| 「しかし、本当に大丈夫かね」 自分が決めたことだが、あのときの、いや、の姿を思い出して思わず呟いた。 それでも、この道を決めたのは・で。 だったらこちらが勝手に気を遣うのは彼女に失礼だと思った。どれほどの覚悟で・の人生を選んだのかはあのときの彼女の様子を見たら想像できる。 結局想像どまりなのが少しもどかしいが、それは仕方のないことだろう。 どう足掻いても自分は彼女になりえない。 「さてさて、正念場だぞ。・」 そう呟き新たにコーヒーの豆のブレンドを始めた。 翌朝、時間通りはデッキに向かった。 たった一人で転属となる。 しかし、それに対して不安で胸が押しつぶされそうだとか全く思わない。誰かが一緒でも自分がすることは決まっているし、それは変わらない。 『よく眠れたかね?』 通信が入ってきた。 「いつもどおりです」 『それは結構。じゃあ、行こう』 そう言って隊長は輸送機に乗り込み、も自機を輸送機に載せた。 暫く乗っているとジブラルタルに着くとのアナウンスが入った。 基地に着くと自機を指定された場所に収納してブリーフィングが行われる管制塔へと向かった。 バルトフェルドはを待ちながら周囲のMSを見ていた。 「隊長?」 「ああ、来たか。では、行こう」 の少し前を歩くバルトフェルドについていく。 ふと、見たことのない機体が目に入って思わず足を止めた。 「ああ、クルーゼ隊が地球軍から奪取した機体だな」 「地球軍から、ですか?」 「もヘリオポリスの崩壊は知っているだろう?」 「はい、当時と言っても少し前ですよね。凄く話題と言うか問題になった...」 「まあ、その原因がこれらだよ。それほどの価値があったのかどうかは微妙だと思うよ、僕は」 興味なさそうにそう言ってバルトフェルドは足を進め、もそれに続いた。 ブリーフィングルームのドアを開けると視線が集まる。 ざわりと部屋の中の空気が蠢いた。「本当に居た」などの声も聞こえる。 「珍しいんだよ。駐留軍にいる赤だからね」 ああ、そうかと納得して部屋の中を見渡しては目を見開いた。 「何で...」 その呟きが耳に届いたバルトフェルドが振り返り「?」と声を掛ける。 「あ、いえ。失礼しました」 「席は決まっていないだろうから適当に座りたまえ。僕は少し上の方に挨拶に行っておかないといけないようだから。全く、やれやれだよ」 この席に隊長がひとりも居ないということはたぶんそうなんだろうと思ってバルトフェルドが踵を返した。 空いている席を適当に見つけて腰を下ろした。 何故、この場にニコル・アマルフィがいるのだろう。 彼は優しい人間だった。 彼の指先から紡がれた音は春の日差しのように優しかった。 そんな音を紡いでいた指で引き金を引く道を選んだのだ。しかも、彼の着ている服も自分と同じく“赤”だ。 “赤”は血の色だ。 より人を多く殺すことが出来る、そういう記号だと思う。少なくとも、にとってはそういうものだ。 名誉徽章だとかそんな声を聞くが、そんな大層なものだなんて思ったことは一度もない。 たちは早めに着いたため、その後も何人か人が入ってきた。が、やはり赤は居なかった。 そうか、本当に珍しいんだ。 改めて自分の存在の異色性を実感した。 暫くして隊長たちが入室してきた。 そして作戦の内容が説明される。確かに、こんな大掛かりな作戦って経験したことがない。 しかし、これでなんでパイロットの人数を集中させなければならないのかが分からない。 第一、増やしたかったから態々そらから彼らが降りてきたのだろうに... しかも、赤がこんなに居るんだから優秀なのはもうお腹いっぱいなんじゃないのか? レセップスでの生活が気に入っているからやっぱりあまり離れたいとは思わない。 例え、この作戦が自分の出世に繋がるものになると言われても食いつきたいとは思わない。 既にホームシックのようだ。 そんな自分の甘ったれな精神に呆れては溜息を吐いた。 |
桜風
09.5.1