stray cat 20





レオンの話を聞いてディアッカは取りあえず戻ることにした。クルーゼを説得しなければならない。

「大変です、ドクター!さんが...!!すぐに来てください」

ディアッカが開けようと手を伸ばすとドアは自動的に開き、同時にナースが飛び込んでそう叫んだ。

ディアッカはそのまま駆け出した。


が目を覚ますと知らない天井で、その天井には見覚えがある。

白い、箱の中だ。

周囲を見れば白衣を着た男女がたくさんいた。

いやだ、と叫ぶ。

怖い、と嘆く。

助けてと祈る。

はどうしようもない恐慌状態に陥り、暴れ始めた。

栄養を摂取させるためにつけていた点滴の針を乱暴に抜く。ベッドを降りようとしたら世界が回った。

また何かワケの分からない薬を注射されたのか。

今、抜いた針がそれか。

どうしていいか分からず、ただ、自分のみを守るために暴れる。

誰にも声は届かない。

誰も、助けてくれない。

!」

耳に届いた声に思わず手が止まる。

そのままぎゅっと冷たい体が自分を抱きしめる。

<ディ..アッカ>

呆然と呟く。

、大丈夫だから。此処の人たちは、大丈夫だから」

ディアッカがそう言って宥めている間にレオンは室内のナースやドクターを部屋の外に出した。彼女はきっと白衣が苦手なのだろう。自分のそれも脱いでスタッフに預け、ドアの傍に立って2人の様子を見守る。

<何で、此処に居るの?>

「ごめん、もいっかい」

が何事か口にしたのは気配で分かった。

けど、彼女を抱きしめていたディアッカはその口を見ていない。

は同じ言葉を繰り返した。

を探してたら、道路の上に落っこちてただろう?びっくりして病院に運んだんだ。ごめんな、病院嫌いだったんだな」

ディアッカの言葉には首を振る。ディアッカが居たら怖くない。

ふと、ドアの入り口に立っている青年が目に入った。どことなく、ディアッカに似ている気がする。

が彼の存在に気づいたことを察して紹介した。

「レオン・エルスマン。従兄だよ。ドクターだ」

『ドクター』という単語に反応しては肩を揺らす。怯えた目で彼を見た。

レオンはゆっくりとのベッドに近づき、そして、手を伸ばしてもに届かない場所に椅子を置いて座った。

の緊張が少しだけ解れる。


ディアッカは先ほどレオンから聞いた話をした。

治療の話。

そして、レオンと話した推測の話をした。

<だいたい、そんな感じ>

はそう言って俯き、そのまま膝を抱えて顔を埋める。

ちゃん」

レオンが声を掛けた。

「君は、どうしたい?」

が顔を上げる。どういう意味だろう。

だが、レオンはそれ以上何も言わない。

<...わからない。でも、まだ終わりたくない>

ディアッカがの言葉を彼女の代わりに声に出す。

レオンは嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、私も力を貸すよ。いつもナマイキな従弟が泣きついてきたしね」

そう言って悪戯っぽく笑う。

「泣きついてねぇ!」とディアッカは赤くなって抗議した。

がディアッカの腕を引く。

<けど、その治療法だったら時間とお金がかからない?>

は恐る恐る聞いた。

「あー、金の事は心配するなよ。オレが親父に借りるし」

ディアッカのその言葉を聞いてはぎょっとする。

<じゃあ、だめだよ。だって、そんなの。そこまでディアッカにしてもらうなんて!>

「いや、気にすんな。評議員なんてやってる親父が困ってる子ひとり助けられなくて何が評議委員だって話しだし」

飄々とそう言う。

そんなディアッカが楽しくてレオンは思わず噴出した。

振り返ってディアッカは半眼になって睨む。レオンは「悪い」と片手を上げて応じた。

「じゃあさ。オレが親父に金借りて。はゆっくりオレに金を返すの。本当にゆっくりでいいからさ。それならいいでしょ?無利子で」

それを聞いてもは首を振る。それもダメだ、と。

「んー...」とディアッカは唸ったがの顔を覗きこむ。

「あのさ、オレずっと考えてたんだ。ってどんな声で話すのかなって。どんな声で怒ってどんな声で笑って...どんな声で俺の名前呼んでくれるのかなって。オレが、の声を聞きたい。だからさ、治そうよ。全部治ってから、ゆっくり考えよう」

ディアッカのまっすぐな言葉には暫く視線を彷徨わせて躊躇いがちにコクリと頷いた。

「よし!」と言ってディアッカは笑いながらの頭をガシガシと撫で回す。

「じゃあ、ちゃん。治療にあたって約束してほしいことが2つある。いいかな?」

レオンが声を掛けてきた。

少し構えては頷く。

「まずひとつ目。ウチのスタッフにはあまり怯えないでくれるかな?治療がしにくいと時間がかかる。時間がかかれば、お金もかかる。それは、君の望むことではないよね?」

は頷いた。

「ウチのスタッフは君に酷いことをしない。治療で不安なことがあったらまず暴れる前に何をするのか聞いて。スタッフの説明で納得いかなかったら私を呼んでくれたらいい。時間を掛けて話をしよう」

<はい>

「いい子だ。そして、2つ目。出された食事はきちんと摂って。君には薬が使えない。副作用が怖いからね。だから、食事をきちんと摂って、体が正常な状態に戻るように促さないとといけない。美味しくないって評判だけど、我慢すること」

はしかめっ面になって頷いた。

「約束だからね」

<はい>

「じゃあ、スタッフを呼ぶよ」

そう言ってレオンは立ち上がり、廊下で待機しているナースたちに声を掛けた。

「じゃ、オレも」

そう言ってディアッカがの傍から離れる。

不安そうに自分を見上げるに苦笑して

「1回戻んないといけないんだよ。出港が近いしさ」

ヒラヒラと軽く手を振って部屋を出る。

「男の見せ所だぞ」

すれ違いざまにレオンがそう呟く。

「おうよ」

「これで『ダメでした、ごめんね』とか言ったら、お前の恥ずかしい過去、プラント中にばら撒くぞ」

「それは、遠慮したいな」

自信たっぷりにディアッカは笑ってレオンに背を向けてそのまま遠ざかる。

ディアッカの背中を見てレオンは苦笑する。

「大きくなっちゃって」

幼い頃の彼からは想像できないくらい、堂々として頼もしくあった。









桜風
09.1.1


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