| 「ハーイ、お兄さん。私を雇ってみない?」 戦争が終わり、オーブに留学していたイザークに突然そんな言葉でナンパをする人物がいた。 勿論、イザークはその言葉に一瞬だけ呆気に取られたがすぐにそれは見なかったことと処理して足を進める。 「待って。ちょっと...!」 変な言葉でイザークに声を掛けた彼女はイザークの腕を引っ張る。 彼女の腕を振りほどいても良いのだが、生憎と現在両手で荷物を抱えている状態でそれが叶わない。 「何だ、貴様」 「お?“貴様”ときましたか?」 彼女は楽しそうにそう返した。 イザークは深く息を吐く。 「間に合ってる」 「嘘ね!」 イザークの言葉に彼女はビッと指をさして自信満々にそう言った。 彼の眉間に刻まれた皺が一層深くなる。 「あなた、一人暮らしでしょ?しかも、まだホヤホヤ。違う?」 違わない。 イザークは先の大戦後悩んだ末に一度退役した。 軍人として国に尽くすことはこの先も出来るが、学生として勉学に勤しむのは今しか出来ないことだと思ったからだ。 そして、せっかくプラントと地球との国交があるのだから、とオーブのカレッジに留学したのだ。 他の国も考えたが、母がオーブ以外はダメだといって聞かなかった。 確かに、まだナチュラルとコーディネーターとの間には簡単にはなくならない確執がある。 だから、元々コーディネーターに対して確執を持たないこの国ならば、と言われた。 別に親の承諾等はもう必要ないが、それでも、あまり心配は掛けたくない。 とても親孝行なのだ。 そんなこんなで地球に降りて早1ヶ月。 1ヶ月はあっという間だった。 あっという間だったが、慣れない家事がそれはもう大変だった。 食事は何とか口に出来るものが作れたが、それ以外は本当にどうして良いか分からず適当だった。 「何故、そう思うんだ?」 彼女の言葉が不思議でイザークが言う。 「シャツのアイロン掛け。まだ皺が残ってる。まだアイロン掛けをしなれていない証拠。それに、その買い物。食材でしょ?結構日持ちしそうなものが多いから、数日分まとめ買いね。でも、ほら、缶詰やレトルトが多い。食事を作ることが苦手。そして、野菜の1袋単位の量が少ない。一人暮らし用にストアに並べられているそれの量だわ」 どう?と得意げに彼女は言い切った。 そして、再び言う。 「私を雇わない?良い家政婦になると思うわ。家事全般正直得意なの」 変なキャッチセールスに捉まったと思っていると、イザークが持っていた荷物の半分を取り上げられた。 「おい、こら」 「私、・。よろしくね」 にこりと微笑み、彼女は足を進める。 「待て、おい」 「って呼んでもいいわよ。その方が分かりやすくていいわ」 「だから、待てと言ってるだろうが!」 イザークが半分切れている状態で彼女の腕を掴む。 さらに怒鳴ろうとしたところで周囲の視線が気になった。というか、いつの間にか自分たちを囲っていたギャラリーの声が耳に入ったのだ。 「あら、痴話げんかかしら?」 「彼女を乱暴に掴んで...」 「あの子可哀想...誰か止めてあげてよ」 そんな声が聞こえる。 これ以上此処で彼女を責めると自分の立場が危うい気がしてきた。 「酷い!私の事は遊びだったのね!!」 ベタな!と思いつつも周囲の自分を見る目が一層厳しいものになってくる。 仕方ない、と思いイザークは彼女の腕を掴んで前を歩く。 彼女はそのまま何事もなかったかのようにイザークの後ろをついてきた。 周囲からは「良かった、仲直りしたんだ」といった雰囲気が漂い始める。彼女の思惑に簡単に乗せられた自分が情けない。 「ね、名前教えてよ。私だけ教えてるのってフェアじゃない気がするんだけど...?」 何がフェアだ、と思いながらも生来の素直さがここで出てしまう。 「イザーク!」 チラリと振り返って彼女を睨み、怒気を孕んだ声で返した。 「これから、よろしくね」 は先ほどと同じ笑顔を浮かべて早足で歩くイザークの隣を同じく早足で着いて歩いた。 |
桜風
09.1.2
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