Flower garden 1





緑自然が多いというのが特徴、寧ろ売りであるコロニーに夏の時期に行った。

のどかで気候が良いため、このコロニーは別荘地として栄えていた。

両親に少し散歩してくる旨を伝えて少年は近くの丘に向かった。


ゆっくり歩いて周囲の景色を楽しむ。

父親は忙しいのが常で、こうやって家族でのんびりなんてことは最近は本当になくなってきていた。

少し強い風が駆け抜けた。

風から顔を背けていたが、ふと視界に白いものが入り、気になって顔を上げるとつばの広い帽子だった。

今の風に煽られて飛んできたのかもしれない。

地を蹴って跳ねてそれを掴む。

周囲を見渡すと「ごめんなさい」という声が耳に届いて振り返る。

白いワンピースを着ている少女は髪を押さえながら足早に彼に近づく。彼女の髪は夏の澄んだ湖の色をしていた。涼しげなその色はとても優しく感じる。瞳は深い緑色で木陰で空を見上げた時の色だ。

しかし、草原を駆けるのに向いていない靴を履いているため、歩きづらそうにしている少女に向かって彼が足を向けた。

「大丈夫ですか?手を...」

「あ、はい。ごめんなさい、ありがとう」

手を差し出されてそれを取る。

「これは、あなたのですか?」

「はい。さっき強い風が吹いて、押さえる間もなく飛んでいってしまって...ありがとうございます」

少年から帽子を受け取って彼女はふわりとそれを被った。


「僕は、ニコル・アマルフィです。お名前を伺っても良いですか?」

彼女の家もこのコロニーに別荘を持っており、家族で骨休めに来ていると言ったため、ニコルがその別荘まで送ることを申し出たのだ。

「失礼しました。わたしは、といいます」

足を止めて彼女は自己紹介をしてスカートの裾をちょんと摘んで一礼した。

さんですか。素敵な名前ですね」

ニコルが微笑んでそう言った。

を彼女の別荘まで送ったら彼女の両親に驚かれて、そして篤く礼を言われた。

ニコルとしては、別に何か特別なことをしたわけではないし、そこまでお礼を言われることではない。

丁寧に礼を言う彼女の両親に失礼にならない程度言葉を交わした後、ニコルは自分の家の別荘へと帰った。


その日の晩、ニコルはパーティに出席することになっていた。

父親が言うには、この別荘地の管理人が簡易だがパーティを開くといっているらしい。その招待状も贈られてきていた、と。

毎年来られるわけではないが、せっかくの機会だから、と管理人の屋敷に向かった。

そこでまたと再会する。

彼女もドレスアップをしていた。ニコルの姿を見つけると優雅に一礼をした。

昼間話をしたときも思ったが、彼女は本当に躾がされているな、と。

彼女が言うには、彼女の家は一般家庭であり、両親は教師らしい。両親が家を空けることが多くてひとりで留守番をよくしているが、特に寂しいとは思わないそうだ。


彼女と話をしていると周囲の人間に声を掛けられた。

ニコルのピアノを聞きたいという声が多いみたいだ。

「ピアノを弾けるんですか?」

「ええ。ねえ、さん。僕の事は“ニコル”って呼んでください」

ニコルがそう言った。

は頷いて「わかりました。じゃあ、わたしのことも呼び捨てで」と微笑んだ。

「じゃあ、ちょっと演奏してきますね」

そう言っての傍を離れていった。

ニコルの演奏は彼の心を表しているようで優しい音だった。

目を瞑って音に体を預けているとその音が止む。

驚いて目を開けると周囲の視線が自分に集まっていた。

何事だろう、と状況を把握しようと周囲に視線をめぐらせるとニコルと目が合った。

ニコルは椅子から立ち上がり、に手を差し伸べた。

恐る恐るそれを取ると、「とても素敵な歌声ですね」と言われた。

どうやら、自分は無意識に歌っていたらしい。

「何の歌が得意ですか?僕が演奏するから歌ってほしいな」

何が得意、と聞かれては悩んだ。特に歌が得意だと思っていなかった。

が困っているのを見てニコルは苦笑し、「じゃあ、何の歌が好きですか?」と聞いた。

少し躊躇いがちに彼女はある曲のタイトルを口にした。

ああ、それなら知ってる。

ニコルは頷いてその曲を演奏し、それにあわせては歌った。

曲が終わるとその場で割れんばかりの拍手と喝采が上がった。

そういうのに慣れていないは目をぱちくりとしたが、ニコルが手を取り一礼をしたのを受けて彼女も優雅に頭を下げた。

その後、隣に立つニコルと目が合い、お互い微笑む。

「素敵な歌声でしたよ」

「ニコルの演奏も、素敵だったわ」

蜂蜜色の彼の瞳が優しく微笑んだ。



アラートの音が聞こえ、エマージェンシーコールが耳に届く。

飛び起きて上着の袖を通した。

「よく寝たか?」

MSデッキへと向かう途中、合流した同僚に声をかけられた。

「もの凄く懐かしいいい夢の、さらに丁度いいところで起こされた」

「ご愁傷様」

「ったく!」

そんな会話をしながらMSデッキへと駆けていった。









桜風
09.3.1