| 「そういえば、イザークって学校で何を専攻しているの?」 今更だけど、という言葉を添えてが問う。 本当に今更だな、と思いながら「民俗学だ」と返した。 その言葉にの表情が一瞬だけ固まった。 「イザークはなんでエレカなんて持ってるの?」 「質問ばかりだな。こちらに知り合いがいてな。要らんと言ったんだが、まあ貸してやるとか言って。仕方ないから借りてやってるんだ」 イザークの言葉には小さく笑う。 借りているのに何でそんなに尊大なんだろう? 「でも、こういうときは便利だよね」 そう言って後部シートを見た。 組み立て式の小さな棚をひとつ購入した。もっといいものを、とイザークが言ったが、はこれが良いと言うのでイザークもそれに従った。使う本人が気に入ったと言うのだから、それでいいのだろう。 車を運転しているとオーブに降りてきて足しげく通っている古書店の前を通りかかる。 「少し、待っててくれ」 そう言ってイザークは車を降りた。 不思議そうにはその背を見送っていた。 暫くしてイザークは手ぶらで戻ってくる。 「買いたい物があったんじゃないの?」 が不思議に思って聞くと 「いや。ずっと探している本があるんだけどな。一応、店主にもそれが見つかったら教えてくれって話しているから確認してきただけだ」 「ふーん」と興味なさそうには呟いた。 「イザークって何で民俗学なの?理系ってイメージあるけど」 「まあ、理系も好きだし得意だな。ただ、興味があるのは民俗学だ」 「どうして?」 チラッとイザークがを見る。 「嫌いなのか?」 「特にこれと言って特別な感情を持っているわけではないけど。でも、民俗学って要は庶民の歴史でしょ?」 「土着の、まあ。そうだな」 イザークは頷いた。 「昔は宗教とかあって、さらにそれが原因で戦争とか起こった」 「その通りだ」 「今は宗教がないでしょ?そりゃ、小さなと言うか、ささやかなものはあるけど。世界中にその信者が存在するっていう大きなものはなくなった。昔の事ばかり習って楽しい?例えば、バレンタイン。今のオーブでは、女の子が好きな人にお菓子をあげるっていうイベントになっているけど、本来はそうじゃなかったんでしょ?クリスマスだって、宗教的意味を持ったものだったのに、今ではケーキを食べる日だわ。それに..」 彼女は指を折って色々な宗教に関わる行事を口にする。 今では形式なものだとか、ただの商業的イベントだとか。そういうものになった。 「...詳しいんだな」 独り言のように続けているの話はイザークも興味深く聞いていた。 「もしかして、学んでいたのか?民俗学」 「ううん。ただ、まあ。昔、本を読んだから」 の言葉に「そうか」と返した。 「オーブには“お守り”があるだろう?」 「あるね。色々と種類が。信仰神は、一応ハウメアだけなのにね?」 「結局全くなくなるものではないんだよ、宗教って奴は。何らかに形を変えて結局残る。自分の力が及ばない領域の事はもう神に祈るしかないからな」 「...沢山祈っても、助けてくれる神様なんていないのにね」 「何か言ったか?」 微かにの声が耳に届いた。内容までは聞き取れない。 「言ってない。風の音じゃないの?」 窓を開けているから、そうだったかな?と何となく納得してイザークは気にせずに車を走らせた。 家に帰って棚を組み立てる。 がそれをしようとしたが、イザークに取られた。暇だから自分がやると言い出したのだ。 じゃあ、その間にお茶請けでも作りましょうとはキッチンに立つ。 「ある程度の事が出来るのに、家事は微妙なんだね。実家にはメイドさんがいたの?」 手際よく組み立てられていく棚を眺めながらが呟いた。 「まあな」 正しくはメイドさん“たち”だが、そこは一々訂正するつもりはない。意味がないことだし。 「じゃあ、メイドさんに感謝だ」 の言葉にイザークは「何故?」と返す。 「だって、イザークが家事を苦手としているお陰で私がこうして生活できる場所を確保できたってことでしょ?」 なるほど、とイザークは苦笑した。 「まあ、それ以外はそれなりに自分でしなくてはならないところにいたから出来るんだけどな」 「...軍。ザフト、とか?」 の問いかけにイザークは驚いて彼女の顔を見る。 「言ったか?」 「いいえ、当てずっぽう。勘ですよ」 は返して苦笑した。ああ、本当に正直者だな。 「...まあ、そうだな。ザフトに所属していた」 「辞めたの?」 「戻る気はあるけどな。だが、学生は今しか出来そうにないから。とりあえず本国の方が落ち着いているし。...俺は、自分がコーディネーターっていうことは話したか?」 すぐにザフトという単語が出たということは、彼女は自分がコーディネーターだと言うことを知っているはずだ。 「いいえ。聞いてないわね」 首を振っては笑う。 「でも、そんだけ整った顔をしているのよ?コーディネーターじゃなかったらかなりムカつくでしょ?」 イザークは言葉を返さずに肩を竦めて終わらせた。 |
桜風
09.1.30
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