Silver





「少年、まあそこに座って」

街を歩いているとイザークは突然そう声を掛けられたような気がした。

しかし、自分ではないだろうとそのまま足を進めると

「ちょっとー、待ってって」

と言われ、腕を掴まれる。

「何だ?!」

イザークが不機嫌にそう言うが、

「はいはい、ここ座って。貴方の絵を描きたい」

と言われ、イザークはそのまま言われるがままに座ってしまった。

それが彼女との出会いだった。


彼女の名前はと言うらしい。

しかし、家族が亡くなり生活をするために絵描きとして暮らしているそうだ。

そういう事情を聞いてしまったイザークは簡単に断ることも出来ずに大人しく絵を描かれる事になった。

「ほう、中々だな」

手元のスケッチブックを覗いてイザークは感心して声を漏らす。

「ああ。まだ見ちゃダメよ。自分の描かれてる絵を見たらモデルの表情が変わっちゃうんだから」

と言って彼女はスケッチブックを抱き締めた。

そういうものか、と思いイザークは再び大人しくモデルを務めた。


「出来たよ!」

そう言って彼女に見せられた自分の絵は、モノクロの鏡を見てるようだった。

「凄いな」

受け取りながら代金を払おうとしたら

「ああ、いいよ。あたしが好きで描かせて貰ったんだからさ」

と言って断る。

「しかし、生活が掛かってるんじゃないのか?」

「んー、まあ、今日明日生活が出来なくなるわけじゃないし。大丈夫!」

そう言ってどうしても代金を受け取らない。

結局イザークが根負けしてそのまま代金を支払わずに彼女の描いてくれた自画像を持ってその場を後にした。



それから何回か彼女のいた場所に足を運んだ。

もしかしたら他の人間にまでそう言って代金を断っているのではないかと心配になっていたのだ。

「あら?また来たね、銀の少年」

「なんだ、その『銀の少年』って言うのは?」

「キミのことだよ、銀の少年」

そう言って髪の毛を指差す。

「俺にはちゃんと名前があるんだがな?イザーク・ジュールだ」

眉間に皺を寄せて不機嫌にそう言うも、

「いい名前ね。でも、あたしは銀の少年って呼ばせてもらうことにしたから」

と勝手に言い切った。

それから、の元に通う度に肖像画を描かれ、イザークも話をするようになった。

家のこと、アカデミーのこと。腐れ縁の幼馴染のこと。

手を動かしながらは楽しそうにそれらの話に相槌を打つ。

「じゃあ、今度その幼馴染君も連れてきてみてよ」

にそう言われて、イザークは少し胸が痛んだ。

「アイツとは、あまりこういうところには出かけないからな」

「そっか。見てみたかったな〜」

笑いながらそういうにイザークは形容しがたい感情を抱いていた。



ある日、に告げられた。

「ユニウスセブンへ?しかも明日?」

「そ。ああいうところにも行ってみたいな、って思ってたし。まあ、あたしがここからいなくなると銀の少年もすっごく寂しく感じるかも知れないケド?遊びにおいで。またキミの絵を描かせてよ」

イザークはの言葉にふんっ、と言ってそっぽを向く。

彼女を止めたいと思った。

でも、自分にはそんな力がないし、彼女の人生に干渉できるような人間ではない。

「まあ、精々のたれ死なんようにな」

と憎まれ口を叩く。

「相変わらずだなぁ」と笑いながらは最後の絵をイザークに渡した。

そこにはとても柔らかく微笑む自分の姿がある。

「何だ、これは?」

「キミだよ、イザーク。イザークはとても優しく笑うね。ありがとう、イザークと過ごした時間はとても楽しかったよ」

「初めて、名前を呼んだな」

「最後くらいは、ね?」

そう言っては自分の商売道具を片付け始めた。

「また、逢えるよな?」

「だから、おいでって言ってるじゃない」

そう言いながらはイザークのおでこをちょん、と突いた。


翌日、イザークは信じられない光景を見た。

ユニウスセブンの崩壊。地球軍が核を放ったのだ。

イザークはその光景から目を離せずにいた。周りの人々は悲しみ、怒り、口々にそれらの感情を吐き出していた。

イザークは初めてここまでの強い憎しみを抱いた。

軍の志願したのはそのすぐあとだった。

せめて彼女の仇をとりたい、そう思った。



数ヵ月後、イザークは声を掛けられた。

「銀の少年!」

そう呼ぶ人はこの世でただ一人。

なのか?!」

「久し振り。元気にしてた?って、その恰好。軍に入るの?」

「ああ。こそ、ユニウスセブンに行ったんじゃ...?それに、その恰好は一体?」

彼女の恰好はどう見ても『良家のお嬢様』という感じだ。

「あ、ああ〜。まあ、色々あったのよね。結局ユニウスセブンには行けなかったし」

「結果オーライだろ。まあ、亡くなった多くの人たちのことを考えるとそんな能天気にもいえないが」

「うん...あ、ごめん。もう行かなくちゃ」

そう言って踵を返すにイザークは思わず手を伸ばす。

「どうかした?」

「あ、いや。すまない」

そっと手を離すとは苦笑をして

「大丈夫。また逢えるから!!」

そう言ってウィンクを投げ、彼女は走っていった。


そしてイザークの誕生日。

「イザーク、今日は氏が家にいらっしゃるから貴方も同席してね」

朝食時にそう言われてイザークは大人しく頷いた。

数時間後に玄関の方が騒がしくなり来客があったと分かる。

そして、客人がいるはずの部屋に入ってイザークは驚きのあまり動けなくなった。

そこには清楚な感じの、恐らく氏の令嬢だろうという人物がいた。

そして、彼女は

...?」

あの絵描きをしていただった。

「イザーク、嬢と知り合いなの?」

母にそう声を掛けられ、何とか平静を取り戻したイザークは部屋の中に入り母の隣に腰を下ろしながら「ええ、まあ」と歯切れが悪く返事をした。

目の前のは『してやったり!』という顔をしている。

「さて、イザーク。今日な貴方に同席して貰ったのには理由があるのよ」

「何でしょう、母上」

「イザーク君。君と私のの婚約が決まったのだよ」

氏のその言葉にイザークは再び驚いて思わず

「婚約?!」

と聞き返してしまった。

「私のでは不満ですか?」

そう言われ、慌てて

「いえ、そういうわけではありません。突然のことで驚いてしまっただけです」

否定した。

「お久しぶりです、イザークさま。と申します」

静々と頭を下げる彼女は街中で絵描きをしてたときとは全く違う。別人ではないかと思っていたのだが、ちゃんと本人だということが少しして分かった。

取り敢えず、よくあるパターンだが「ここからは若い2人で」とか言いながら親たちが部屋から出て行ったのだ。

?」

「何、銀の少年?」

その呼び方でこのがあの絵描きだということを確信する。

「家族は亡くなったって言わなかったか?」

「言ったわね」

「ちゃんとしっかり生きてるじゃないか!!」

「いやぁ、そう言わないと誰も相手にしてくれないんだもん!」

悪びれもせずにそういうに頭痛を覚えながらも

「ユニウスセブンへ行かなかったのは?」

と続ける。

「『行かなかった』じゃなくて、『行けなかった』ってのが正しいかな?本当はお父様に見つかりそうだなって思ったから場所移動のためにユニウスセブンを目指すことにしたんだけど、結局ステーションで見つかっちゃって連れ戻されたのよ。で、婚約が決まったとか言われて...まあ、相手の名前を聞いたらそれもいいかなって思ってさ」

「じゃあ、あのとき『また逢える』って言ったのは...」

「彼の誕生日に婚約者として彼の家に伺うって聞いてたし」

何だか癪だが、それでも嬉しさの方が勝ってしまう。そんな自分に俯いて溜息をつき、イザークは再び顔を上げてを見た。

「ま、そういうことなら」

と言って笑顔で手を差し出す。



「そ。そういうことで、ヨロシク」

とその手を取るとイザークはの腕を引いてを引き寄せ、自分の胸に閉じ込めると

「覚悟しておけよ。俺を騙した罪は重いぜ?」

と囁き、口付ける。

赤くなったはそれでも不適に笑って

「受けて立ちましょう、銀の婚約者殿!」

と答えた。





王子ぃぃぃーーー!!
お誕生日おめでとうございますvvvv
短編にしては凄く長い話になった気がしないでもないですが、
書いてて楽しかったです☆


桜風
05.8.8


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