| 作戦当日。 の表情が硬いことをニコルは気がついた。 「どうしたんですか?」 「何が?」 「表情が硬いですよ。何か、心配事ですか?」 今日の作戦はジブラルタル付近の戦力も終結させるものとなっている。 砂漠からもバルトフェルド隊が出てくる。 たぶん、例によって砂漠に残るのはダコスタだろうな、と思いながらも嫌な予感が頭の中を占めていた。 作戦は海からと陸からの両方からの攻撃となっている。 は未だに暫定的にクルーゼ隊であるため、海からの攻撃部隊になっている。せめてバルトフェルド隊に戻れたら相談できたのに、と思いながらも取り合えず隙を突いてバルトフェルド隊に合流したいとも思った。 作戦開始時間、たちは出撃した。 ディンを駆るに隊してグゥルを使用して制空権を手にすべく空を駆けるGシリーズ。 ふと、黄色いバクゥが目に入った。 隊長機がこんな最前線に出てきている。 はバクゥの傍へと向かっていった。 『やあ、。そろそろ僕のコーヒーが恋しいと思った頃じゃないのか?』 隊長の方から通信をいれてくれた。以前使っていたコードはもう使えなくしているのか、変わっている。 「コーヒーは別に何も」 そっけなく返すの言葉にバルトフェルドは声を上げて笑った。 『そうか。それは仕方ない。で、どうした?』 陣形があるだろうに、それを抜けてきた理由を問う。 は先日の潜入捜査のときに見たクルーゼの行動とそのディスクの中身を話した。 『ふぅむ...それは、きな臭いこと極まりないな。誰かに言ったのか?』 「いえ、クルーゼ隊長の行動はバディを組んでいたパイロット供に目撃しましたが、ディスクについては何も。士気に関わる可能性も否定できませんでしたから」 その言葉にバルトフェルドは喉の奥で笑う。 慎重なのは良いことだ。 『作戦域からいつでも脱出できるところを取っていろ。もしかしたら、この作戦も漏れている可能性が高い。生きてこそ、だ』 「了解しました」 そんな通信をしていると 『!』 と通信が入る。 『陣形を思い出して!』 ニコルからだ。 「悪い。今戻る」 そう返してモニタに映るバルトフェルドに敬礼をし、その場から離れた。 「ああ、嫌な予感がするねぇ」 自分の可愛い部下の表情を目にしてバルトフェルドはぼやいた。 しばらく混戦が続き、そんな中予想外の方角からの砲撃がある。 一瞬、陣形が崩れたが立て直す。 しかし、完全に裏をかかれている。 逃げるも攻めるもどうしようもできない絶妙な場所だ。 やっぱり漏れていたか... 此処まで綺麗に奇襲を掛けられるとそう思うのが自然だ。 『!』 「ニコル、此処はオレに任せろ。アスランたちにもそう伝えてくれ。補給して来い」 はそう言ってスラスターを全開にして敵機の中へと向かっていく。自分は少し前に早めに補給をしている。 「!待ってください!!」 そう言ってニコルがを追いかけようとしたが、それはアスランに阻まれた。 はテキストでアスランたちに撤退するようにと伝えていた。 地上戦での機動力ではのディンのほうが自分たちの機体よりは上だ。 「アスラン、待ってください。ひとりじゃ無理です」 「あいつが言い出したんだ。無駄死にする気か!」 「は..は僕が守るって約束したんです!」 「あいつは死なない。そうだろう。癪だけど、俺たちの中でいちばん強かった。今は撤退するんだ!」 「少年の言う通りだよ。はうちのエースパイロットだからね。簡単に死んでもらっては困るんだ。とにかく、君たちはそろそろ補給も必要じゃないのか?」 不意に入ってきた通信に少年たちは言葉を失った。それは、砂漠の虎と呼ばれるの所属していた隊の隊長だ。 それでも、ニコルが納得しないため 「では、これは命令だよ。母艦に戻って補給を受けたまえ。どうせ、此処のしんがりは我々が命じられるんだから。が先走ってしんがりを努めているだけだ」 と命令した。 他の隊長に命令されたイザークたちは少しムッとした様子だったが、それでも上官の命令は絶対だ。 彼らは敬礼をしてその場を後にした。 バルトフェルドの言ったとおり、この場からクルーゼ隊、ホーキンス隊は撤退することになった。 そして、その援護を行うのはバルトフェルド隊だ。 「・は...!?」 珍しくニコルが隊長に声を荒げる。 「現時刻を持って、・はバルトフェルド隊に所属となった」 「待ってください!」 「これは、本部の命令でもあるのだよ、ニコル」 そう言ってブリーフィングが終わり、ニコルはモニタを見た。 戦局は何度見てもこちらが不利だ。 バルトフェルド隊のお陰もあって速やかに撤退することが出来た。 そして戦争の舞台は宇宙へと変わっていく。 どうしてものことが諦めきれないニコルだったが、それでも彼女は一度奇跡を起こしている。 だから、今回もそうなるかもしれない。 そんな根拠のかけらもないただの自分の希望に縋り、そのまま終戦を迎えた。 戦争がひとまず終結し、すぐに戦死者の照会をした。 しかし、その照会結果に・の名は無かった。 ああ、それだったらまた会える。 そう思ってニコルはとの約束の場所へと足を運んだ。いつも夏にしか来ない別荘で数ヶ月生活した。 「MIA..ですか?」 「ああ、そうだ。先ほど本部に行ったんだが、俺も聞いたときは信じられなかったが、は...」 レオンの言葉にニコルはすとんと床に座る。 「ニコル!?」 アスランが駆け寄り、言葉を掛けるがそれに反応を見せない。 「そんなはずがないですよ。だって、一面の花が咲く草原で再会したいって、そう話したのはなのに...」 「ニコル...?」 ディアッカがニコルの肩に手を置くと、それを乱暴に払う。そのまま病院を駆け出そうとしてレオンがその腕を掴む。 ニコルを固定して首に何かを打った。 「兄貴?」 「鎮静剤だ。少し休ませよう」 そう言ってレオンはニコルを抱えて空いている診察室へと向かった。 先ほどのニコルの表情が頭から離れない。 いつも優しく微笑んでいる彼の顔から表情が消えた。全てを失ったものの顔になった。 「本当に、って...」 「でも、混戦中だったからどっかで生きてて連絡取れないだけってコトは...」 「MIAだろう?つまりは、そういうことだろう」 1ヶ月も一緒に居たわけではない。 だが、年が近いということもあり、何となくつるむことが多かった気がする。 「ニコル、大丈夫かな?」 「...何とも言えないな」 誰かを失うということを知らないでもない彼らは口を噤んだ。 |
桜風
09.11.1