| 脱走幇助の罪で投獄された彼らは案外肝が据わっていた。 「なー、俺って投獄されたの初めて」 ラスティが何やら楽しそうに口にする。 「奇遇だな、俺もだ」 イザークは溜息交じりに応えた。 「僕もですよ。母さん、泣くかな...?」 ニコルがそう言って故郷の母を思い出す。流石に、息子が投獄されたとなっては慌てふためくだろうか? 「じゃあ、今らからでも遅くないんじゃない?ディアッカ連れて帰るんで許してくださいって言ってみれば?」 ラスティが言うと 「嫌ですよ。友達を売ったなんてことになったら父さんに殴り飛ばされて母さんに嘆かれます」 ニコルが微笑みながら言った。 「お前たち、少しは静かにしたらどうだ」 そう言ったのはアスランだ。 「あー、アスランんとこは大変だよな。親父さん立場ある人だしさ。お?俺以外、みんな親が有名人じゃん」 「お前もだろうが」とアスランがラスティの発言に突っ込む。 「ウチは、お前たちみたいに密接じゃないし」 肩を竦めてそう言った。 「...お前たち、反省してないな」 呆れたように見張りが言う。 「反省、ね」 イザークが呟き、ベッドにごろりと寝転ぶ。硬くて布団も埃っぽい。 「あんま、悪いことしたって思ってないんだな、これが」 とラスティは呟く。 見張りの耳にその言葉はと届き、彼は深く溜息を吐いた。 何なんだ、こいつら。 牢の中に人が入ってきた。イザークたちに出ろ、と声を掛けて鍵を開ける。 「釈放?自室で謹慎?」 ラスティが格子を潜りながら聞く。 「ディアッカ・エルスマンが戻ってきた」 短いその答えに少年たちは笑みを浮かべる。連行される形で隊長室へと連れて行かれた。 「さて、全員揃ったな」 仮面をした隊長、ラウ・ル・クルーゼが口を開く。 「今回の騒動の事だが。まず、ディアッカ。君の言い分を聞こう」 ディアッカは病院でレオンが書いた診断書を渡した。 そして、の治療を訴える。 「しかし、捕虜にそこまでする義理というものはないのだがね?」 冷たい声でクルーゼが言った。 その言葉を受けてディアッカは必死に訴える。 そんなディアッカの姿を見たことのないイザークたちは呆気に取られていた。彼がこんなに必死に何かをしようとする姿は珍しい。 クルーゼは喉の奥で嗤う。子供だな、と。 しかし、の存在は使える。少なくとも、この少年たちを動かしたのだ。 彼女を助ければこの少年たちは自分の命令を忠実に実行するだろう。 「...いいだろう。しかし、バスターは彼女がいつも整備をしていたのだろう。他のものに聞いてもどうも勝手が分からないらしい」 それを聞いたとき、ディアッカは「あ、」と思った。 「オレの、..私の部屋のデスクの上にディスクがあったと思います」 ディアッカの言葉にクルーゼは頷く。 「ロックが掛かっていて開けないディスクが1枚、あったな」 そう言いながら引き出しからディスクを1枚取り出した。 「パスワード、知っているのかね?」 そう言いながらディスクを端末にセットした。 浮かび上がる文字を読んでディアッカは単語を入力する。 『stray cat』 短い電子音の後に今までのバスターの整備の記録が出てきた。 「野良猫、か」 クルーゼが呟く。パスワードは『stray cat』。野良猫の事だ。 「ふむ。ここまで彼女は用意をして出て行ったのか。まあ、これでは裏切りと言うことは出来ないな、一応」 そう言って口角を上げた。 「では、・の治療の件、許可しよう。上へは私から話す。それと、身元保証人の件も引き受けよう。これで、良いんだな?」 クルーゼの言葉にディアッカは深く頭を下げる。 「さて、次の話だ。君たちが公安をやったのは、少しまずかったな」 後ろの少年たちにそう声を掛ける。 全員が下を向いた。一応、反省はしている。 「何もなし、と言うわけにもいかない。さて、どうしたものか...」 いつもの勿体ぶった言い回しでクルーゼが口を閉じた。 「減俸かな?」 ラスティが傍に居るアスランに耳打ちする。 「それだけで済めばラッキーだろう」 呆れたようにアスランが返した。 「あの、隊長」 「何だね、ディアッカ」 楽しむような声でクルーゼが応える。 「私の“赤”の返上では足りませんか?」 「ディアッカ!?」 後ろの少年たちが口々に彼の名を口にする。 面白い。そう思う。 たった、ひとりの少女のためにこの少年はここまで出来るというのだ。 プライドが高く、稚拙ながらも計算高かったこの少年は今、一切そういうことを抜きにして話をしている。 「いいのかね?そんなに簡単に言って」 試すように言ってみても彼の瞳は全く揺れない。 人というものは本当に面白い。 「では、ディアッカ・エルスマンの赤を剥奪の上、減俸6ヶ月。また、今回の件に手を貸した君たちには減俸3ヶ月。まあ、公安の方も私のほうで言いくるめよう。もういいぞ」 そう言ってクルーゼが退出を促し、彼らは敬礼をして部屋を後にした。 「良かったんですか?」 ニコルが聞いた。 「何?赤のこと?」 ディアッカが問い返すと頷く。 「いいよ。赤でも緑でもやること同じだし。...給料が減るのは少し寂しいけどな」 ディアッカはそう言って笑う。 「でも、さん無事でよかったですね」 皆は頷く。 「お前らも、悪かったな。何か、巻き込んで」 ディアッカはそう言って頭を下げた。 イザークはふん、と鼻を鳴らす。 「自分で選んだことだ。巻き込まれたなんて思ってない」 そう言って足早にその場を去っていった。 「照れてますね?」 ニコルが面白そうに呟くと 「やかましい!」 少し先まで歩いていたイザークが叫んで返した。 「すげー、地獄耳」 ラスティが呆然と呟いた。 |
桜風
09.2.1