| が人ごみに酔ったというので、とりあえずどこかのカフェに入って落ち着くことにした。 「大丈夫?」 やっぱりもうちょっと規模の小さいところに行けばよかったな、とラスティは思ったが、そうなるとさっき入ったブランドがないのだ。 あっち立てればこっちが立たず... 「ごめん」とが突然謝る。 「何が?」 ラスティはきょとんとした。 「足手まといで」 の言葉にラスティは笑う。「どっちかといえば、持ったほうでしょう」と。 「何事も慣れだよ。母さんとも出かけるようにしてごらん。あの人、買い物長いけど、楽しいかもよ。同性の視点で。オレは、退屈だった」 「一緒に買い物とか行ってたの?」 が問うと「荷物持ち」と苦笑してラスティは答える。 なるほど、と納得した。 「ラスティは、『青い鳥症候群』って知ってる?」 が問う。 「うん。自分は本当の自分じゃない、とかそういう..現実を受け止められない人って言うか...そんなだったと記憶してるけど」 ラスティの言葉には頷いた。 「わたし、たぶんそれだったんだと思う」 「...だから、青い服ばっかり?」 そう聞くとそれには首を振る。 「それは『慣れ』だと思う。昔から寒色系の色の服を着てたらから暖色系の色は落ち着かないの」 なるほど、とラスティは納得して頷く。 「わたし。前におとうさんが、本当の父親じゃないって話したでしょう?」 ラスティが頷く。 「だから。それもあるのかもしれないんだけど、自分の居場所はあそこじゃないって思ってたの。あそこじゃない、どこかにあるんじゃないかな、って。ここに居るのはわたしじゃないんじゃないかって」 難しい事を言うな、とラスティは思いつつも相槌を打つ。 「でも、それってわたしの努力が足りなかっただけなのかなって最近思い始めたの。ね、聞いて。わたしチェスのルール、覚えたの」 「じゃあ、今度お相手願いましょうか」 ラスティが言うと「ダメよ」と返された。 首を傾げると「今はまだ負けちゃうもの。悔しいでしょ?今はおとうさんに鍛えてもらってる」という。 「それはそれは。いい師匠をお持ちだ」 「世の中には、たくさん嫌なことがあるの。泣きたいこととか、悔しいこととか。でも、それと同じだけ楽しいこととか嬉しいこともあるのよね、きっと。そうやって色んなことを感じられるのはとても幸せなことだって前にニコルさんに言われたわ」 いつの間に、とラスティが零すと「ピアノを聴きに行ったでしょ?」と言われて納得した。 2人で庭に出たときか、と。 「青い鳥って、結局身近に居るのよね」 「まあ、よくあるオチだよね」 ラスティがからかうように言うが、は困ったように笑った。 「そう。よくあるオチ。でも、それに気づけた人って本当に幸せだと思う。わたしは、幸せだと思う」 それは良かった。 ラスティは微笑んだ。 「ありがとう、ラスティ」 さすがにそんなことを言われると思っていなかったラスティは面食らって口をぽかんと開ける。 「わたし、随分と生意気だったし..たぶんこれからも。でも、それでもラスティがわたしとの会話を拒まなかったから。見捨てなかったからこうしていろんなことに気づけたんだと思う。だから、ありがとう」 「...最初はびっくりしたよ。でも、面白いって思った。オレ、初対面で嫌われたことないんだよね。だから、ちょっとした挑戦状だって思った。 一応、『きょうだい』になるんだから仲良くしておく必要があると思ったし。表面上のことだけでも。母さんに心配をかけたくなかったからね。オレは、どうでもいい人はどうでもいいし構うことはしない。相手が泣いても縋っても、正直、放っておくことができるんだ。冷たいでしょ? でも、放っておけなかったからね、は。さっき言ったとおり、母さんのこともあるけど、眸が『怖い、寂しい』って言ってたんだよ。オレもそれは知ってるつもりだから」 恥ずかしそうに苦笑してラスティが言う。 は目を丸くして、そして「そう..だったんだ」と呟いた。 こうしてニコニコ笑っていることが多いラスティだって、色々と大変なことがあったのだ。 それを見せることなく、を見守っていた。 「あー、じゃあ。そろそろ出ようか」 そわそわとラスティが言う。 物凄く照れくさくなってきたようだ。 「はいはい。出ましょう」 も何だか照れくさくなり、立ち上がる。 「買い物は、さっきのだけなの?」 が言うと、「今日はいいよ」と時計を見てラスティが言う。 ああ、時間がないのか。 「今日はありがとう、ラスティ」 一瞬ラスティは視線を彷徨わせて「どーいたしまして」と少し適当な返事をする。 ラスティの言葉が適当になるのはよくあることで、は特に不思議なこととは思わなかった。 |
桜風
10.9.1