stray cat 22





出港があと5時間に迫っている。

ディアッカは部屋にある少ない荷物を纏めた。に返すためだ。

一時は公安に取り上げられたが、隊長が取り返してくれた。どうやったかは知らないが、どれはどうでもいいことだ。



病院に着くと以前とは病室が変わっていて驚いた。

何かあったのか、とスタッフに聞くとより清潔な空間を保持できる部屋に移した、という答えを聞いて安心する。

父親からは案外簡単に治療費を借りることが出来た。

土下座覚悟で話をしたら

「ちゃんと返せよ」

と一言あっただけですんなり了承された。

もしかしたら、レオンが前以て話してくれていたのかもしれない。もう彼に頭が上がりそうにないと思い苦笑する。


の病室のドアは二重になっていた。

ひとつ目は普通の。

そして、その最初のドアを入ったところで消毒をして服を着る。割烹着みたいだと思いながら袖を通した。

そして、2つ目は先ほどのよりも少し重い。

ドアを開けるとはベッドの上でボーっと窓の外を眺めていた。



ディアッカが声を掛けると驚いたように目を丸くしている。

顔色はいい。

<ディアッカ!?時間!>

すぐに時計を確認した。

出港まであと3時間だ。クルーなんだから、もうガモフに乗艦しておかないといけないはずだ。

「うん、すぐに戻る。にこれ」

そう言って部屋で纏めた彼女の荷物をベッドの横のクローゼットに置く。

「さっき看護師さんに聞いたら持って入ってもいいって。イザークのお土産だった本と、オレのお土産のスカーフ。あと、此処に来るまでにラジオ、買ってきたから」

ディアッカは袋からそれを出しながら説明をする。

「風邪はどう?風邪じゃなくてインフルエンザだっけ?」

の顔を覗きこみながらディアッカが問う。

<うん、だいぶいいよ。まだ結構熱はあるけど。沢山ご飯食べてるから、体力も結構ついたし>

「まあ、女の子の方が熱に強いって言うしな。でも、無理すんなよ」

くしゃりとの頭を撫でてディアッカは笑った。

はディアッカを見上げて頷く。

、頑張れよ」

<ディアッカも、気をつけてね>

の言葉に頷いて「必ず戻るから」との目を見てそう言った。






それから1年後。


戦争は対話による平和への解決という道を模索するべく、停戦となった。

ひとまず、本部に帰還となった。

「なー、これ全部終わったらどうすんの?」

ラスティが聞く。

「オレは働かないとなー」

苦笑しながらディアッカが応える。

「そうなの?」

「親父に金借りてるから返さないと。このままザフト続けてもいいけど、まだ検討中かな」

「ああ、そうえば言っていたな」

イザークが思い出す。

「イザークは?」

「まだ検討中と言うところはディアッカと変わらんが、大学に行きたいと思ってる」

「ああ、民俗学ですか?好きですね」

少し呆れたようにニコルが話に入る。

「やかましい」と言ってイザークはそっぽを向いた。



「ディアッカーー!!」

そんな話をしていると大きな声でディアッカが呼ばれる。

初めて聞く声だが、何となく分かった。

ディアッカはゆっくりと振り返る。

戦争から無事に帰還したザフトの兵がごった返す港の人ごみの向こうに、ぴょんぴょんと跳ねながら手を振る少女が居た。

鞄を掴んでいた手が緩み、ドサッと床にそれが落ちた。

1歩、2歩とゆっくり足を動かし段々それは早くなる。

駆け出したディアッカの背を見てラスティが口笛を吹いた。

「いやぁ、ディアッカ・エルスマンも年貢の納め時ですなぁ」

からかうようにそう言う。

「全く...」と言いながらアスランがディアッカの荷物に手を伸ばす。


!」

ディアッカは彼女の体をぎゅっと抱きしめる。

「痛いです、ディアッカさん」

耳元で聞こえるの肉声に涙が出そうになる。

「声、治ったんだな」

ディアッカの言葉には頷いてそのままディアッカの背に手を回す。

「ありがとね、ディアッカ」

人ごみの向こうから見慣れた少年たちがやってきている。

「二..」

笑顔で手を振っている最年少の少年の名前を口にしようとしたら大きな手で塞がれた。

「勿体無いから、ダメ」

驚いてディアッカを見上げると少しだけ恥ずかしそうに遠くを見ている。

「よーし、よく止めた」

ふいに聞こえた第三者の声にディアッカが振り返る。レオンだ。

ちゃん、私は言ったよね。大きな声を出してはいけないよ、と。まだ完全に治ったわけじゃないんだから。それなのに...さっきのは相当喉に負担を掛けたよ」

レオンの言葉を聞いてディアッカはを見る。

彼女は首をすくめていた。

「で「声は出さずに」

言い訳をしようとしたらレオンに遮られる。

<でも、ディアッカ見つけたらテンション上がっちゃって。まだ音量の調節の具合が分からないし>

「それだと、益々声を出してはいけないね。取りあえず、3日、声を出すのを禁止ね」

レオンの言葉には口を突き出して不満を示したが、レオンがそれに取り合ってくれないのは1年の療養で学んだことだ。

「あれ、まだ治りきっていないんですか?」

ニコルが少し残念そうにレオンに問う。

「そうだね。まだもう少し時間が掛かりそうだ。このお姫様が無茶をする子でないなら、退院してもいいよと言ってあげられるのにね」

にこりと微笑むレオンには勢いよく振り返った。

<退院できるの?>

「体の組織的な問題だったらもう大丈夫だろう。定期的に検査はしなきゃいけないけど、ずっとあの狭い部屋に居る必要はない。けど、喉のほうがまだだからね。医者の言うことを良く聞いてなるべく話さない様に、って言っても君は話すだろう?特に、これからは話したくてウズウズするはずだ」

今、既にウズウズしている。

「だから、まだ病院で静かに過ごしてもらうんだけどね。ディアッカも、3日は病院に来てはいけないからな。君たちも」

「りょーかい」

諦めたようにディアッカは了承した。

がたくさん話をしたがるのは目に見えている。皆も頷いた。

<えー!>

と声を出さずには抗議をするが味方になってくれる者は居そうにない。

仕方ない、と諦めたが、<あと1回だけ>とレオンに訴える。

「...大きくない声で。あと、4日に延びるよ?」

それでもは頷いた。

「じゃあ、どうぞ」

レオンはそう言って1歩下がった。

は少年たちの顔をゆっくり、ひとりずつ見る。

彼らはそんなの視線に怪訝な表情を浮かべたが、は笑顔を浮かべた。

「おかえり!」

思いもよらなかったその一言は意外と嬉しくてくすぐったい。

少年たちは一人を除いて笑顔を浮かべて口を開いた。全く同じタイミングで言った。

「ただいま!」









桜風
09.2.1