| 「あれ?ラスティ珍しい...」 ラスティは連休にならないとこの家に来ない。そして、連休の1日目の昼間に来て夕方に帰る。たまに夕飯を一緒に食べて帰るが、そうなると帰る時間が遅くなるのでこちらで用事がない限り夕飯前に帰っている。 だから、明日も出勤だといっている今日、この時間まで残っているのは珍しくて仕方ない。 それなりに部屋の外に出るようになっただが、それでも1日の7割は自室に籠もっているから、ラスティが来ていたことに気が付かなかった。 ラスティはチェス板を挟んでユーヒと向かい合っている。 「どっちが勝ってるの?」 覗き込んでが言う。 「オレ」「私」 2人が同時に言う。 「...え、どっち?」 「今はまだどっちって言えないレベルって事」 笑いながらラスティの母が言う。 「ラスティ、チェスも出来るんだ」 「大人のたしなみデスヨー」 からかうように言うラスティにムッとする。 「すぐに子ども扱いする」 「見聞を広めとけよー。大人になって『知りませーん』って結構恥ずかしいことだぞー」 「偉そうに」と母が揶揄する。 はソファを持ってきてチェス板の横に座った。 「おとうさん、頑張って!」 「ユーヒさん、ラスティなんてこてんぱんにしちゃって!!」 「えー!公平にどっちかはオレの応援しようよ」 「義理でいいかしら?我が息子よ」 真顔で母親にそういわれたラスティは「酷いなー」と笑いながら呟く。 「イザークがチェス強いのよね?」 「そうなんですか?」 ラスティの母の言葉にが聞き返す。 「たしか、マティウス市のジュニア大会で優勝?」 「どうだったっけ...まあ、強いよ。アスランと並んで」 チェス板から目を離すことなくラスティは答えた。 イザークといえば、先日パーティで彼の母親に是非とも遊びに来るように、といわれたのを思い出す。 思い出すが、ラスティが随行してくれなければ行けない。 ラスティは仕事をしていて働いていて忙しいのだ。 頼めば「いいよー」って言ってくれると思うけど、それってどうなのだろう... 「ラスティ、がんばって」 ポツリとが言う。何かよくよく思えばとてもお世話になっているような気がしてきたのだ。 ラスティはもちろん、ユーヒやの隣に座っていたラスティの母が目を丸くして彼女を見た。 「よし!オレ、がんばる!」 「..そうか、ラスティ君の方がいいか...ラスティ君、こうなったらこてんぱんだ」 「カウンターをお見舞いしますよ!!」 熱くなる男性陣に苦笑して「2人とも頑張れー」とラスティの母は応援している。 何だか、とても暖かい空間だった。 不思議だな、と思う。 父が結婚すると聞いたとき、本当は怖かった。 自分の存在がなかったことにされるのではないか、と。 でも、その結婚相手に会ってみるとそんな不安は随分と解消された。 しかし、彼女に息子が居ると聞いてまた別の不安が胸をよぎった。自分だけ疎外感を感じるのではないか、と。 父と彼女は婚姻という形で家族になるし、彼女とその息子は血の繋がりという家族の証がある。 それが自分にはない。父は叔父だから血の繋がりがないとは言わないが、縋れるほど自分にとって大きなものではなかった。 ラスティに初めて会ったとき、この家にやってこられたら自分だけ仲間外れになるから追い出そうとした。 父と彼女が結婚した後、ラスティは独り暮らしをしていると聞いた。 ちょっと安心した。 でも、自分が家族を壊すというのも怖くて、どうしていいかわからなかった。 ラスティの笑顔は不思議だった。 見ているとイラッとすることがあるが、でも、同時に安心する。 何度もさりげなく助けてくれている。 自分の方が年上だから、とラスティは言うがそんなに変わらない。 「お食事の用意が整いました」 メイドが呼びに来た。 「じゃあ、今日は此処までということにしよう」 ユーヒに言われてラスティは頷く。 「次来た時には決着をつけましょう!オレの勝ちです!!」 自信ありげな笑顔を浮かべてラスティは頷いた。 「次で勝負が決まるの?」 チェスのルールは全く分からない。だから、今どういう状況なのかさっぱり分からないのだ。 「まだまだね。次回で決着をつけようと思ったら寝ずに1日ぶっ通しで...それでもどうにかなるかどうかよ」 笑いながら彼女が言う。 「...おかあさんは、分かるんですか?」 「ええ、たしなむ程度に。今度ルール教えようか?後はどれだけゲームをするか、経験によるものとかあるだろうし。ユーヒさんに相手してもらえばいいだろうし」 彼女の言葉には頷いた。 最近の自分はどんどん色んなことに興味が湧いてくる。 「そういえば、さっき聞いたんだけど。庭、が整えてるんだって?」 食堂に向かいながらラスティが声をかけてくる。 「うん。でも、整えてるってほどじゃないの。時期を調べて苗を注文して植えて。後のお世話は庭師さんと一緒に...」 「十分整えてるじゃん。今度時間のあるとき教えてよ」 そう言ってラスティはの頭をわしわしと撫でた。 ラスティの手は暖かくて気持ちいい。 振り払うことなく、は目を細めて嬉しそうに微笑んでいた。 |
桜風
10.8.1