| 「ぶえっくしょん」と盛大なくしゃみをコックピットの中でしてしまった。 ああ、良かった。ヘルメットは取ってた。 『おー?どうした??』 隊長から通信が入る。 「いーえ。ほら、オレって人気者なんで誰かが恋しがったんでしょう」 『まあ、妄想は自由だ。そろそろ目的地だ。緊張感を見せて欲しいものだね』 「りょーかい」と返事をしてヘルメットを被りなおす。今、レセップスで移動しているところだ。 ジブラルタル付きのバルトフェルド隊所属パイロット。 自分の地球での所属だ。 ジブラルタルに降りてすぐに移動となった。迎えに来たのは副官のマーチン・ダコスタだった。 とても真面目そうな人で、じゃあ、隊長は結構フリーダムな人だろうなと思って居たら本当にそんな感じでおかしくなった。 隊長室に案内されて入った途端のコーヒーの香りにむせる。 「はっはー。すまんな、僕の趣味だ」 「匂いが混じると、それがどういう香りかが分かんなくないですか?」 ラスティの言葉に「僕は全部覚えてるから大丈夫」と自信満々に返された。 なら良いんだろうな、と思ってラスティは敬礼をする。 「本日付でバルトフェルド隊に所属となりました、ラスティ・マッケンジーです」 ラスティの挨拶に彼は返すことなく、「ほい」とマグカップを突き出した。 「ま、挨拶代わりに一杯どうだい?」 ラスティは少し首を傾げて「じゃあ、頂きます」と言って受け取った。 一瞬、ダコスタが表情を変える。 あ、これって不味いのかな? そう思いながらラスティはそれに口をつける。 舌の上でじっくり味わって口に含んだそれを飲み干して「えーと」と考え始める。 そして、豆の名前を言い始めた。 目の前のバルトフェルドは途端に目を輝かせる。 「どうですか?」 「正解だ。君、見込みがあるね」 「そりゃ、どーも」 「コーヒーは好きかい?」 「嫌いじゃないですけど。豆は、母がコーヒー好きだったので。見つけてはいろんな豆のコーヒーを飲まされましたから。好みを言わないと彼女の好きな豆のしか飲めなくなるので」 「ほう?ステキな母親じゃないか」 上機嫌で隊長が言う。 「ゴホン」とダコスタが咳払いをした。 「隊長、仕事。仕事してください」 「ああ、そうか。でも、君も野暮だね。せっかく同士を見つけて喜んでいる僕に...」 そうぼやきながらこの隊の任務内容をラスティに伝える。 「君は地球は初めて?」 「お陰で、この重力に慣れないですね」 ラスティの言葉にバルトフェルドは笑う。 「しかし、急な異動だったね。何をしたんだい?」 「国防委員所属の議員に公衆の面前で大恥を掻かせたくらいですか?」 しれっと言うラスティに「それはそれは」と面白そうにバルトフェルドが呟く。 「隊長こそ、嫌われてますねー」とラスティが返すものだからダコスタが慌てて「おい!」とたしなめる。 「どうしてそう思うのかな?」 「だって、急に空から降りてくる赤なんて欲しくないでしょう?重力になれない間は大して役に立たないのに『赤』だからやたらプライドが高いし、ね?そんなの押し付けられるって人が上層部からの覚えがめでたいはずがない」 ラスティの指摘にバルトフェルドは声を上げて笑う。 「隊長...」と情けない声を漏らすダコスタに片手を上げて応え、「まあ、概ね正解だろうね。ただね、僕も上層部が好きじゃないんだ」 「両想いじゃないですか」 ラスティの指摘にまた笑う。 「まあ、貧乏くじの中でもマシなのを引いたと今思ったよ。これから当分長い間一緒に仕事をすることになるだろうし、まあ、他の連中ともそこそこ仲良くしてくれたまえ。もういいぞ。部屋は誰かに聞いてくれ。皆親切だよ、たぶん」 バルトフェルドの言葉にラスティは苦笑した。 「その言葉、もしかしたら撤回してもらうかも知れませんよ?」 そう言ってラスティは敬礼をして部屋を後にした。 「隊長...」 「ラスティ・マッケンジー。確か、ジェレミー・マクスウェルの子供じゃなかったかな?両親の離婚があったから今はマクスウェルではないがね。喧嘩を売った相手はマクスウェル氏だ」 「親子喧嘩ですか?」 迷惑な、とダコスタが眉間に皺を寄せた。 「そうかもしれないし、そうではないかもしれない。彼の噂はいくつか聞いたことがある。たぶん、僕と気が合うと思うよ」 バルトフェルドの言葉にダコスタは溜息をついた。 何か、一番の貧乏くじは、自分が引いた気がしてならない。 |
桜風
11.2.21
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