| 帰りの車の中では大人しかった。 「寒い?」 あけていた窓を閉めようとしたら「ちがう」と止められた。 「ピアノ、弾けるじゃない」 うそつき、と付け加えてが言う。 「オレのいう『弾ける』ってのはニコルレベル。遠く及ばないだろう?」 ニコルと比べるほうがどうかしてると思う... は半眼になってラスティを見た。 「今日はありがとう」 「明日は気候制御装置が壊れるのかなー」 そんなラスティの返しに少しムカついたが、ニコルに指摘されたとおりだと思うと何だか悔しくなってくる。 「わたし、体が弱かったのよ」 「んー?」話半分に聞く気でラスティが適当に応えている。 「心が原因じゃないかって言われた。そうなったのって、ママが亡くなってからだから」 「心?まあ、案外繊細そうだもんねぇ」 「...ラスティはわたしに嫌われたい一心なの?」 真顔で聞いてみると「いいや?」と返される。 たちの悪い男だ。 「ラスティ。ナチュラルをどう思う?」 ちらりとを見た。 俯いている。 「結局調べたんだ?ナチュラル、ねぇ...別に嫌いでも好きでもないよ。 だって、ナチュラルでもムカつくやつが居るだろうし、仲良くできる人もいるだろうし。コーディネーターでも同じ。ムカつくヤツも、好きなやつもいる。ナチュラルがどうこうって言うんじゃなくて、個人がどうこうってのじゃないのかな、普通は」 ラスティが正論を言うと何でこんなにムカつくのだろう... 「うん、調べた。わたしの遺伝子を調べても、相手の遺伝子がなかったら結局わかんないことだし。研究所も守秘義務を持っているから、もし相手がわたしを探していてもわたしの同意なくして教えることないって言ってたし」 それはどうだろう、とラスティは心の中で思う。 組織としてそうであっても、金を握らせて個人的にそういう情報を漏洩させる方法だってある。 まあ、そういうことに思い至らないのはきっと今まで平和だった証拠なのだろう。 それに、それで遺伝子上の父親が無理やりを連れて行こうとしたら、まあ..間に入ってみるつもりだし。本人が希望すれば別だが、今のところ希望しそうにないから嫌がっている彼女を連れて行かせるつもりはない。 「最近は元気なんだ?」 「まあ、うん...皆に言われるの。笑うようになったね、って」 ああ、確かに。 初めて会ったときの仏頂面。あれは衝撃的だった。 にその話をしたら怒られた。そんな記憶とっととデリートしろ、と。 悪い意味でしかないが、とても印象的だったのだからムリな話だ。 「そういえば、今日はおばちゃん居なくて良かったな」 話を変えて誤魔化すことにした。 は呆れつつもその誤魔化しに付き合ってやることにした。 「おばちゃん?ニコルさんのお母さん?」 「そ。母さんが言うには、女の子の居ないお母さんというのは女の子に飢えているそうなんだよなー。家に女の子が遊びに来るとか言ったら物凄く張り切って構いまくるはずだ、って。メイドさんに聞いたら今日はどうしても外せない用事があったんだって」 「どんな人?」 どんな、と言われてラスティは少し考える。 「優しい人。家庭的な雰囲気があるな」 他の友人の母親に比べたらなんと言うか、突出した何かがあるわけではないが、それが逆に癒されるというか、『お母さん』という感じなのだ。 その対極にある人を思い浮かべてやっぱり全然違うと思った。 でも、ニコルの母親と彼女はとても仲が良い。 彼女たちがに会ったとしたら、と想像してラスティは苦笑した。 とても大変な目に遭いそうだ。が。 を無事家に送り届けた。家に入らないのか、とに言われたがなるべく早く自宅に戻りたい。 そういうとは少し寂しそうな表情を浮かべて「今日はありがとう」と先ほどと同じ言葉で礼を言う。 「気候制御装置が...」 「もうそれは良い!!」 ぷんすか怒るに、「じゃあ、また」と声をかけてアクセルを踏む。 ふとミラーを見るとがまだ門のところに立っている。 ひらひらと手を振ってみたらはそれに応えた。 「目が良いんだ...」 どうでも良いことに感動してラスティは自分が普段生活しているコロニーに帰るべくハンドルを切った。 |
桜風
10.5.1
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