Ever green 6





「私、こんなところに留学なんてしたくなかった!」

不意に教室でそんな声が聞こえた。

振り返るとオーブからの留学生のフレイ・アルスターだ。

教室内のコーディネーターが一斉に彼女に向かって非難の眼差しを向ける。

「フレイ!」と彼女を窘めているのはサイ・アーガイルだ。周囲の空気を敏感に察知している。

いや、敏感じゃなくても、やっぱりこれは察知できるだろう。

「だって、サイ。此処、コーディネーターばかりだもん」

そりゃ、プラントだもん。

心の中で多くの者が突っ込んだ。

「おい、お前」

カガリが立ち上がって彼女の元へと足を運ぶ。

「ここにいる皆は自分で希望して留学をしている。お前だって、希望したんだろう」

そうだったんだ...

家の事情とかそういうのがあって来たのかと思っていた。

何せ、こうして彼女を窘めているカガリはオーブの代表の娘だと聞いた。教えてくれたのは、やっぱりラスティだったが...

というか、皆知ってたら教えてくれてもいいのにと訴えたら「知ってると思ってた」と真顔で返されてぐうの音しか出なかった。

しかし、今はそんなことではない。

「だって、サイが希望したから」

「はあ?!お前は自分の意思で希望したんじゃないって言うのか?!」

カガリが頓狂な声を上げた。

「だって、皆が手を上げたんだし...」

カガリはこれ見よがしの溜息を吐いた。

「あのなぁ!」

「だって、私のパパは外交官よ?だったら、パパの力になりたいじゃない」

「それを『希望した』と言うんだ!!」

侃侃諤諤の口喧嘩。

こんなに意見をぶつけあう場面に遭遇したことの無いはどうしたらいいのかとオロオロしてしまった。

「第一、不便なのよ。コーディネーターばかりで!!」

「じゃあ、帰れよ!!」

聞くに堪えなくなったのか、クラスの、おそらくコーディネーターの誰かが言った。

「そうだそうだ」と追従する声が上がってくる。

「何よ!そっちが頼んできたんでしょう?!来てくださいって!!」

「んなこと言うかよ!」

「勘違いすんな!ナチュラルのくせに調子乗んなよ!」

その言葉にの胸が痛んだ。痛んだと同時に『おかしい』と思った。

「おかしいよ!」

思ったとたんに言葉が出ては立ち上がった。

「喧嘩をするのは仕方ないよ。だって、他人だもん。兄弟でさえ喧嘩することがあるっていうから他人なら尚更だろうし。でも、ナチュラルとコーディネーターで喧嘩するなんておかしいよ!!」

「お前、どっちの味方だよ!!」

叫ばれて怯む。

「プラントのヤツならコーディネーターだろうが!!」

誰かにそう叫ばれた。

は泣きそうになる。怯んで逃げ出したくなった。

でも、ふと思い出した。

8時間耐久ショッピングのとき。自分がナチュラルだと宣言したら皆は自分がコーディネーターだと自己紹介して最終的に「で?」と返された。それが何か問題か、と。

心底不思議そうに「で?」と言ったときのイザークの目を思い出す。そんなくだらない、と言っていた。

「わたしは、地球生まれのプラント育ちの..ナチュラルよ!」

高らかに宣言した。

しーんと、教室が静まり返る。

「コーディネーターでも優しい人も居るし、嫌な人も要る。ナチュラルだって同じ。わたしが緊張しすぎて倒れたとき、心配してくれたのはカガリたちだったし、寮に送ってくれたのはキラ。ナチュラルだから、コーディネーターだからってのが問題じゃない。そんなの全然問題じゃない!!」

そう言って、フレイを見た。

「プラントの生活が不便なんじゃなくて、慣れていないだけでしょう?環境が変わったんだから不便なのは当然よ。プラント育ちのわたしだって不便だもん」

「な..なによ!」

臨戦態勢に入ったは意外と強気だ。言い返そうと言葉を探しているフレイから目を逸らさない。

「何が不便なの?何を不便と思っているの?」

が質問する。

「...カードが使えない」

フレイの言葉には思わずあんぐりと口を開く。

「は?!」

「だから、カードが使えないの!不便でしょう?!」

それは、まあ。金融機関がまだ相互性をもっていないというのは聞いた気がする。

ただ、

「たしか、ここのコロニーのモールだけは何とか今回の政策にあわせて地球のカードもOKだった気がする」

が呟く。

父がそう言っていた。

「ホント...?」

疑わしげにフレイが言う。

「うん。おとうさ..父がそう言ってた。この学校から近いっていう理由であのモールだけシステム変えたから、あそこのお店の人が凄く不便なことになったって。ただ、その分税金のシステムも優遇されているからそれでチャラって考えなきゃいけないとかって...」

うろ覚えだが、「平和になるのも、大変なんだなー」と思ったので覚えている。

「じゃあ、今日の帰りそこに行きましょう?」

「...へ?!」

驚いては声を上げた。

「案内してよ。私、プラントのこと、何もわかんないもの」

「え、いや...」

プラント育ちだが、殆ど部屋からすら出たことが無かったので正直自信ない。自慢ではないが、カードだって使い方、寮に入るときに初めて教えてもらったのだ。

フレイの機嫌が直ったことに周囲は溜息を吐いた。何とバカらしい...

先ほどまで憤っていたコーディネーターのクラスメイト達も相手にする方が面倒くさいと思ったらしく矛を納めた。

結局、割を食ったのはのみで、この騒動はあっさりと治まったのだった。









桜風
10.11.29


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