Blue bird 21





挨拶という仕事が終わったらしい友人たちと話をしていると「ラスティ、あれ」とディアッカが顔を動かしてドリンクバーの方角を指した。

その先には、困った表情の、寧ろ怖がっていると元ザフトの先輩が居た。

さっきまで飲んでいたものとは別のドリンクが飲みたいといって自分たちの傍を離れたのだ。

そのちょっとの間にこんなことになっている。

まったく、とラスティは溜息を吐いた。

はあのの令嬢だ。

彼女との婚姻を望んでいる半端な資産家がたくさん居ると聞いた。でも、普段はこんな席には顔を出さない。だから、今しかないチャンスにみんな一生懸命なのだろう。

「ちょっと行って来る」

ニコリと笑ってラスティは少し足早にそちらに向かっていった。

「あーあ」とディアッカは楽しそうに揶揄するように声を漏らす。


「あ、あの...」

「ですから、今度ご一緒に映画でも」

男がの腕に向かって手を伸ばしたが、それは別の手に掴まれて止まった。

「ラスティ!」

が嬉しそうに自分を助けてくれた人の名を呼ぶ。

「あっちにニコルたちが居るから、避難してな」

ニコニコと笑って言う。

その笑顔はいつものとは違って見えた。

「うん...ラスティは?」

「この人、ザフトの先輩なんだ。あ、退役したから元ザフトね。ちょっと久しぶりに話がしたいんだ。ねー、センパイ?」

がラスティと何らかの繋がりがあることを知った彼は顔色を失っている。


少し足早に駆ける様にニコルの元へとは向かった。

「大丈夫でしたか?」

ニコルが声を掛けると「は、はい」とは心配そうに振り返った。

その先には、やはり笑顔を湛えているラスティと逃げ腰の男が話をしている。

「ほら、ドリンクをどうぞ。お姫様」

そう言ってディアッカがノンアルコールのジュースを差し出した。さっき飲んでいたものとは別のものだ。

「あ、ありがとうございます」

グラスを受け取ってはディアッカから距離をとる。

ラスティの言葉をきちんと守っている。

ラスティのヤロー...

そう思いつつもディアッカは一方で苦笑した。

「あの..あの人とラスティって仲が...」

「悪くない」と答えたのはイザークだ。

「でも、ラスティの笑顔...」

が言うと彼らは顔を見合わせて苦笑した。

「凄いですね。ラスティの笑顔の違いが分かるなんて。同期でもたぶんわかる人は少ないと思いますよ」

「だって、いつもはイラッとくるくらい能天気に笑っているけど、あれ、目が笑ってないもの」

ああ、やっぱりイラッと来るよねぇ...

ディアッカはうんうん、と頷く。

「あいつは..まあ。聞いて楽しい話じゃないな」

イザークが何か教えようとして躊躇い、言葉をしまった。

「聞きたいです」

「後悔しても知らないよ?」とディアッカ。

は頷いた。

「昔、地球での戦闘で。僕たちのほうが優勢で、地球軍の兵士たちは投降しました。でも、あの人は...」

ニコルが濁した言葉の先は、も分かった。

「で、そのときにラスティが怒ったんだよ。『命を何だと思っている!』って。まあ、その事件で懲罰を受けたのはラスティの方だったんだけどな。こっちはザフトであっちは地球軍。まあ、戦争ってそういうもん。
でも、そのとき、再起不能なまでに言葉の暴力でメタメタにされたあの人はラスティを見るだけでこう..今のように腰が引けてさ。懲罰を受けた後も、ラスティは考えを変えなかったし。俺とかイザークは急進派の考えでザフトに入ったけど、色々と見て、考えて..まあ、今ではこんな感じ。でも、親父さんが急進派だったけどラスティ自身は穏健派でそれはそれでやりにくかったんだと思うな」

『急進派』という言葉を聞いて、はニコルの背中に隠れた。

「今はそんなことを思ってない」

少し不快そうにイザークが言う。

彼らは自分がナチュラルだということを知っているのだろうか...


「たっだいまー!」

ニコニコと何やらすっきりしたような表情でラスティが戻ってきた。

振り返るとあの人は居なくなっていた。

「あの人は?」

が聞くと

「ああ、うん。用事を思い出して帰ったよ。にもさっきの映画とかの話は悪いけどなかったことにしてほしいって伝えてほしいって」

とラスティが答えた。

『泣きながら』ってのが付かなかったのかな?とディアッカたちは思った。

「あ、ラクスだ」とラスティが目ざとく見つけて言う。

「随分遅くの登場だなぁ」と呟いたのはディアッカだ。

「やっぱり、外交の手伝いが終わってから来たんでしょうね」

ラクスは戦争に利用されていた反面、『平和の歌姫』の肩書きがある。

停戦合意中の今はその平和への道を確実に進んでいることをアピールするために、今もまた彼女は利用されている。

「かわいそう」

ポツリと呟いて言うに彼らは顔を見合わせた。

「それが、ラクス・クラインの役目だ。それなりの家に生まれたらそれなりの重責がある。ラクスは、知ってのとおりだ。あれは、ある意味で義務だな」

イザークが言う。

イザークもまたそういう重責のある家の者だ。イザークだけではない。ディアッカもニコルも。それぞれが親の関係で責任を少し多めに背負っている。

では、ラスティは?

はラスティを見上げた

「オレはお陰さまで、さっき見たとおり気楽な身分だよ」

』を名乗っていないラスティは随分と気楽なところに居る。

寧ろよりも楽な位置に立っているのだ。

「あとで、ラクスとも話をしてみる?」

少し悩んでは首を横に振った。

まあ、今日はたくさんの人と知り合いになったから疲れただろうな、とラスティは納得して頷いた。









桜風
10.7.1