stray cat 16





休暇が終わっても本部への駐留はまだ続く。今回は長い。

ハンガーでバスターの整備をしているとラスティが自機の整備について声を掛けてきたり、イザークが渋々といった表情でデュエルの整備の依頼に来たり。

彼らが休暇中のハンガーはとても静かで、作業がはかどった。

けど、今の方が好きかもしれない。何となくそう思う。

「なあ、

コックピットの中でバスターの調整をしているディアッカが声を掛けてきた。

何か不備があったかとコックピットの中を覗く。

「前にさ。機械は『1』か『0』しかなくて分かりやすいけど、人はどうなるか分からないから好きじゃないって言ってたよな」

意訳するとそんな感じ。

は頷く。

「けど、人も捨てたもんじゃないって思わなね?」

振り返ると何故かアスランに喧嘩を吹っかけているイザーク。それを煽るラスティに呆れて溜息を吐いているニコル。

いつもの光景だ。

でも、それはとても温かい。

はディアッカを振り返って目を伏せて微笑む。

ってさ、猫みたいだな」

ディアッカがそう言って作業を再開する。

どういう意味だろう?

聞こうと思ったが、ディアッカはこちらを見ない。教えてくれないつもりだ。

仕方ない、とは諦めて先ほど依頼が来たデュエルに向かった。


デュエルの整備をする時が一番神経を使う。

イザークが細かい。

ディアッカは適当に大まかなことを言ってが整備した後に、微調整を繰り返すというのが流れだ。

だが、イザークは最初から微調整だ。性格だろうと思う。

がキーボードを打ちながらイザークの依頼に応えていると「おい」と声を掛けられた。

手を止めずに顔を上げてイザークを見る。

「野良猫は、どうやったら懐くと思う?」

また猫だ。

<野良猫、見たことないよ。懐かせようと思ったことないし>

が言うとイザークは溜息を吐く。

失礼だな、と思った。

「俺が思うに。野良猫が人に懐こうとしないのは、たぶん、傷つきたくないからだ」

<そりゃ、誰だって傷つきたくないでしょう?>

はそう返す。当たり前のように。

「だが、他者と付き合えば少なからず傷つくものだ。似ている者が居ても、それはやはり自分ではない」

そりゃそうだ、とは思った。

が、イザークが何故突然そんな事を言い出したのかが分からない。彼はと会話をするのを嫌っているはずだ。自分から進んでこんな難解な哲学のようなことを口にするなんておかしい。

さては、こいつはイザークの偽者か!?

そんな事を思っていると「貴様、ホントは馬鹿だろう」と言葉の通り物凄く馬鹿にした目を向けられた。

口を動かしていたかと少し慌てるが、「表情を見たら分かる」と短く返されてぽかんとした。

「言っとくけどな。俺で分かるんだ。殆ど一緒に居るディアッカのほうが貴様の事はよく分かってるぞ」

イザークはそう言った後、少し赤くなりながら「ちょっと外す」と言ってその場を去る。

足早に去っていくイザークの背を見て「ああ、そうか」とちょっとだけ納得した。

ディアッカから聞いたのかもしれない。

そして、ディアッカが彼らに話をしたと言うことはきっと自分は彼を傷つけたんだ。傷つけられたと訴えたのではなく、自分が野良猫のように傷つきたくないと意思を示したことについて考えてくれたのだ。

胸の辺りがじわりと温かくなる。

はモニタに浮かぶ無機質な数式を眺める。

これは決して裏切らない。だけど、自分を心配することもなければ、味方になってくれることもない。

<そっか...>

呟いて、気がつくと涙が零れていた。

忘れていた。ずっと、ずっと。たった数年気を張って頑張っただけでこんな大切なことを忘れてしまうのか。

今でもイザークを仲良しとは思えない。

けど、彼はたぶん苦手なことをしてまで自分にそれを気づかせてくれた。

それはディアッカのためなのか、のためなのか。それとも、イザーク自身のためなのか。その答えは本人に聞いてみないことには分からない。

聞いても本当の事を教えてくれるとは限らない。彼は、人だから。嘘や誤魔化しを口にするのも人だから。

けど、人だからこそ気を配ってくれたのだ。

<野良猫、か...>

は呟く。

野良猫は、少しだけ傷つくことを恐れずに勇気を出して差し伸べられた手に頬を寄せたらその先は、暖かな何かが待っているのかもしれない。

<ありがとう>

此処に居ない彼に感謝の言葉を口にした。









桜風
08.11.1


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