めませんけどね」 苦笑してニコルが応えた。 「ラスティも、同じようなことを言ってたんです」 「ラスティは優しいですから」 はきょとんとニコルを見る。 「そう思いませんか?」 ニコルの言葉にラスティの言葉や行動を思い出す。 はコクリと頷いた。 「ラスティは僕のことをやさしいと思っているみたいです。嬉しいですけど、僕はラスティほどじゃないと思ってるんです」 少し離れたところからピアノの音が聞こえる。 は不思議そうに首を傾げた。ニコルがここに居るのに... 「たぶん、ラスティですね。昔習ってたっていってましたから」 「上手じゃない!」 驚いたように、少し怒った口調でが声を上げる。 「もう弾けないって言ってたのに!!」 ぷんすか怒るにニコルは笑う。 笑われて紅くなったは俯いた。 「ラスティと一緒に居たら大人しくなんて出来ませんよ?」 「...なんとなく、それ、分かります」 結局喜怒哀楽がいつの間にか出てくるようになってしまった。感情があると嬉しいこともある反面、悲しいこと、辛いことがたくさんあって、それを感じてしまうから封印していたつもりなのに... 「さん。笑えるときに笑って、怒れるときに怒って、悲しいときには泣いて...それって凄く幸せなことなんですよ?」 もう二度と笑ったり怒ったりすることが出来なくなった人たちを知っているニコルはそう言って微笑んだ。 |
桜風
10.5.1
ブラウザバックでお戻りください