Liar 2





イザークの現在の住まいであるマンションまで辿りついた。

こちらでは1LDKの部屋を借りている。

学生の身分ならワンルームだろう、と友人に言われたが、生憎そう言った部屋は既に埋まっており、やっと見つけた物件はカレッジに通うのにもの凄く不便だった。

一応、学生になる前は働いていたし、さらにその給金を使う時間がなかったため貯蓄はそれなりにある。

だから、オーブでは1LDKのこのマンションで部屋を借りることにしたのだ。


ロックを解除してドアを開ける。

イザークは無言で自分の部屋に入り、も「おっじゃまっしまーす」と上機嫌に一言呟いて部屋の中に足を進める。

彼女が持っていた荷物は途中でイザークが奪い取っている。

だから、彼女を追い返しても良かったのだが、何となく流されてしまった。

「わーお、中々...」

彼女は部屋の中を見て呟いた。

「片付いているだろうが」

不機嫌にイザークは返したが、

「“まとめてる”ってところね。片付いているとは言いがたい」

自信満々に彼女が言った。

「でも、」と言っては部屋の中を見渡して「本当に一人暮らしなんだ?」と呟いた。

「さっき、自分がそう断言しただろうが!」

イザークが怒鳴るとは肩を竦めた。

「あれは、殆ど推測の域を脱していなかったの。というか、希望的観測8割だったのよね」

騙された...

何となく脱力しているイザークを視界の隅に留めながらもはキッチンに向かった。

「コーヒーは?」

「...さっき買ってきた」

ケトルを火に掛けながらそう聞くにイザークは大人しくその在り処を口にする。


カチャカチャと食器の音がしてやがてケトルがけたたましい音を立てそれはすぐに消えた。

暫くして香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。

自分を落ち着けるには丁度いいその香りを今はよく味わいたい。

「勝手にマグ使ったよ」

そう言いながらはイザークにコーヒーを渡してくる。

「ああ」と短く答えながらイザークはそれを受け取った。

口をつけて少なからず驚く。

美味しい。

オーブに降りてきてからはこれと同じ豆のコーヒーを飲んでいる。

どこかの誰かさんみたいに豆に拘るつもりはない。学生という身であるため、あまり高価なものは購入していない。だから、自分が口にするコーヒーの味も実家にいた頃に比べれば落ちた。そう思っていた。

だが、今口にしているこれは何だ?

実家で飲んでいたものと同等以上の味だ。豆は比べ物にならないほど安価だと言うのに。

目の前に座っている彼女は当たり前のようにコーヒーを口にしている。

「どうやって、淹れた?」

不意に声を掛けられたはきょとんとしたが、すぐに満足そうに笑い、「企業秘密です」と言いながら人差し指を唇に当てた。

イザークは溜息を吐いて「で?」と言う。

は首をかしげた。

「何で、家政婦なんて言い始めたんだ?オーブの人間だろう?そうでなかったら、目的があってこの国に来たんじゃないのか?」

面倒くさそうにしながらもちゃんと言葉を口にし、会話をしてくれるイザークには内心感謝をしている。

素晴らしく、面倒見のいい人だ。

「あー...帰る場所ないのよ。で、自信が有るのは家事全般。だから、住み込み家政婦さんが私に一番適した職業だと思うのよね」

何か変な条件つけたぞ...!?

「待て」

思わずイザークが手を上げてそういう。

「はい、イザーク君」

学校で教師が生徒を指名するような声音でがイザークを促した。

「“住み込み”だと!?」

「イエース。ワタシ、カエルバショアリマセン。オイテクダサイ」

何故か片言になってそういう。

「おちょっくてんのか、貴様」

こめかみに青筋がきっと立っている。前髪のお陰で見えないけど、きっと間違いない。

そんな表情を浮かべてイザークが問う。

「いいえ。おちょくりではなく、本気。お願い!」

は顔の前で手を合わせて目を瞑った。

そのままの姿勢で彼女は動かなくなった。

どうしたものか、と思っていたところで窓の外が突然暗くなったかと思うと豪雨となった。

イザークが眉間に皺を寄せて不思議がっているとは慌てて

「洗濯物、取り込まないと」

とイザークに声を掛けながらベランダに向かう。

イザークも彼女の言葉でその存在を思い出し、慌てて立ち上がる。

丁寧だが、すばやく洗濯物を取り込んだ彼女がベランダから戻ってきた。

イザークに取り込んだ洗濯物を渡して、自分はベランダの入り口に立って服についた水滴を払っている。

イザークはタオルをの頭に向けて投げた。

ぽすり、と柔らかい布の感触に驚いては頭に手をやり、タオルを手にとって振り返る。

「これが原因で風邪を引かれたら堪らんからな」

そっけなくイザークは言い、は嬉しそうに微笑んだ。









桜風
09.1.2


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