| 「それで、は何で男装なんてしてるんですか?」 が諦めて色々と腹を括った様子を確認してニコルが声を掛けてきた。 「って呼ぶのはやめてくれ。そっちに慣れたら大変だから」 「僕はそんなミスをしませんよ」 「オレがするかもしれないから。さっきみたいに余計なことを言って尻尾を見せかねない」 の言葉にニコルは肩を竦めた。 「この部屋の中くらい良いじゃないですか」 「ダメ。頼むから...」 そこまで言われたらニコルも頷かないわけにはいかない。 「それで。は何でそんな格好でザフトに?」 は溜息を吐いて話を始めた。 交通事故に遭った記憶は、実はない。 だが、その事故の直前まで車に乗っていたし、両親と供にショッピングに出ていたことはちゃんと覚えている。 気がつくと知らないベッドの上だった。 レオンと名乗る人物が徘徊している自分を見つけて保護してくれたそうだ。 しかし、当時の彼女は記憶を失っていた。 自分が何者かも分からない。 しかも、レオンに保護された場所があの事故現場から随分離れていたのだ。 そして彼女の脚には深い傷があった。だから、あんな離れた場所から歩いてくるなんてまず有り得ない。そう思って行方不明になっていた教師の娘だとは疑わなかったという。 病院での治療を受けて記憶が戻ったときには両親が亡くなってから半年経っていた。 レオンがその当時の話を詳しく教えてくれた。 そして、自分が入院している病院がザフトのものだということを教えてくれた。 しかし、生きていたなら手続きを踏めば親の財産も彼女のものだし、そもそも今は死亡していることになっているから生きていることにしないと生活出来ない。 そんな話を聞いて彼女はそのまま・は亡くなった事にした。 この戦争の中だから新しい人生を歩むことはそう大して難しくない。 自分が治療された病院がザフトの機関だということに興味を持ち、そしてザフトへの道を選んだ。 自分ひとりで生きるにはいちばん良い場所だと思った。 女性でもザフトに入れることは知っている。 けど、全くの別人であることを選んだ。そのときは何も理由はないと思っていた。 でも、最近は思うようになる。両親との思い出の重さに耐えられそうにないと心がそう判断したんじゃないのか、と。 髪は自分で切った。 レオンが回診に来たとき、驚いた。 自分の考えを口にすると彼は「正直、勧めたくない人生だな」と眉間に皺を寄せてそう言った。 だが、本人がそう言うなら、とアカデミーに入学するための書類を書いてくれた。身元保証人にもなってくれた。 何故こんなに優しいのかと聞いてみた。 「女の子を泣かせたくないからね」 ウィンクをしながらそんなことを言われて困惑した。 男として生きるって決めた人間にそれはないだろう、と。 ついでに、名前もレオンが考えてくれた。将来、自分の子供に着けようと思った名前のひとつだ、とか言いながら。 それから、アカデミーに入ってからもレオンの計らいで偶然一人部屋になったし、後は何とか自力で危険は回避して。 卒業するときには赤を着ることができた。 そして、自分の、・の存在を知る人物が少ない地球への配属を希望した。 配属先は希望通り地球だったが... 「バルトフェルド隊長はオレの父の教え子だった」 遠い目をしてが言った。 「ああ...」 その心境を悟ってニコルは相槌を打つ。 それから、バルトフェルド隊では彼が計らってくれて無事に過ごすことができていた。 「で、今回のこれですか」 大変だったなーと言った感じにニコルが確認する。 「そう。流石に『精鋭を、』って言われているのに赤を出さないわけにはいかないって言われて。でも、配属された日に突然“・”の名前を出されるし。結局ばれるし... こんなことなら、レオンさんに言われたとおりカラーコンタクトを入れておくべきだったなーって。あれ、寝ているときにエマージェンシーが掛かってコンタクトを入れてって手間だからってやめたんだけどな」 なるほどな、と納得しながらもニコルは気になることが1つだけあったので聞いてみることにした。 「レオンさんって、ザフト基地内の病院に勤めていらっしゃるドクターですか?レオン・エルスマン」 「あー、確かそうだったかな。オレがアカデミーに入ったときに異動になったって言ってたから。知ってるのか?」 以前届いたメールにそう書いてあった気がする。だから、配属が決まってから直接会ってお礼を言ったりの挨拶が出来なかった。向こうが無茶苦茶忙しかったみたいだから。 「ええ、ついこの間。知り合いの子が今彼の治療を受けているんです」 クルーゼ隊で負傷した誰かかな、と思いながら「へぇ...」と返しておいた。 |
桜風
09.7.1