| 親同士がひととおり挨拶を済ませたあと、彼らはラスティに視線を向けた。 「久しぶりね、ラスティ。イザークってば家に帰ってもあまり話をしないから皆が元気かどうかすら分からないのよ。ちょっと冷たいと思わない?」 拗ねたようにエザリアが言う。 「お久しぶりです、エザリア様。まあ、イザークも母親と話をするのが照れくさいお年頃なんですよ。思春期ですよ、思春期」 「ちょっと。何あなたがえらそーなことを言ってるのよ」 母からの突っ込みに肩を竦める。 「今度、遊びにいらっしゃい。それに...」 そう言ってエザリアはラスティの背後に隠れているをじっと覗き込んだ。 「、挨拶」とラスティが促すとたどたどしく、途中で噛みながらも教えられたとおりの挨拶をする。 挨拶が終わった開放感の余韻に浸る間もなく、突然抱きしめられての思考回路はショートした。 「いいわ!女の子、いい!!イザークが女の子だったら一緒にショッピングして、オシャレして。恋の悩みについても話を聞いてみたいし...ちょっと、凄く羨ましいわよ!!」 ラスティの母は誇らしそうに、胸を張った。「いいでしょ?」と。 「ジュール議員、できればを離してやってもらえませんか。その...」 「可哀想だぞ」 ユーヒが遠慮がちに言い、タッドが苦笑しながら続ける。 抱きしめられたそのときの格好のままは固まっていた。 「あら?ごめんなさい。今度遊びにいらっしゃい。ついでに、ラスティも」 「オレ、いきなり『ついで』に降格ですか?」 笑いながらラスティが返すと「女の子の方がいいもの」と悪びれずにエザリアが返す。 「うちにも来なさい。妻が寂しがっているぞ。もちろん、嬢も一緒に」 「おばちゃんのミートパイめちゃくちゃ美味しいですよね!」 「伝えておく。張り切って大量に生産するぞ?」 笑いながらタッドが応えた。 「今日は...」とラスティは周囲に視線をめぐらせる。姿が見えない気がする。 「どうしても外せない用事があってな。まあ、正式な行事でもないし、いいだろうと思ったんだ」 なるほど、とラスティは納得した。 「エザリア!」 振り返るとニコルの母親が居た。 こういう場に彼女が来るのは正直珍しいと思う。 「あら?この子ね、ちゃんって。こんにちは」 優しい雰囲気の彼女には緊張がほぐれたようで、促さなくても挨拶をした。 「この間遊びに来てくれたのよね」 「何ですって!?じゃあ、次はウチよ!!」 エザリアが過剰に反応する。何か、見た目の雰囲気とは随分違う人だな、とはエザリアのキャラクターに慣れてきた。 「ニコルのピアノを聴きにいったんですよ」 ラスティが言うと「ニコルのピアノ...」とエザリアが唸る。残念ながら、自分の息子はそういった方面の才能を伸ばさなかった。 対抗できる手段がない... 「可愛らしいお嬢さんを連れてくる、ってニコルから聞いたときにはホント、その日の用事をドタキャンしようかと思ったんだけど」 そう言って傍に立っている夫のユーリ・アマルフィを見た。 「それは困る」 苦笑しながら返す彼の反応を見て、「と、言うわけだったの」と残念そうに肩を落としていた。 「ちゃんは、本当にモテモテね」 笑いながら母が言う。 「オレと張るよね」 とラスティが言うと 「ラスティよりちゃんのほうが良いわ」 とエザリアたちは声をそろえて言う。 「ひどいなー」とラスティは笑った。 「ラスティ、こういう場で何かあったら言いなさい。家の事は気にしなくていいからな。それ以外は、自分で何とかしなさい。ディアッカが手を貸すと言ったら借りれば良い。それは友人としての当然の行動だ」 タッドは苦笑して言う。 「ユーヒ殿も、何かありましたら声をかけてください」 ユーヒは恐縮したように頭を下げる。 「では、私はこれで」 タッドが居なくなったのを合図に、エザリアもアマルフィ夫妻もその場を去っていった。 ユーヒたちも実は挨拶の途中だったらしく、また人の多いほうへと足を向ける。 「あ、あの。ユーヒさん!」 ラスティは慌てて彼を呼び止めた。 「何だい?」 改めて言うのは照れくさい。 何より、母がそれを察してほくそ笑んでいる。 「さっき、ありがとうございました」 「『さっき』?」 詳しく説明しなくてはならないのか... 「オレのことも..その...守ってくれて」 「不発だったけどね」 苦笑してユーヒが返すが、ラスティは首を振って「初めてだったんで」と続けた。 「今度はもっとかっこいいところ見せられるように頑張るよ」 ユーヒはそう応えて、足早にその場を去る。 「...おとうさん、照れてる」 ユーヒの背中を見送りながら、はポツリと呟いた。 |
桜風
10.7.1