花冠




そよそよと風が吹いている。
暑い日が続いているが、そろそろ涼しくなる気候に移行される。
暑かったり寒かったりは農作物への影響があるから必要だという話だが、そんなものは農業プラントでしっかりやっていけばいいのではないかという意見も散見するが、はそうは思っていない。
多少気候に抑揚がなければ退屈してしまう。
天気予報が100%当たるというのも少し物足りないとさえ思ってしまうのだ。それは予報ではなく予告だろうと何度ツッコミを入れたか。

「此処にいたのか」
ため息交じりの不機嫌な声。
「あら、見つかった」
振り返って彼女は言う。
声をかけてきた男、イザーク・ジュールは想像したとおりの表情を浮かべていた。
不機嫌。
まあ、大抵彼は眉間にしわを寄せているので普段と変わらないと言っても過言ではない。
寧ろ、親の顔を立ててパーティなどでふりまく愛想のある笑顔の方が異常と言えるものである。
「メイドたちが探していたぞ」
「お優しい坊ちゃんは彼女たちの代わりに私を探しに来てくれたってこと?」
「茶化すな」
「だって、今日はイザークが主役でしょう? どうして私が着飾らなきゃならないのか」
「オレの誕生日パーティという名の婚約者のお披露目会だからだ」
「そこだよ、イザーク君」
「どこだ、
どうやら屁理屈に付き合ってくれるらしい。この無駄とも思える会話が終わらない限り、彼女が動かないということをイザークは理解している。
「今更この顔を紹介してどうするの?」
「オレの女に手を出すなという話だろう?」
抑揚のない、特に感情の籠っていない言葉には「い?!」と声を漏らした。
「なんだ、照れたか」
「気持ち悪い」
「言うと思った」
「第一、このプラントで人様の婚約者を奪うという非効率な物好きはいないでしょう」
「加えて相手がとなると尚更だろうな」

彼女の家はプラントにおける経済界で大きな権力を持っている。
家の格式だけで言うと、魅力的ではある。
しかし、問題は本人だ。『変人』であることで非常に有名である。
言い方を変えると『究極のマイペース』という事になるが、付き合うとなると中々大変だという話だ。
よって、彼女を妻として迎えたいという者は少なくない。過去に、彼女の実家の資産等を目的に彼女に近づいた者たちも居なくはなかったらしいが、すぐに音を上げたとか。


暫くが無言のまま俯いていたので少し遠慮なく言い過ぎたかと密かに反省しつつ、しかしあの程度でへこむ玉でもないだろうと見守っていると「ね、イザーク」と彼女が振り返る。
「なんだ?」と返事をしつつ、いつもと変わらないことに安堵したイザークは首を傾げる。
「今日、誕生日だよね」
「……お前を迎えにきた理由のはずだ」
先ほどその話をひととおりしたではないかと溜息をひとつ。
「では、誕生日おめでとう」
立ち上がった彼女はイザークの頭に何かを載せる。
何か、というのはイザークとの会話に飽きてから手慰みに作っていた花冠だ。
虚を突かれたイザークは瞠目し『あしらう』というリアクションができなかったことに溜息を吐く。
「うん、似合う似合う。イザークは美人だからね」
笑って言うに「どうも」と返して頭に載せられた花冠を彼女の頭に載せた。
「む、要らなかった?」
少し不満げな表情を浮かべる。
「婚約者殿が手ずから作ってくださった花冠を不要と俺が言うと思ったか?」
「その婚約者殿が私だから言うと思った」
「心外だな。ちゃんと大切にするに決まっているだろう。ただ、の方が似合うだろうと思っただけだ」
すたすたと歩いているイザークがふと足を止めた。
隣を歩いていたはずのが居ないのだ。振り返ると顔を赤くして足を止めている彼女の姿がある。
イザークは頭を掻いて「」と言って手を差し出す。
「照れてくれるな。オレまで恥かしくなるだろう」
イザークの指摘にはハッとなり「別に照れてませーん」と返しながら彼の元へと駆け寄った。

差し出された手に自分の手を重ねて歩き出す。
「イザークの誕生日パーティって長いの?」
「さあな。オレの誕生日祝いと言いながら結局は接待だしな」
「途中抜けていい?」
「オレも抜けたい」
「主役がないを申される」
「それを言うならも主役だ」
「……困った」
「今回はオレの顔を立てると思って諦めてくれ」
「婚約者殿のお願いなら仕方ない」
「感謝する」
意外と似た者同士の二人は、軽口をたたき合い、少し足早にジュール邸へと急いだ。








桜風
17.8.8


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