Liar 17





カガリから話をされて以来、はまた勉強をするようになった。

イザークが居ないからホントに1日中、ずっと文献を読み漁る。

図書館の開館時間にそこへ行き、閉館時には本を借りて帰る。

そんな日々を送っていた。

勿論、天気のいい日は布団を干したり、とそちらの仕事もおろそかにはしていない。

イザークが居ない間だけ、思う存分勉強が出来るのだから...



プラントに滞在中、殆ど昔のように仕事をしていたイザークは休みの最終日にオーブに戻ってきた。

最初、プラントに上がるときには1週間前には戻ると話していたのだが、仕事の方がどうにも片付かなくて結局こんなギリギリに戻ってくる羽目になった。

途中、その連絡を入れるとの声は少しだけ寂しそうだった。少なくともイザークにはそう聞こえた。

空港からまっすぐ帰った。

玄関のドアを開けて驚く。

「何だ、こりゃ」

思わず呟いた。

「あれ、お帰り」

ドアの音がしたため、が顔を覗かせる。

「ああ、ただいま。どうした、これ」

玄関には花が飾ってあった。

花瓶なんて家にはなかったはずだ。

「フリマで花瓶を購入。花は、寂しいから買っちゃった」

そう言っては笑う。

「そうか」と言ってイザークは花瓶に挿してある花を見た。

たしかに、玄関が明るくなった気がする。

こういうのも悪くない。

実際、実家のホールには花を欠かしたことはない。大抵、庭の花を摘んで飾っていたはずだ。

「報告書です。あと、これも」

は家計簿と、イザークがプラントに上がる前に渡したカードを返した。

最初、カードを渡されたときは大慌てしたが、現金の持ち合わせがない、と言ってイザークが渡したのだ。

お陰で、はおっかなびっくり買い物をしていた。

第一、カードが使えない店での買い物が出来なくて不便だった。そういう店もまだまだ存在しているのだ。

「...そういえば、フリマでもカードは使えるのか?」

花瓶はそこで買ったと言っていた。

「ううん。現金。イザークがプラントに帰る前、私は言ったよね。『残りが少ないから』って。ゼロじゃなかったのよ」

何故か胸を張ってそういうに「そういえばそうだったな」と適当に相槌を打ちながらイザークは自室に戻った。


後ろ手にドアを閉めてそれに凭れる。

はあ、と溜息を吐いた。

何でもない、あまり実のある目的のある会話ではないが、それが今はとても有りがたい。

昨日まで相手の裏を読み、先を読み指示を出していた。

何だか、やっと肩に乗っていた重責から開放された気がする。



仕事と課題を同時進行でこなしていた自分はスーパーマンだと思う。

そんな事を思いながら課題を持って登校した。

―――はずだった。

学校に着いて鞄の中を見てもそれがない。

殆ど徹夜な毎日を送っていたから、昨日はぐっすり眠ってすっかり忘れてしまったようだ。

いつもは鞄の中身を確認してから家を出るが、今日に限ってそれを怠った。

本日17時までに提出しなければ単位がない。

授業が終わって一度家に帰って取ってきてもどうしたって間に合わない。

イザークは慌てて家に電話をした。

ああ、本当にが居てくれてよかった...


イザークから受けた電話に多少なりとも複雑な思いを抱きながらは学校に向かう。

前まで通っていた学校だ。

通い続けることが出来なくなってやめた。

けど、同じ学科を取っていた人物はまだ残っている者も少なくないだろうな...

そんな事を思いながら重い足取りで門を潜った。

イザークは構内のカフェに居ると言った。

というか、この構内にはカフェが3つくらいなかっただろうか?

時計を見ると4時前。

とりあえず手近なところと思って駆け出した。

2つほどカフェを覗いたが、イザークの姿はなかった。

見落とし、と言うのは考えられない。あれだけ目立つ銀色のサラサラヘアーを見落とすはずがない。

向こうだってずっと入り口を睨みつけているはずだ。

結局一番遠いカフェにイザークが居ると言うことだ。

時計を見て慌てた4時半。

意外と時間を食っている。

駆け出したら誰かにぶつかった。

「ごめんなさい!」

慌ててその人物を見て、は言葉を失う。

君!」

恩師、というか、父の友人の教授の一人ヒロセ教授だ。

「お久し、ぶりです」

「久しぶりだな!カイトの事は、うん。残念だった...戦争は失くすことしかない、得るものなど何一つないのに。カイトが生きていた方がよほど得るものは多い」

「終わったことです」

が静かに返した。

彼女が学校を辞めるときにも熱心に留まるように説得してくれたのが、このヒロセ教授だ。

「戻ってきたのかね?」

「いいえ。お世話になっている人が課題を忘れたのでそれを届けに」

がそう言ってイザークの課題であるレポートが入っている封筒を抱えなおす。

「そうか。あまり無理をするんじゃないよ。君はまだ子供だ。急いで大人になる必要はない。階段はゆっくり確実に昇らないと踏み外してしまうことがあるからね」

は深く頭を下げてその場を後にした。

やはり、あまり望ましい展開にならなかったな...

そんな事を思いながら、先ほどよりも強く地面を蹴ってイザークが居るであろうカフェに向かった。









桜風
09.4.17


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