| 少しずつ、イザークの家にの物が増えていく。随分とそれらしい生活空間となってきた。 「明日は、学校が休みだから。...もお参りに行くのか?慰霊碑とか」 昔、と言っても数年前だが。オーブは戦場になった。 その戦争で沢山の人が亡くなり明日が慰霊の日となっているので学校も休みになっているのだ。 はオーブの国民であるからそういうのを気にしているのかもしれない。 「まあ、一応」 歯切れ悪く彼女は言った。 「車、出してやろうか?まあ、明日はどこも交通量が多いかもしれんが。楽だろう?」 イザークの言葉に「ありがとう」と言っては断った。 「お休みだけ頂戴。夕飯はちゃんと作るから」 「まあ、それは別に構わんが...」 不思議に思いながらの言葉にイザークは頷いた。 しかし、この日をオーブは国として休日とし、多くの死を悼む日としていたことをイザークは知らなかった。 オーブの国土が焼かれた日は明確に覚えていなかった。これくらいの季節だったな、と言うくらいしか記憶にとどめていなかった。 恥じるようにに話すイザークに彼女は苦笑した。 「そういうもんよ。痛い目に遭ったほうはいつまでも覚えているけど、それ以外の人はけろりと忘れている。この間言ったでしょ?バレンタイン。きっとプラントは慰霊の日として人々は浮かれ騒ぐことなんてしないでしょ?けど、地球の国家であるわが国ではちょっとしたお祭りよ。それに対してイザークは何か物申したい?」 「別に。確かに、そういうものか」 国の首長たちが浮かれ騒いでいたらそれは外交的にどうかと思うが、全ての国民が一々他国の慰霊の日に反応するというのは、中々ないし、それを望むのは無理な話だと思う。 しかし、そうは言っても、自分は議員もしていたことがあるし。 当時は覚えていたが、今は忘れている。 少し情けないと思った。 よく朝早く、は家を出た。 車や交通機関を使えば早く移動できるが、歩きたい。 海岸線をゆっくりと歩いた。 昔、家族で見た風景を思い出す。自分の記憶にあるそれと重ねても、あまり変わらない。 オーブには慰霊碑が沢山ある。 その中で、は普段人があまり足を運ばないところに向かった。 予想通り、誰もいない。 それはそれで、寂しいものだと何となく思って苦笑する。 この近くで父が死んだ。 MSの戦闘があって、流れ弾が山を抉って。 優しい父だった。 学者で、温和で。学校では分野の違う教授も彼の事を慕っていた。人柄だ、と父の同僚が言っていた。 父の書いた論文はいつも一番に読ませてもらっていた。 沢山知らないことが書いてあり、それを知るのが楽しかった。 自分がカレッジに進学するとき、学科を悩んだが、結局父の研究とは少しかかわりがあるが、そのものは選ばなかった。 沢山、学びたいものがあった。 ヘリオポリスがザフトに襲撃され、そのままシャトルに乗って地球に降りた。 そして、オーブで生活をしていた。 とても、平和な日常を送っていた。 地球軍がオーブに無理難題を突きつけてきたと首長が声明を発表したときに知った。 そしてすぐにオーブは戦場になった。 父はそれでいいと言っていた。 多くの国家が存在する中でひとつくらい、こんな国がないと戦争は終わらないと言った。 やがて、戦争は一旦終局を迎えた。 その景色を父が見る事はなかった。 足音がして振り返ると花束を抱えた少年と、隣には少女が立っていた。彼らは“少年”や“少女”、というには少し大人かもしれない。 「あの、」と彼が言う。 「参拝かしら?」 慰霊碑の前に佇んでいたは彼らのために場所を譲る。 彼らはそれぞれ祈りを捧げる。 「あの、何でここに?」 彼が言った。 「...此処がマイナーだから、かな?」 そう言ったの言葉に、一緒にいた彼女が少し眉間に皺を寄せて不快感を示す。 だが、少年にはの言葉の裏が伝わったのか「そうですね」と短く返してきただけだった。 意外と、人が来るんだなとは感心した。 少年の肩越しに、また人が見える。 しかし、その人物の顔を見たは驚いて言葉を失った。 ラクス・クライン。現在のプラント最高評議会の議長だ。 「...、ちゃん?!」 さらに彼女の隣に立つ人物に驚いた。 カレッジで何度か顔を合わせたことがある少年、否、今は青年と表現した方が正しい、キラ・ヤマトだ。 「こんにちは」と鈴のような凛とした声でラクスが声を掛けてくる。 は頭を下げた。 何故、こんなところにプラントの代表と言うべき人物がいるのだろう。確かに、今日はオーブの行政府で慰霊式典があったから彼女が来賓として出席していてもおかしくないが... そして、彼女の隣に何故キラ・ヤマトがいるのだろう? 頭の中に浮かぶ疑問符が消えないまま、は彼女たちが祈りを捧げる姿を見守った。 |
桜風
09.1.30
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