| ニコルたちはまだ挨拶をしていない人たちが居るから、とまた人ごみの中へと消えていった。 「何か飲む?」 「うん」 2人がドリンクの置いてあるテーブルに向かう途中、声をかけられた。 誰だかわからない。 しかし、雰囲気というか顔のつくりというかで何となく分かった。 ジェレミー・マクスウェルの今の息子だ。 驚いたことに自分と同じ年らしい。いやはや、それを知ったときには流石にびっくりした。 「お前の母親はに取り入ったらしいな」 ニヤニヤと笑いながら言う。 は既にパニックを起こしていた。 敵意丸出しの人間を前にしたことがないのかもしれない。 その敵意は自分に向いているのだが、だって一緒に居たらそれに当てられる。 ラスティはさりげなくを背に庇った。 「取り入ったかどうかは別にして、幸せに暮らしているよ。マクスウェル議員にもそう伝えてよ。じゃあ」 そう言っての手を引いてその場を去ろうとしたが、彼は気がすまないらしい。 面倒なことだ。 が居なければ笑顔で物凄く抉る言葉を浴びせて、生まれてきてごめんなさいと泣きながら後悔するくらいに突き落としてやるのだが、流石に彼女の前でそれだけの攻撃的な言葉を口にするのは憚れる。 「ジョウイ」 ああ、そんな名前なんだ。 別の声は昔は良く聞いた、でもあまり懐かしさがこみ上げてくるようなものではなかった。 不思議だな、と思う。 「久しぶりにお目にかかります、ジェレミー・マクスウェル議員」 ラスティが正式な挨拶の作法で彼に挨拶をした。 「久しいな。元気にしていると聞いている」 「では」とラスティが去ろうとしたら「ラスティ」と呼び止められる。 無視するとに迷惑が掛かる可能性も否定できない。 「...なんでしょう」 「私の下に来ないか」 ジョウイはその言葉がとても意外に思ったのか、目を丸くしている。 でも、ラスティはそうは思わなかった。 こう見えて、自分は優秀だ。 とても、有益な『道具』になる。 「今の生活は、昔に比べると惨めだろう。私の下に来なさい。昔のとおりの贅沢な暮らしが出来る。今みたいに、ザフトで働き続けなくてもいい。どうだ?」 いい話として提供された条件なのだろう。 だが、ちっとも惹かれない。 自分は今まで、両親の離婚のときから全部自分で選んできた。 確かに後悔したことは多々ある。 でも、今の自分は嫌いじゃないし、生活だって自分の身の丈にあっていてちょうどいいと思っている。 こんな窮屈な場所に戻りたいと思ったことは一度もない。 何より、母が大切だ。 「私は、今の生活に不満はありません。惨めだと思ったこともないし、嫌気が差しがことはありません。あの家に戻るほうがよっぽど窮屈で、退屈です。ザフトに入ったのも、残ったのも私の意志です」 ラスティの言葉がどうやら意外だったらしいジェレミーは目を丸くして、ラスティの後ろに隠れているに視線を向けた。 怯えているのが目に見て取れる。 「そんな退屈な子供の面倒を見ることも、お前が選んだことか?帰って来い、ラスティ。に利用される前に」 「戻ったらあなたに利用される」 キッパリとそう返した。 ザフトレッド。これだけで自分には随分と価値がある。 ラスティはそれを知っていた。 ジェレミーと同じプラント代表評議会の議員の子でザフトに入っている者たちはザフトレッドの称号を得ている。 それに比べて、自分の子は、と思ったのかもしれない。 自分の子、即ちジョウイ・マクスウェル。 急進派の自分の息子でありながら、戦争を避けて家で悠々自適な生活を送っていた。 正直、恥ずかしいとも思った。だが、ジョウイがザフトに入って赤を着られるとは思えなかった。 だから、ザフトに入ることも勧められなかった。 ラスティが戻ってきたら面子が保たれて、名声が入り込んでくる可能性がグッと上がる。 相変わらず欲深い人だ、とラスティは呆れた。 そして、目の前のジェレミーの眸の色が変わったことに気が付いたラスティは小さく舌打ちをした。 |
桜風
10.6.1