Flower garden 19





「起きたか」

目の前に現れた顔に驚いた。だが、体が言うことを聞いてくれない。

「動かない方がいい。内臓を傷つける」

何のことか分からない。

「君は今、死んでもおかしくないくらいの負傷をしているんだよ。でも、生きている。いい子だ」

「隊..ちょ」

か細い声で自分の頭を優しく撫でる人物を呼ぶ。

「クルーゼ隊は我々のお陰で無事に逃げ延びた。それが心配だったんだろう?」

それを聞いてまた目を瞑る。

酷く疲れた。



モニタには白衣を着たドクターが映っている。

「久しぶりだね」

バルトフェルドが声を掛けると

『まあ、な。で、どうした?』

と用件を促された。

を少々預かってくれないか?」

久しぶりに聞いた名前にドクターが驚いたように眉を上げる。

『あの子がどうかしたのか!?』

「もう一度、選ぶ機会があっても良いんじゃないかと思ってね」

バルトフェルドのその言葉に言いたいことを理解したドクターは頷いた。

『いつ帰ってくる?』

「今はまだ寝ているんだ。とりあえず、本国に帰れるくらい体力が回復したら連絡をする」

バルトフェルドの言葉にドクターは頷いた。




「おはよう。そして、お帰りなさい」

次に目を開けたときには別の懐かしい人物の顔があった。

「おはようございます。ただいま、じゃないかもしれませんが戻りました」

そういうと頭を優しく撫でてくれた。

「アンディ、呼んでくるわ」

そう言って彼女が出て行った。

腕を上げようとしてその腕が上がらない。

あー、無茶のしすぎか。

納得しながら思い出す。クルーゼ隊は無事に撤退をした、と。

ああ、良かった。


暫くするとドアが開いて微かなコーヒーの匂いと供にバルトフェルドが入ってきた。

「どうだい、調子は」

「良くないん、でしょうね」

よく分からないというのが本音だ。

「ふむ。とりあえず、君は本国に帰すことにしたよ」

「...分かりました」

今の状況では使えないパイロットだ。体を治して、また地球に降りてくればいい。

そんな事を思っていたが、「もう戻ってこなくてもいい」とバルトフェルドが言う。

は目を見開いた。

「体が、傷が治ったらまた戦えます」

「君は、戦わなくて良いんだよ」

「言っている意味が分かりません」

が食い下がる。

此処の居場所が無くなったら、もう自分は何処にもいられなくなる。

「覚えているか?君があの戦闘のあと最初に目を覚ました時の事を」

何を言いたいのか分からない。は頷くことを躊躇った。

「僕はね、最初“”と呼んでいたんだよ。の名前を呼んで目を覚ましてくれ、とね。でも、君は中々目を覚まさなかった。だから、“”と呼んでみた。君はすぐに目を覚ました。つまりは、そういうことじゃないのかね?」

「偶然です!」

「まあ、そう頑なになることはない。つまり、僕はもう一度考えてみてはどうかと言っているつもりだよ。空でゆっくり療養したまえ。そして、また戻ってきたかったら“”として戻ってくればいい。ザフトのパイロットとして。
けど、“”が戻ってきてもいい。行く場所がないから、ザフトのパイロットとして“”が戻ってくるというのなら、“”の居場所を作ってあげよう。どちらも君が選べる」

バルトフェルドの言っていることを考える。

今更、は無いだろう...

だが、バルトフェルド以外にそれを受け入れてくれた人物が居たのも事実だ。

「まあ、君は一度空に戻る。これだけは今のところ決定事項だ。君がとして生きたいと思ったらドクターに言いたまえ。レオン・エルスマンが君についてくれる」

「ドクターと、お知り合いなんですか?」

が驚いて言うと

「僕の幼馴染だよ。お互い、貸し借りのある中だ。ある程度の無理は聞いてくれる間柄だ」

実際、を受け入れてくれと頼まれて受け入れた。

しかし、の正体は教えてもらえていなかった。だから、目の前に彼女が現れたときには驚いたのだ。

面倒ごとを、とも思ったが、それでも多少は嬉しかったのも事実だ。


は空に帰った。

医療機関で治療を受けながら終戦を迎えた。

レオンはもうひとり、少女の担当もしていた。彼女は、と同じ年だと聞いた。

話してみたいとも思ったが、少し話をするのが困難で、それを今治療しているらしい。なので、まだ今は無理をさせられないからリハビリで言葉を発する以外は控えさせたいと言われた。

じゃあ、いつか話してみたい。どうやら、クルーゼ隊の彼らと仲が良いみたいだから。



入院中に終戦を迎えた。少し拍子抜けと言う感じはあった。

自分はもう兵士として必要ないのかとも思ってしまう。そうなったら居場所が無い。

しかし、メールが届いた。

『君が空に上がる前に言ったことは今でも変わらないからな』

そんな内容のそれだった。



ニコルたちが彼女のお見舞いに来たとき、危うく顔を合わせるところだった

以前、の事を聞かれたとレオンに言われた。

そのとき、自分が頼んだ。「MIAにしておいてください」、と。実際、バルトフェルド隊でもそんな措置だ。

だが、その話を聞いたニコルの表情を見てしまった。

そして、思い出した。

自分が、“”が生きていたことがわかった彼は自分を嬉しそうに泣きながら抱きしめたのだ、と。

その日の晩、回診に来たドクターに告げた。

「先生、“”は死にます」

ぎょっとした表情をしたドクターだったが、「バルトフェルドにそう伝えよう」と頷いてくれた。

ただ、病室を出るとき「死ぬ方じゃなくて、生きる方の名前を言いなさい。驚いたじゃないか」と苦笑して一言言った。

そう言われれば、そうだ。

翌週、は地球に降りた。









桜風
09.12.1