| 長かった任務も一旦区切りがつき、プラントへ帰国することになった。 1週間の休暇が与えられると聞いてクルーたちははしゃいでいた。 「はどうすんの?」 ディアッカが問うとは首を振る。 「休暇、なし?」 頷くに少しだけ同情をした。 確かに、モルゲンレーテで働いていたは敵のスパイと言う嫌疑が完全に晴れたわけではない。 今は、使えるから使っているという状況なのだ。 もそれが分かっているし、それに対して不平を口にすることはない。 「じゃあさ、お土産買ってきてやるよ。何がいい?」 はまた首を振る。要らない、と。 「あっそ...」 詰まらなさそうにディアッカは呟いた。 ザフトの軍港に停泊し、休暇を言い渡される。 基地内に入って機体を艦から搬出する。本格的に整備するため場所を移すのだ。 「アスラン!」 ニコルが手を振る。 振り返るとディアッカたちと年齢の変わらない少年たちが近づいてきた。 「ニコル。久しぶりだな」 「そうですね。ああ、こちらが、・さん。さん、アスランとラスティ。僕たちの同期です」 はぺこりと頭を下げる。 ラスティは興味深そうにをまじまじと見る。アスランは彼女を見て驚いたようだ。 は思わずディアッカの後ろに隠れた。 「へー、俺らと変わんないじゃん」とラスティが感想を口にする。 「そうだな」とアスランは同意した。 「僕と同じ年ですよ。ね、さん」 ニコルの言葉には首をかしげた。それは初耳だ。 「ねね、俺らのMSの整備もしてくれるんだよな?」 ラスティが興味津々にそう言う。 よく分からなくてディアッカを見上げると 「こいつらもオレらと同じ」 と短く返した。 それなら、きっとそうだ。 は頷く。 「よろしくなー」 ニコニコと笑いながらラスティが握手を求める。は再びディアッカの後ろに隠れた。 「んじゃ、オレらはもう行くわ」 ディアッカがそう言ってから離れ、少年たちも去っていく。 手を振ってくるニコルに手を振り返してはMSが運ばれたハンガーへと向かった。 ザフトの本拠地があるコロニーから直接各市には戻れない。 一度、このコロニーからシャトルに乗ってアプリリウスに向かい、そこから各市へと出ているシャトルに乗って帰ることになる。 シャトルを待っていると「なー、野良猫って、どうやったら懐くと思う?」とディアッカが誰に言うでもなく問いかける。 「は?ディアッカって猫派?意外だな〜」 いち早く反応したのはラスティだ。 「家の近所の子ですか?」 ニコルも話に応じる。 「いい加減、適当なところでやめておけ」 そう言ったのはイザークだ。 「イザークもその子の事、知ってるんですか?」 興味があるのか、ニコルが聞く。 「だろう。その野良猫ってのは」 イザークの言葉にディアッカは口笛を吹いて「すげー」と呟いた。 今、シャトルを待っているのは自分たちだけではない。 他にもクルーゼ隊だった面々がそれを待っている。その中に10日くらい前にともめたメカニックの子たちがいた。彼女たちはディアッカと目が合い、居心地悪そうに目を逸らす。 は自分のメカニックとしての腕に自信が有る。特に、今回奪取してきたあの機体たちに関してはその傾向が強い。 そして、時々だがドックではのその態度が原因でもめる事があった。 先日もそんなことがあり、それが収まってチーフに事のあらましを聞いてみると溜息が漏れる。 「本当に、腕はいいんだがな」 チーフもあのの性格には苦労しているらしく、少しディアッカに訴えるように呟いていた。 そして、その日。 本当に偶然だが、訓練から戻る途中でがそのもめたメカニックたちにどこかに連れて行かれるのを目にした。 友達が出来たならそれはいいことだが、そんな雰囲気ではなく、むしろ険悪だ。 と目が合った。助けを求めるかと思ったのに、彼女はふいと目を逸らせてそのまま着いて行く。 ディアッカはそのまま彼女たちの後を追った。 予想通り陰湿と言うか... は声が出せない。だから誰にも助けを求められない。人の通りが少ないところに行けばこちらものだとか思ったのかもしれない。 「まあ、感心はしないけどな」 ディアッカがポツリと呟いた。 ちょうど彼女たちがに暴言を吐いているところだった。 まさか誰かに見られるなんて、と彼女たちは羞恥で赤くなり、そのまま逃げるようにその場を去っていった。 「なー、さっき目ぇ合ったよな?」 ディアッカが確認する。何故、助けを求めないのか、と。 は頷いた。 「じゃあ、なんでオレに何も言わないの?放っておいたら手が出てたかもよ?」 少し苛立ちを覚えながらディアッカは重ねて聞く。 <人は裏切る生き物だから> の言葉はディアッカの胸を抉った。 <機械は『1』か『0』しかなくて。そして、裏切らない。動いて欲しい、その通りにプログラムを組んだらそれ以外のものにはならない。人は、違うでしょ?> 「...それって、オレも入ってる?」 情けないことに声が震えた。 は目を伏せて何も言わない。悲しそうに笑う。彼女のこの表情は肯定を意味する。同じ部屋にずっと居たからもうそれくらいは分かる。 ディアッカはそのまま何も言わずに踵を返して数歩歩く。 「おい、ほら。置いてくぞ」 振り返ってに声を掛ける。 は驚いたように顔を上げて駆け出した。 似てるな、と思った。 は、猫だ。傷ついた、野良猫。 自分の気が向いたときには近づいてくるけど、こちらからは近づかせない。 そうしないと、生きていかなかったのかもしれない。 とても、寂しい日々を送っていたのかもしれない。 思わずディアッカはの頭に手を居てわしゃわしゃと撫でる。 髪をボサボサにされたは驚いたようにディアッカを見上げながら一生懸命髪を整えていた。 「ま。仕方ないわな」 ディアッカは呟いて少しだけ歩調を速める。自分を納得させるように。 |
桜風
08.10.1
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